第19話 可愛い弟を溺愛中
週末土曜日。
今日は朝から魂回収を行い、午後はユリウスと人気のカフェへ行き、そして少し買い物しつつ街をブラブラとした。仕事ばかりではなく、ちゃんとした休日も過ごさないとね、ということで。
ユリウスと出かけたので、恰好は学園仕様の『モップ令嬢』だが、私とユリウスが姉弟と知らない人なんかは、私たちを見て振り返って見る人もいた。まあ、うちのユリウスかっこいいからね! 自慢の弟だからね! 恋人同士か!? のように見られたりもしているんだろうが、たぶん私とでは似合わないと言いたいんだろう。女性の視線が痛かったです。姉弟なので安心してください。
そんな日の夜。
仕事をするというユリウスを私の部屋に呼び、ユリウスは丸テーブルにパソコンを置いて仕事をしていた。パソコンはもちろん東京から持ってきたもので、キーボードは日本語と英語対応しかない。帝国語のキーボードを特注で昔作ってもらおうかとも考えたが、私もユリウスも日本語できるのに不要、ということで止めたのだ。なので、ユリウスが作っている資料は全部日本語である。そして当然パソコンなんてハイテクな物は帝国にはない。
私はというと、椅子に座っているユリウスの後ろで、ユリウスの髪の毛を弄っていた。ヘアアイロンを使用して、ユリウスのサラサラヘアを緩く巻いて、遊び心のあるヘアスタイルに進化させ中である。このヘアアイロンももちろん東京から持ってきたものだ。
ちなみに、日本ほど技術が発展していない帝国にもヘアアイロンはある。当然東京から持ってきたものより数段劣るもので、重いしすごく使いづらい。不器用な人が使えば、下手すると髪の毛は焼き千切れる。焦げ千切れると言った方が正しいのだろうか。とにかく温度調節も細かくはできないし、髪の毛も絡まりやすいのだ。かなり練習しても縮れ毛は覚悟する必要がある。だからうちは東京から持ってきたものしか使わない。
帝国産のヘアアイロンだが、電源はどうなっているのかというと、帝国は独特な石技術を持っている。その石技術を使った、電池のようなものが存在するわけだ。一般的に普及しているのは、皇帝石と呼ばれるものだ。その名の通り、帝室が造るのに関わっている石で、家電なんかは一般的に皇帝石を使用する。電気ではないので電源という言葉は違うのだが、使い方は電気のようなものと思っていれば分かりやすいだろう。私も仕組みはよく分かっていない。この仕組みは、帝室と帝室に関わる石の加工技術のある一部の人間しか分からないだろう。ただ使い方は、ほぼ電池。皇帝石の中に入っている『よく分からない力』がなくなったら、その皇帝石は使えなくなる。その時は、皇帝石を売っている店にお返しし、また『よく分からない力』が満タンになっている皇帝石を買うという仕組みだ。
ヘアアイロンでユリウスの髪を全体的に緩いウェーブにしてしまう。
「できた! ユリウスー、ちょっと前から見せてね」
テーブルを向いているユリウスの椅子を少し斜めにくるっと回転させる。
「んー!! ユリウス似合う! すっごくカッコいい!」
「そうですか?」
「ちょっと待って、これはお兄様とまーちゃんに見せなきゃ」
スマホのカメラでユリウスを連写する。
「いいよいいよ! ちょっと斜め向いて遠くを見てくれる? こちらに視線を向けない感じで!」
ユリウスは私の言葉に従い斜めを向いてくれるので、また連写。それから「ちょっと流し目で!」「少しダルそうに!」「少し甘える感じで上目遣いの視線ください!」など、いろんなポーズをユリウスにとってもらいつつ撮影をする。嫌がりもせず私の言う通りに動いてくれるユリウスがいい子すぎる。
「うちの子、可愛い……」
撮った画像を見つつ、可愛すぎてヨダレがでそうである。他のポーズもさせたくなるではないか。
「じゃあ次は……」
「いつまで僕一人なんです? 姉様も一緒に撮りましょう」
「えっ……」
ユリウスに急に腕を引っ張られたと思うと、ユリウスの膝上に私の体が乗っていた。ユリウスは私からスマホを受け取り、スマホを持ったユリウスが長い腕を伸ばす。
「はい、撮りますよ」
上から、横からとカメラを動かし、次々に私とユリウスのツーショットを写していく。楽しくてクスクス笑いながら何十枚と撮る。
「ねぇ、ユリウス。ちょっとキスしてみて」
「いいですよ」
ユリウスが私の頬にキスすると、それと同時にユリウスがカメラを連写。
「では、姉様もしてください」
「ん」
私がユリウスの頬にキスを返すと、また同時にカメラを連写。
それから二人で画像を確認する。
「あ、いい感じに撮れてるね!」
私が膝から落ちないように、後ろから私を包むように腕で支えながらユリウスは画像を確認している。そして、普段はしないような若干悪い笑顔をする。
「これ、麻彩に見せておいてくださいね」
「うん? いいけど。というか、向こうに帰ったら、お兄様とまーちゃんとの共有画像アプリに保存するから、絶対まーちゃん見ると思うよ」
「それでいいです」
「……? まーちゃんに見せるとき、伝言とかはある?」
「いえ。見せるだけでいいですよ」
「そう?」
よく分からん。麻彩に見せるだけなのに、先ほどの悪い笑顔はなんだったんだ。
ユリウスは満足げな顔をすると、口を開いた。
「もう撮影はいいですか? 僕、仕事を仕上げたいので」
「あ、うん。じゃあ、仕事しているところ、少しだけ撮ってもいい?」
「いいですよ」
ユリウスの膝から立ち上がると、仕事しているユリウスを撮っていく。その時だった。頭の中に定期通知が入って来る。その間、少し私の動きが止まったので、ユリウスが私に顔を向ける。
「どうしました?」
「……明日十時に結果連絡に来るって。あーあ、日曜なのに……」
「……そうですか。早めに終わらせてしまいましょう。何もなければ一時間もかからないでしょう?」
「そうね。準備はしておかなきゃ」
そして、私はすぐにマリアを部屋に呼ぶのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます