第69話現実問題~ユリウス元国王(現男爵)side~

 アダマント国。

 王国ではなくなっても僕の国だ。

 国を愛する気持ちは何も変わらなかった。


 結局、帝国からの支援は望めずに帰国した。

 王国のため奮闘した。

 だが、焼け石に水。

 コロコロと変わりゆく国際情勢。

 それに取り残されるような状況の王国。


 手を差し伸べてくれるような国は何処にもなかった。



『血縁関係があるのなら兎も角、ただの貿易相手国に、そこまでする国は存在しません』


 大臣達はそう断言した。


 帝国の傘下に入った方が良い――という結論に落ち着く中、僕の心にはぽっかりと穴が開いてしまった。

 もっとも帝国は王国を属国にする事はなかった。援助する条件は当然あった。それでも驚くほど寛容な条件が提示された。


 条件は主に三つ。

 現国王である僕の退位。

 そして王朝体制の変革。早い話が王政廃止である。それによって国の名前も『アダマント王国』から『アダマント国』に変更された。王を必要としない政治体制へのシフトだ。

 ただ、廃止されるのは国王だけ。貴族階級はそのまま存続するし、貴族制の廃止や財産・権限の委譲もなされなかった。ただ、王政からの共和制への移行を認められた。それだけだ。

 嘗て僕が留学していた国のようだと思ったが、それに比べれば平和的なものだった。

 政治の要は以前と同様に大臣達が取り仕切るようだし、国王がいない事以外は前とあまり変わっていない。ただ、帝国側から『役人』が派遣された。

 彼等が新しい政治体制を管理する事になるらしい。また王制の廃止に伴い、王政を執ってきた各省庁は別の組織として分離して設立された――という説明を受けた。

 少しの間だが彼らが優秀な人材である事は理解出来た。


 そして最後に僕。

 僕の扱いをどうするか。それに揉めるだろうと思っていた。

 なにしろ、最後の国王だ。幽閉か、それとも斬首か。そのどちらかだと考えていた。


 僕の予想は外れた。

 それが良いのか悪いのかは分からない。

 ただ、僕の父上の子供では無かった。

 王家の血を一滴も引かない紛い物。


 だから生かされている。


 周囲の者達――この場合は大臣や高位貴族になる。彼らは驚くことはなかった。どうやら薄々気付いていたらしい。それでも彼等は『王家』という肩書きを大事にしていた。紛い物の王を即位させたのだ僕自身を厳罰に処すだろうと思っていた。

 しかし、僕の考えとは裏腹に彼らは僕に対し何も要求しなかった。



 僕は『男爵』になった。

 領地に行く馬車の窓から見える風景。僕はその光景を生涯忘れないだろう。そのくらい衝撃的だったのだから当然だと思う。僕の国と帝国との違い。繁栄を約束されたかのような帝国と、衰退して滅亡一歩手前の我が国。そして民の絶望に満ちた目。何もかも対照的だった。



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