第32話六年前~ブリリアントside~

 ベリー伯爵夫人のお披露目会。

 それはシュゼット側妃の公務第一歩目となりました。


 貴族階級出身者が必ず身につけていなければならない社交の場での基本中の基本。これすらできないようでは側妃どころか公式愛妾としても失格でしょう。シュゼット側妃の場合、下位貴族クラスの振る舞いしか身についていません。まさに基本しかできない状態。それに加えて、教養面の知識はゼロ。この国の歴史はどうなっているのか、世界情勢は?地図は?特産品は何か?貴族の名前は? 何も知らないのです。そんな彼女が公の場で上手くできるはずがありません。結果、ユリウス王子の面子は丸潰れ。親子揃って周囲の貴族から嗤われていました。まあ、そうなるでしょうね。嘲笑している中には下位貴族の方もいたため、ユリウス王子は今にも怒りが爆発する寸前でした。国王夫妻の手前、必死に抑えていたようですがバレバレですわ。


 流石に国王陛下もこれには呆れ果て、シュゼット側妃を今後公式の場に出す事を禁じられました。無難な判断でしょう。今回は身内である国内貴族だけの夜会でしたが、これが諸外国の要人の前でやらかしてしまったらと考えるとゾッとしますもの。


 側妃落第の烙印を押されたシュゼット側妃は後宮から出られ、王宮にある離れの小さな館を与えられました。館の周囲は堀で囲まれ、出入りは一本の橋があるだけという場所でした。何代か前の国王が幽閉された場所だという曰く付きの館だと聞きます。


 世継ぎの生母としては、あまりにもお粗末すぎる振る舞いに表舞台に出すことができないという理由で、監禁同然の生活を余儀なくされました。後宮に留め置くことは他の妃や貴族達の蔑んだ眼差しで無理だと思われたのでしょう。

 

  シュゼット側妃が公から姿を消したところで公務に支障をきたす訳では無いので、すんなりと受け入れられました。側妃に昇進した時から今まで公務を行っていなかったツケでしょうね。周りが「王子を産み、心身ともに衰弱しているので静養が第一」という気遣いに胡坐をかいて学ばなかった結果とも言えます。まあ、甘やかした周囲も多少問題かもしれませんけど……。

 元より、側妃とは名ばかりで「妃の位にいる愛妾」のようなものであったため、今更、公の場に出ること自体必要ありませんし、誰も望んでいませんでした。


 しかし、ユリウス王子はそうなったのは私のせいだと仰います。私がシュゼット側妃を貶めたのだと。何故そうなるのか全く理解できません。私がいつ、どのような状況で、どのようにして彼女を貶めたというのでしょうか?



 

 ユリウス王子曰く――

 

「母上は狭い館に閉じ込められて外に出歩くこともできなくなった。それもこれも貴様が他の妃達と結託して母上の嫌がる事をさせたせいだ!」

 

「聞いたぞ?母上が貴様たちと仲良くなろうと菓子を持参したと言うのに『毒見をしていない物は口にできない』と断ったそうだな。どういうことだ!母上が毒を盛るとでも言いたいのか!!」

 

「公務?母上は他の妃達と違って大変奥ゆかしい方なのだ。表に出て男達と対等に渡り歩くような方ではない」

 

「寝室に引きこもって、毎日、嘆き悲しんでいらっしゃる」

 

「今も母上は泣いているのだぞ!可哀そうだと思わないのか!!」



 言い掛かりも甚だしいとはこの事です。

 私は事実のみを述べました。だって本当のことですもの。それにしても、ユリウス王子は何を聞いて育ったのでしょうか……とても残念な方ですね。自分の母親なのに、何も知らないのですか。いえ、知っていても信じられないのでしょうね。

 

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