第22話七年前~ブリリアントside~


 シュゼット側妃の後見人を申し出る貴族が現れました。どんな物好きな方かと思いましたわ。後見人は伯爵家。それも建国当初から続く旧家、コリンズ伯爵家です。なんでも、国王陛下直々に「頼む」と言われて断れなかったみたいです。お気の毒に。


 

「コリンズ伯爵か、兄上も考えたな」


「お父様?」


「ルキウス?」


「シュゼット側妃の後ろ盾になったのが伯爵家の者なら、シュゼット側妃は今後、それなりに遇される。シュゼット側妃の実家は一代限りの騎士爵だ。父親が亡くなれば、彼女は“平民出身の側妃”になってしまう。これは非常に不味い状況だ。生母の地位が低い事は総じてユリウス王子の弱点になりかねない。現に叔父は重犯罪者だ。縁を切ったとはいえ、ユリウス王子の立太子を面白く思わない貴族達の格好の的である事は否めない。だからこそ、しっかりとした後見人が必要だ。コリンズ伯爵家は代々文官出身の中立派。権勢のある家ではないが、その分、どこの貴族の紐付きでもない。王家にも近過ぎず遠すぎない関係を長年維持してきている。領地経営も堅実で、現当主も穏やかな人柄だ。加えて、シュゼット側妃を『成り上がりの妃』扱いしない数少ない貴族でもある。しかもだ。丁度いい具合に、伯爵には娘が一人いるだけときている。兄上にとって実に都合の良い相手だ」

 

「成る程ね。息子なら、そのままユリウス王子の側近になる可能性が高い上に次代との繋がりが強化され下手をすれば権門貴族になりかねない。加えて一人娘なら婿を取る必要性があるから側妃になることもない。コリンズ伯爵家の跡取り娘の相手を王家が仲介斡旋すれば伯爵家を王家の紐付きにできるという寸法ね。よく考えていること」


 どうやら、お母様も納得しているようです。


「ああ、王家と伯爵家双方にとって悪くない話だ。コリンズ伯爵も権力を手に入れようとするタイプではない。保守的な方だから兄上とは気が合うだろう」


「そうなのですか?私は陛下はどちらかというと開放的な方と思っておりましたわ」


「兄上は表向き改革派に理解があるをしているんだよ。その方が国王としてウケがいいからね」


「ふふっ、ルキウスに負けたくなくて一生懸命なのよ。ある意味可愛らしい国王小物よね」


「それに、コリンズ伯爵は早くに奥方を亡くしている。随分、仲の良い夫婦だったようだ。再婚する気配もないよ。御息女も聡明な少女らしいからね。兄上の事だ、婿が権門のドラ息子であったとしても上手く操縦できると見越しているに違いない」


 国王陛下はなかなかの曲者のようですね。



 数日後、ユリウス王子直筆のお手紙を受け取りました。

 嵐の前触れでしょうか?

 お礼の手紙と思しき文章が垣間見えます。

 文面からは嫌々書いている事がひしひしと伝わってきますが。なんでしょう?これは本当に感謝しているのでしょうか?

 お父様曰く「今回の側妃の件は公爵家の意向ありと噂されている。その辺りを気にしての事かもしれないね。恐らく侍従あたりが気をまわしたのだろう」とのこと。確かに一理あります。当たり障りのない返事の手紙をしたためました。その後の返事?ある訳ないです。

 



 

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