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 ―翌週、日曜日―


「ルリアン、今日もトーマス王太子殿下のメイドをするのか?」


「そうよ。いっそクビにしてくれたらいいのに『日曜日午前九時、遅刻するなよ。時間厳守だからな』なんて言われたから、行くしかないのよ」


「そんな強引な人には見えないが、よほど気にいられたんだな」


 (違うってば。嫌われてるから、ストレス発散に意地悪されてるだけだよ。)


 ルリアンはクローゼットの抽斗から下着を選ぶが、母の好みで全部アニマル柄だ。無地の下着なんて一枚もない。九月からハイスクールなのに学校に穿いていくのも恥ずかしい。一番マシな白地に小鳩の下着を取り出し、白いワンピースを掴み、浴室に向かう。


 わざわざ下着を穿き替えるのは、変な期待をしているわけではなく、全部全部あのメイド服のサイズのせいだった。


「義父さん、今日は休みなの?」


「今日はマリリン王妃は外出の予定がないそうだから、休みだよ。母さんは仕事だけどな。今日は清楚なお嬢様みたいな服装だな。お洒落に目覚めたのか?」


「そんなことないよ。一応王宮に入るから、すり切れたタンクトップと短パンで行くわけにはいかないでしょう」


「そうだよな。実は……わかったんだ」


「わかったって何が?」


「トーマス王太子殿下に『御邸宅がわかりました』とだけ伝えてくれ」


 ルリアンはトーマス王太子殿下から渡された腕時計をつけながら、タルマンに視線を向けた。


「それって……トーマス王太子殿下の御生母様の御邸宅? どうしてわかったの?」


「ホワイト王国から引っ越しに同行した運転手に酒を奢ったら、簡単に口を割った。チョロいもんだな」


「そんな口の軽い人がよく王室の専属運転手になれたね。義父さん、それ誰にも言わないでよ。またクビになって引っ越しなんて懲り懲りなんだから」


「義父さんは口が堅いから大丈夫。だが、トーマス王太子殿下には知らせてあげないとな」


 ルリアンはあんなに御生母様に逢いたがっていたトーマス王太子殿下が、これを聞いたらきっと喜ぶだろうと思った。


「いけない、もうこんな時間だ。遅刻しちゃうよ。義父さん、行ってきます」


 ルリアンはこの朗報をトーマス王太子殿下に早く教えてあげたかった。使用人宿舎の階段を駆け下り、王宮の使用人通用門に向かい警備員のチェックを受けてドアを開く。


 ドアを開けると、そこに怖い顔をしたスポロンが立っていた。


「また五分前ですか。もう少し余裕を持って来れませんか? まあいいです。今日はメイド服は不要です。そのままトーマス王太子殿下のお部屋に行きます」


「えっ? いいの? なんだ、それならモグラでもよかったのに小鳩にする必要なかった」


「モグラ? 小鳩? それはマジックの小道具ですか?」


「ち、違います。それより私のメイド服は正規品ではないですよね? あれはハロウィンの子供用の衣装では? 次からは他のメイドさんと同じ制服にして下さい」


「よくわかりましたね。トーマス王太子殿下の気まぐれで、急なご指名で他に予備のメイド服をきらしてまして、たまたま倉庫にあったのがあのメイド服でした。ルリアンさんは良くお似合いでしたよ。何かご不満でも?」

 

「それ私が子供サイズだとバカにしてます? 不満だらけですよ。あれをまた着るくらいなら、母の制服の白いエプロンの方がマシです」


「それはトーマス王太子殿下のお決めになることです。白い頭巾にエプロン、お似合いかもしれませんね」


 スポロンは無表情のままだが、明らかにルリアンは小バカにされていると思った。スポロンと使用人エレベーターに乗り込み三階で降り、トーマス王太子殿下の部屋の前に到着する。


 メイド服も嫌だが、私服もかなり恥ずかしい。ルリアンには一番お気に入りのワンピースだが、粗末な生地だしデザインはありきたりだし、王族のような立派な装いではないからだ。


 スポロンはドアをノックして開き、ルリアンに小声で注意した。


「先週のように無断外出は禁止ですからね。トルマリンはお休みですが決して車を利用してはなりませんよ」


 (それって、ふりなの? 外出しろってこと? だから今日は私服なの? まさかあの堅物なスポロンさんが許可するとは思えない。)


 室内に視線を向けるとバルコニーに続く開け放たれた窓から風が吹き込み、レースの白いカーテンを揺らしていた。

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