第6話 東京の日常1

 帰路中でのタクシー車内、麻彩と話しながら、スマホで食材について調べていた。春のこの時期に食べられるもの。


「タケノコ食べたい」

「え!? さーちゃん、まだ食べるの?」

「ううん、今じゃなくて、明日の朝食の話ね。まーちゃんは明日タケノコでもいい?」

「いいよー」


 帝国では使用人がいるし、私はあまり料理はしない。しかし、東京に帰ってきたら、時々料理をしていた。料理するのはまあまあ好きなのだ。


「タケノコ買いたいから、タクシー、一つ前のビルで降りようね」

「うん」


 予定していた降りる場所の変更を運転手に伝える。家があるビルの隣のオフィスビルの地下一階に、食料品が買えるスーパーがあるのだ。


 ビルの前に到着したタクシーから降り、スーパーに寄る。

 目当てのタケノコ売り場へ行くと、アク抜き不要のタケノコと必要なタケノコが売っている。どちらにしようか迷ったけれど、アク抜きは自分でやったほうがタケノコは美味しい気がする、と思い、アク抜きが必要なタケノコを購入した。それから、他にも必要な食材を購入する。


 スーパーを出ると、歩いて家がある隣のビルへ移動して、三十階の家へ帰宅した。


「まーちゃん、今日宿題は?」

「あるー。今からする!」


 リビングのテーブルで宿題を始めた麻彩を横目に、私はタケノコの下準備だけしようとキッチンに向かった。

 タケノコのアク抜きに米のとぎ汁やヌカを使用するのだが、最近のタケノコにはヌカも一緒に同梱されているものもある。至れり尽くせりだと思いながら、タケノコの下準備をする。その途中、風呂のお湯のスイッチを入れた。


 アク抜きでタケノコを火にかけている間、宿題をしている麻彩の傍に行く。ペンが止まる気配のない麻彩に、順調そうでよしよし、と見る。

 ちなみにだ、私が麻彩に勉強を教える、なんてことはない。うちの麻彩、かなり勉強ができるのである。学校の試験では一番ばかり。私や兄には甘えたで、かつ、よく流雨や一弥に騙されているから分かりにくいが、勉強が分からなくなる、といった経験は一度もないという。

 私なんか、人生二度目なのに、成績は普通だ。可もなく不可もなく。本当に解せない。


 タケノコの下準備を終え、宿題を終えた麻彩と風呂へ向かった。

 うちの風呂は大きく、大人が一度に五人くらいは入ることができる。黒の石材でできているため、ちょっと温泉旅館のようである。また、この風呂以外にも、個別でシャワーができる部屋も別にある。兄はよくシャワーの方を使用しているようだ。


 二人できゃっきゃと風呂を楽しみ、風呂を上がってリビングで二人で小さいシャーベットアイスを口にする。風呂上りでアイスを食べるのが楽しみなのだ。

 それから、私はソファーの下の床に座り、ドライヤーにて髪を乾かす。私のが乾くと、私はソファーに座り、麻彩をソファー下に座らせた。そして麻彩の髪を乾かしてあげる。麻彩は気持ちいいのか、少しウトウトしている。


「さ、終わり。まーちゃん、もうちょっと頑張って。歯を磨かなきゃ」

「んー……」


 麻彩を引っ張るように洗面台へ連れて行き、二人で歯を磨くと、麻彩の部屋へ向かった。私は自分の部屋を持っているが、東京に帰ったときは、いつも麻彩と寝るのだ。

 足元だけ照らす小さな照明を付け、二人でベッドへ入る。麻彩は私の頬にお休みのキスをし、私もキスを返す。


「照明を消して」


 私の声に反応し、部屋の大きい照明が消える。付いているのは、足元を照らす照明だけだ。


「お休み、まーちゃん」

「お休みぃ……」


 私たち姉妹は、深い眠りにつくのだった。

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