「レイモンド、何故このような場所に隠れなければならないのですか? わかるように説明して下さい」


「君は美梨ではなくメイサ妃殿下なのですか? 金髪ではなく黒髪だったのですか?」


「私の母も母方の祖母もプライドが高く黒髪を毛嫌いして金髪に染めていました。実は祖母が他国の移民だった可能性があります。もう他界しているため真実は闇の中ですが、私も生まれた時から金髪に染められそれが普通のことだと思っていましたが、トーマス王子が生まれこのままではいけないと思い、黒髪を伸ばし誘拐事件が起こるまではウイッグで誤魔化していました。だからこれが私の本当の髪色よ。レイモンドと同じ黒髪です」


「そうでしたか。黒髪なので驚きました。実は私達はあの自動車事故で現世に戻りました。私達が生まれ育った世界です。私達は現世ではずっと昏睡状態でした。眠り続けていた間にこの世界でレイモンドとタクシー運転手キダニの体を借りて生きていたのです」


「だからぁ、わけがわからないことを言わないで。それって今も外見はレイモンドで中身は別人だっていうの? あなたはどう見てもレイモンドだわ。もしもその話が真実なら現世とやらでミリに逢えたの? それなのに私と結婚したの? それって二重結婚よね? こっちもあっちもいいように弄んで許せないわ」


 メイサは意味不明に怒り始めた。ゲームの世界の女性に嫉妬されるのは修としては納得はいかないが、修が現世に戻ってる間に執事のレイモンドがメイサ妃殿下と結婚したなんて、ますます混乱する内容だった。


「二重結婚だなんて、ここは現実世界じゃないから。そーだよ、そーだ。二重結婚にはならないですよ」


「無礼者! この三十点男! 問答無用よ!」


 メイサはポカポカと修の頭を殴る。


「いたたた! メイサ妃殿下どうか落ち着いて」


 二人の喧嘩に男の子が割って入る。


「パパもママもどうして喧嘩してるの? 寝てる間に事故したの?」


「パパ? 私がパパ? 君は昂幸じゃなくて、まさかトーマス王子!?」


「私はトーマスですが、今の名前はトーマス・ブラックオパールです」


「トーマス・ブラックオパール!? メイサ妃殿下!? 私達は本当に結婚したのですか!?」


「バカバカしい。それブラックジョーク? ブラックオパールだけに? ブラックジョーク? はん、笑えないジョークだわ。レイモンド、事故で記憶喪失にでもなったの?」


 無邪気なトーマスとは対照的に、メイサは完全に怒っている。公衆電話から戻った木谷と一緒に木陰に隠れること二十分、やっとドリームタクシーの小型バスが事故現場に到着した。


「ヘイ! キダニ!」


「秋山さん、いやレイモンドさん車が来ました。とりあえず、この世界ではレイモンドさんとお呼びします。私はキダニで。お二人はどうやらメイサ妃殿下とトーマス王子殿下ですね」


「はい。でも今の私はトム王太子殿下のお妃ではありません。私はメイサ・ブラックオパール。この子達はトーマスとユートピアです」


「まさか、サファイア公爵家の執事と駆け落ちでもされたのですか? と、とりあえず、迎えの車に乗りましょう」


 木谷は四人と一緒に小型バスに乗り込む。木谷のワゴン車にはお土産の林檎が二箱摘まれていて無事だったため、林檎の入った箱や修の荷物も小型バスに移した。


 ドリームタクシーの仲間は移民で、ガイ・ストーンと名乗った。


「まさかキダニから連絡があるとは驚きました。遺体が発見されなかったのは生きていたからなんですね。あの事故でまさか生存していたなんて驚きです。これはキダニの働いて得た賃金とタクシー会社の社員寮に残されていた私物と現金です。同室の私が預かっていました」


 ストーンは木谷の荷物と思われるボストンバッグと給与袋を渡した。


「この国の通貨だ。これは有難い。それより、ストーンに聞きたいことがあるんだ。あの事故から何年経った?」


「もうかれこれ五年でしょうか。お連れの方はお客様ですか? キダニは五年もの間一体どこで何をしていたんです?」


「私はその……。事故のあと他国の実家に。突然退社して申し訳ない。ストーンに頼みがあるんだ。実は今夜宿無しでね、今夜泊まれるところはないかな」


「ドリームタクシーなら運転手を募集してますから、社長も大歓迎でしょうが。そのジャンパーはホワイト王国の林檎農園のものですよね?」


「ホワイト王国に林檎農園があるのか? すまない。実は事故で一部記憶が欠落しているんだ」


「記憶の欠落ですか。それは大変ですね。ホワイト王国は私の母国なんですよ。ホワイト王国の農村に昔両親の住んでいた古い家があります。皆さん何かわけありなご様子。暫くそこにお泊まりになりますか? 過疎地だし、ご近所さんは皆黒髪の移民です。きっとすぐに馴染めますよ」


「ストーン、助かるよ。しばらく貸してもらえるかな?」


「一年前から空き家なのでぼろ屋でよければ、お使い下さい。両親や私の兄弟の服も残ってます。ご自由にお使い下さい。これから家まで送りますよ」


 ガイ・ストーンはとても気さくな男性で、後部座席に隠れるように乗り込んだ修やメイサのことには一切触れず、隣国のホワイト王国の農村まで送り届けてくれた。

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