16
レイモンドはサファイア公爵家に古くから仕えるローザとコーディの恋人だったエルザに再会し驚きを隠せない。
ローザはレイモンドの腕に抱かれていたユートピアをすっと抱き上げた。
「まあなんと愛らしい御子様でしょう。このたびの異動は私からサファイア公爵様に志願致しました。ユートピア様の教育係として勤めさせていただきます。こちらは旧姓エルザ・ラピスラブリ。サファイア公爵家のメイドでしたが、執事のコーディと結婚したのに離れて暮らすのも酷だと思い共に連れて参りました。主に家事全般を行います。エルザ・ムーンストーンです。何でもお申し付け下さい」
エルザはローザに紹介され、レイモンドとメイサに頭を下げた。
「コーディがエルザと結婚!? おめでとう! コーディとエルザがきてくれて心強いよ」
レイモンドは現世でも公平と姫香が結婚していたこともあり、テンションが上がり思わずエルザの手を強く握りブンブン上下に振った。
「コホン、ご主人様、あなたはもう執事ではございません。当屋敷のご当主なのです。メイサ妃の夫となられた以上、軽はずみな言動はおやめ下さい。これ、シッ、メイドの手を離しなさい」
ローザにピシャリと手の甲を叩かれ、レイモンドは思わず手を引っ込めた。スポロンはそれを見て苦笑いしている。
「ではローザ・キャッツアイさん、あとは頼みましたよ。私はこれにて王宮に戻らせていただきます。トーマス王子殿下との面会の折にはメイサ妃のみお迎えに参ります。その時はローザさんにご連絡します」
「私はトーマスに逢えないのですか?」
レイモンドは思わず不満を漏らした。
トーマスはレイモンドの子だ。それなのに逢えないなんて辛すぎる。
「レイモンド氏は義父の立場。トーマス王子殿下と面会は許可されていません。トーマスと呼び捨てになさるのも控えて下さい。トーマス王子です」
「……でも」
反論しようとしたレイモンドをローザは制止した。
「レイモンドさん、トーマス王子殿下は王族なのです。平民である義父の立場をわきまえなさい。スポロンさん、本日は誠にお疲れ様でした」
ローザは王宮でメイサ妃の侍女として仕えていたこともあり、トーマス王子殿下誘拐事件の犯人逮捕にも貢献していたため、トム王太子殿下やスポロンからも信頼は厚い。
ローザはスポロンの乗った公用車と護衛の王室警察の車列を見送り、メイサとレイモンドを邸宅内に招き入れた。
「ご主人様、この鶏はトーマス王子殿下と面会されるまで、裏庭の小屋に入れておきますね」
他人行儀なコーディにレイモンドは我慢できなくなり、つい不満を口にした。
「コーディ、もう王宮関係者はいない。私達は友人だ。主従関係はない。メイサはともかく、私のことは『ご主人様』なんて呼ばないでくれよ」
コーディはニヤリと口角を引き上げてレイモンドに抱き着いた。
「レイモンド! 逢いたかったよ! まさかお前が生きていたなんてな。メイサ妃と結婚して子供までいるなんて信じられないよ」
「コーディ! お前こそ、エルザと結婚するなんて本当におめでとう!」
抱き合って再会を喜ぶ二人を尻目に、ローザは「コホン」と咳払いをする。
「コーディ、いくら旧友でも今はあなたのご主人様ですよ。あまりにも失礼な」
「あっ、そうでしたね。ローザさんすみません」
ローザはもう一度小さな咳払いをした。
「コホン、ですが、王宮関係者が不在の時は特別に許可致します。コーディのご無礼な態度、黙認してもよろしいですか? メイサ妃」
「ローザ、私達は今まで町民として暮らしていたのよ。メイサ妃だなんてやめて。この屋敷で称号は必要ないわ。さあエルザ、一緒に食事の用意をしましょう」
「えっ!? メイサ妃がお料理をされるのですか!? そんなことはできません。私が王宮関係者に叱られてしまいます」
「王室なんて、ここでは関係ないわ。私がそうしたいの。エルザ、私に料理を教えて。トーマスにはいつも三十点だと言われているから、家に帰って来た時に百点満点の料理を食べさせて驚かせたいの。王宮のシェフよりも美味しい家庭料理をね」
「メイサ妃……。ローザさん、メイサ妃とご一緒にキッチンに立ってもよろしいですか?」
ローザはメイサを見つめて、優しく目を細めた。
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