第54話産業問題~ユリウス国王side~


 これはどういうことだ?


 僕の知らない所で何が起こっているんだ!? 僕は混乱していた。

 それを見つけたのは偶然だった。

 

 机に置かれた書類に手を伸ばした時、一枚の紙が落ちた。その紙を見た瞬間、僕は絶句した。

 そこに書かれていた内容に目を疑った。


「……どうしてこんな事が起きているんだ」


 それは我が国に関するダイヤモンド取引の内情について書かれた報告書だった。そこにあったのは、リベートを受け取った商人の名前とその金額、そしてダイヤモンドの販売価格まで詳細に記載されていた。


「まさか、こんな事に加担しているなんて……」


 信じられなかった。しかし、そこには間違いなく大臣達の名前が記されていた。

 しかも、財務大臣までも……。

 この報告書が正しいとすれば、現在、我が王国では不当な利益を上げている事になる。

 こんなことが許されていいはずがない! 僕は怒りに打ち震えた。


 許せない!!


「今すぐにでも調査しなければ!」


 幸いにもこの事は僕しか知らなかった。ここで事実を明らかにし、全ての責任を取らせなければならない。

 僕は急ぎ、宰相の元へと向かった。

 

「宰相!!」

 

「おおっ、陛下。どうかなさいましたか?」

 

「これを見てくれ!」


 僕は持っていた書類を机の上に叩きつけた。

 

「こ、これは一体……」

 

「ここに書かれていることは本当なのか!?」

 

「……はい。間違いありません」

 

「なんということだ……」


 あまりの衝撃に目の前が真っ暗になった。

 

「なぜ今まで黙っていたのだ!」

 

「黙っていた訳ではありません。今はこれが最善と判断しております」

 

「ふざけるな!」


 僕は激昂し、思わず怒鳴りつけてしまった。

 だが、それも仕方ないだろう。それほどまでにこの内容は大きな問題なのだから。


「申し訳ございません。ですが、どうか落ち着いてくださいませ」

 

「落ち着けだと!?」

 

「はい」

 

「これが落ち着いてなどいられるか!」

 

「いえ、冷静になってお考え下さい。今、騒ぎ立てても意味はありません」

 

「何を言っているんだ!?」

 

「陛下は我が国の経済状況をどこまで御存知でしょうか?よろしいですか? 我が国の現状は決して良いとは言えません」

 

「不正を見逃せと言うのか!!」

 

「今、この状況で大臣達を処分すれば、経済に与える影響は計り知れないものになります」

 

「そんなこと知るか!」

 

「いいえ、知っていただきます。我が国のダイヤモンド市場は崩壊寸前です。もし、大臣達を処断した場合、彼らの代わりに誰がこの問題を解決するのですか? 他の商人達はどう思うでしょう? そもそもの問題は何だと思われますか?大臣達が好き好んで不正を行っているとでもお考えですか?彼らも国の為に仕方なく行っているのです。そんな彼らを罰してしまえば、国民の生活はどうなりますか?民に明日のパンも買えない暮らしをしろと仰るのですか?それだけではございません。彼らは国の未来を考えた上で行動しております。確かに彼らが行った行為は許される事ではないかもしれません。ですが、それを理解した上で私は陛下にお願い致します。ここは国の為に目をつぶっていただきたい」

 

「くそっ!何故こんなことが起きたんだ!!」

 

「陛下、現実を受け入れてください」

 

「受け入れられるか!!」

 

 僕は怒りに任せて拳を叩きつけた。

 こんなバカな事がまかり通っていいはずがない!


「宰相派このまま黙って見ていろというのか?」


「はい」


「そんなことができるか!」


「では全国民に飢え死にしろとおっしゃいますか?」


「ぐぬぅ……」


「今は耐えてください」


「……」

 

 悔しい。

 だが、宰相の言う通りかもしれない。

 この場は引き下がるしかない。

 

「分かった。今回は見逃す」

 

「ありがとうございます」

 

「だが、次はないぞ」

 

「承知しております」

 

「これ以上問題を起こすな!」

 

「はい」

 

「では下がれ」

 

「はい」

 

 こうして僕は怒りを抑えながら部屋を出た。

 だが、この時、僕は知らなかった。



 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る