【完結】不協和音を奏で続ける二人の関係

第57話婚姻問題～大臣side～

「陛下……本当なのですか？侯爵家の御令嬢に『気持ち悪い笑みを浮かべるな』と言われたというのは……」

　私は思わず陛下を見つめてしまった。

「ああ、事実だが？それがどうした？」

　陛下は不思議そうな顔をして私を見た。

「……いえ、別に」

　まさか……とは思うが、本当に自覚がないのか？

「何か言いたいことがあるならはっきりと言え！」

　私の態度が気に食わなかったのか、陛下は眉根を寄せた。

「……では言わせて頂きます。……陛下、女性に対して言う言葉ではありません。ましてや相手は高位貴族の令嬢です。もう少し言葉を選ばれては如何ですか？それに、いくら何でもその言い方は酷すぎます。陛下のおっしゃられた事は、立派な侮辱です」

　陛下は不快だとばかりに鼻を鳴らした。

「フンッ！……議会であの女を王妃にどうかと言っていたのを聞いたぞ。だから挨拶をしただけだ。それなのに、この僕に向かって『そのような話は父から聞かされておりません。陛下の勘違いではないでしょうか？一度、お付きの方に確認された方が宜しいかと存じ上げます。私に言われても困ってしまいますわ。陛下、御冗談はその辺にして下さいませ』……などと言ったのだぞ？それに『あのような顔だけの男、こちらから願い下げですわ』とコソコソ話しているのも聞いたんだ」

　陛下の顔がみるみると不機嫌になっていった。

　女性の陰口に一々目くじらをたてるのは如何なものか？ 陛下だって人の事など言えないではないか。

　確かに、陛下は美しい容姿をしている。だが、それを言うなら陛下の母君は絶世の美女だ。それに母君に似てとてもお綺麗なお方でもある。

　まぁ、陛下の場合、気難しい性格が災いしてか、あまり女性には好かれてはいないのかもしれない。

「扇で口元を隠して忍び笑いをする女達にはもううんざりだ。……高位貴族の女は皆同じだ。不気味な笑いなんてあの女を彷彿させるじゃないか！ゾワリとする。あんな気味の悪い笑顔は見たくない！……チッ！！」

　陛下は舌打ちをすると、私から視線を外した。

「陛下、もう一度申し上げます。女性が言われた事を鵜呑みにしないでください。それは陛下の聞き間違いか、思い込みの場合もあるのですから」

「ふんっ！僕の言う事が信じられないと言うのか！？」

　陛下はギロリと睨んできた。

「そうは言っておりません。ただ、聞いていなふりをなさるのも大事だと申しているだけです」

「………………」

「陛下……」

　私が溜め息をつくと、陛下はハッとした表情をして、バツが悪そうに目を逸らされた。

「…………この僕に花嫁が来ないと噂になっているらしいな」

「はい。社交界でも囁かれているようです。ですが、所詮は噂です。気にする必要はないと思われますが？」

　陛下は腕を組み、足を踏み鳴らしながら歩き出した。

「そんなこと分かっている！」

　苛立たしげに怒鳴ると、私の前を通り過ぎていった。