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―一階、事務室―
スポロンは事務室の椅子にトルマリン父娘を座らせた。
スポロンは金庫から金子を取り出し、それぞれの袋に入れ、父娘の前にどっかりと腰を落とした。
「先ほどトーマス王太子殿下は『私が彼女に嘘を強要したんだよ。二人でデートしたくてね。運転手がまさかセブンの父親だとは、予定外だったが。夕食もご馳走になった。二人には今日の賃金と夕食代も支払ってくれ。くれぐれも彼らに処罰を与えてはならぬ。よいな』とそう仰いましたが、トルマリンさんの行動が国王陛下や王妃にしれたら、このままではすまないですよ。お分かりですか?」
「はい。申し訳ございませんでした」
「ご存知ではないようなので申し上げますが、王室の公用車は全部位置情報がわかるようになってます。トーマス王太子殿下がご幼少の頃に誘拐事件が起こりそのような仕様に変わりました。危険を察知すれば直ぐさま王室警察が動きます」
「……位置情報ですか」
「本日はホワイト王国に行かれましたよね? ホワイト王国のどちらへ行かれたのですか?」
タルマンが黙っていると、ルリアンが口を開いた。
「トーマス王太子殿下が田舎者の私の出身地を見てみたいと仰られ、極秘裏に案内するようにと命じられました。初デートの場所は私の出身地、元実家です」
「なるほど。その腕時計は? トーマス王太子殿下の物ですよね」
「こ、これは私の腕時計は時間が遅れるので、トーマス王太子殿下が持っているようにと。来週もあるので」
「そうですか。わかりました。未成年の娘さんを夜遅くまで付き合わせて申し訳ありませんでした。ひとつだけルリアンさんに忠告しておきますが、トーマス王太子殿下は王位継承者です。恋愛感情を抱かれませんように。あくまでも日曜日の専属メイドであることは忘れないで下さい」
スポロンの言葉にタルマンは烈火のごとく怒った。
「本日は私が道に迷い大変遅くなりご迷惑をおかけしましたが、例えトーマス王太子殿下の執事でも娘を悪くいうことはやめて下さい。娘は何も悪くない。身分違いは重々存じています。トーマス王太子殿下に言い寄られても娘は相手にはいたしません。恋愛感情? 万が一娘を弄んだら、例え王位継承者でもこの私が許しませんから!」
タルマンがスポロンに猛攻撃をする姿を見て、ルリアンは思わずタルマンを制止した。
「義父さん! もういいから。私とトーマス王太子殿下が恋愛感情を抱くわけないでしょう。もう帰ろう」
「トルマリンさん、理解していただけているならいいのです。二度と勝手な行動はなさらないように。行き先は必ずヘイトスに無線で報告するようにして下さい。これは本日の給金です。特別手当もつけてあります。お疲れ様でした」
スポロンはテーブルの上にスッと給金の入った袋を置いた。
「ルリアン、帰ろう。先ほどは怒鳴って申し訳ありませんでした」
タルマンは片手でその袋を掴み、もう一方の手でルリアンの腕を掴み、一礼して事務室を出た。
「……まさか車に位置情報がわかるものがついていたとは。トーマス王太子殿下の誘拐事件? はて、どこかで聞いたような」
「義父さん、詳しく知ってるの?」
「いや、なんとなくだ。そのニュースを新聞で見たのかもな」
「そう。でもバレなくてよかった。トーマス王太子殿下が御生母様に逢いに行ったことがわかれば、王妃はお怒りになったかもしれないから」
「そうだよな。血の繋がりはないのに我が子のように溺愛されているという噂だ。王妃が私を何故雇われたのかも不思議だが、この王室には秘密がたくさんありそうだ。ルリアン、これ以上の詮索は危険だよ。トーマス王太子殿下とは身分も立場も違う。恋をしてはいけないよ。悲しい想いをするだけだから」
「私がトーマス王太子殿下に恋? まさか、するわけないし、あんな三十点王子、私が十点だなんて、バカにしたんだからね」
「三十点? いかん、頭がズキズキする。どこかで聞いたことがあるような……」
「義父さん、もういいから早く帰ろう。母さんがきっと心配してるよ。初給金貰ったんだから、これは仕事の対価よ。母さんも喜ぶわ」
「そうだな。今夜は初仕事を終えて乾杯だ」
トルマリン父娘が仲良く歩いて宿舎に戻る姿を、二階の応接室のバルコニーからマリリン王妃が見つめていた。
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