④バストアップマッサージの極意

 とっぷりと日が暮れて、窓にかかった薄いカーテンは、行きかう車のヘッドライトを映す。

 時刻は9時。

 夕飯はフルーツがたっぷり溶け込んだ、甘い香りを含んだカレーだった。フィリピン仕込みの料理とはいえ、小山内さんのお母さんは日本人だから、日本人の味覚にも合っていて、本当に美味い。

 甘さの奥にキレのあるスパイスが効いていて、そのせいか体の芯はホカホカと熱を持つ。


 小山内さんは、今現在、入浴中である。

 昼間、生のおっぱいを揉んだ壮一にとっては、至極の妄想タイムだ。

 しかもこの後は、再びマッサージ。

 夜は特に効果的らしいというのだから仕方がない。そう、仕方がない。


 ザーーーー、ボタボタボタというシャワーの音が耳を撫でる。


 ――「お兄さん、今度は私がマッサージしてあげます」

「本当に?いいの?」

 小山内さんは、おもむろに壮一の背後に周り、肩を揉み始めた。小さい手だが、力加減はちょうどよく、シャワーで温まった手は触れられているだけで気持ちがいい。

「ありがとう気持ちいいよ」

「気持ちいいって、ちょっとエッチな響きですね」

「そうだね。でも揉んでもらうのって気持ちいいよね」

「はい……」

 小山内さんはたっぷりと間を持たせて、こう言う。

「とっても、気持ちいい」

 そして、壮一の股の間にちょこんと腰かけてこう言うのだ。

「今度は、私が揉んでもらう番です」

 小山内さんの手が壮一の手に伸びて、繋がった。彼女はゆっくりと壮一の手を自分の胸元へと滑り込ませた――


 なんていう妄想も捗る。

 しかし、これから行うプレイ、いや、マッサージ施術はちょっと違うのだ。


 シャワーの音が途絶えて、体を拭いたり、髪を乾かしたりという生活音の後、小山内さんの声がした。

「目隠し、できました」


 それを合図に壮一は、小山内さんの元へと向かった。

 シャンプーやソープの香りが鼻腔をくすぐる。


 ネル生地のシャツ型パジャマで、アイマスクをしている彼女を、ひょいと横向きに抱きかかえる。いわゆるお姫様抱っこだ。

 煩悩は完全に封印した、つもりだ。

「ひゃ」

 と声を上げた小山内さんは、不安そうに壮一の肩口を掴んだ。


 リビングの壁ぎわまで運んで、座らせた小山内さんの背後に回り、ヘッドフォンを被せてやった。

 ヘッドフォンからは、ややボリュームを上げた超絶セクシーな音楽が流れている。

『Aha~~~~~n han haha……』みたいな感じだ。

 目隠しをしていれば、絶対に壮一の顔が、彼女の妄想の邪魔をする事はないし、耳も音楽で塞いでしまえば、彼女の脳内では、ここがラブリーな空間と化すというわけだ。

 若干漏れ聞こえるヘッドフォンからの音楽に合わせて、壮一は背後から優しく小山内さんの体を抱きしめた。


 膝辺りまでの長さのシャツは、ゆるゆるしていて、既に胸元からは浅い谷間が覗いているのだ、たぶん。

 薄暗いので、殆ど見えないが、妄想で補完する。


 一番上のボタンをゆっくりと外すと、小山内さんの体はきゅっと固くなって、投げ出していた両足を閉じた。

 二つ目のボタンを外すと、両腕に力を入れて脇を閉じてしまった。まだ男性経験のない女子校生なのだから、当然の反応だろう。

 シャツはするりとはだけて、腕先で止まった。

 壮一は、その脇の下から手を捻じ込んで、リラックスさせるようそっとなでる。力の緩んだ腕を持ち上げて、脇のしたからさするようにして胸の下へと移動させた。

 これはれっきとしたバストアップマッサージ方法で、ちゃんと動画で勉強したのだ。

 腕にもツボがあり、その辺りも刺激しながら、二の腕からさするようにしてバストの下にはわせる。

 およそ20分間で効果絶大なんだそう。

 それに加えて、もっとムードを出して、気持ちよくするために、ローズの香りのボディクリームを塗る。これは、摩擦で肌や乳腺を傷めないためでもある。

 手のひらサイズでこりこりとしていた彼女の胸は、段々と柔らかくなり、心なしかふっくらとしてくるような気がした。


 ゆっくりと、優しく、時々先端に軽く指先を当てて、性的刺激もプラスしておく。

 びくん、びくんっと彼女の体が跳ねるたびに、壮一の下半身も跳ねる。

 滑りをよくするために、何度もクリームを足しては、優しく塗り込みながら撫で上げる。

 小山内さんが、甘い吐息を漏らすたびに、なぜだか胸が締め付けられ、切なくなる。

 茉優は別れ際に、壮一にこう言ったのだ。

『壮一とのセックスでイった事がない』と。

 全部演技だったらしい。なまめかしい喘ぎ声も、体を震えさせて喜んでいた仕草も、全部嘘だったのだ。


 しかし今、壮一の腕の中で、甘い吐息を乱している小山内さんは、演技なんかじゃない。単なるバストアップマッサージを、こんなにも感じているのだ。

 時々漏らす声は、可愛らしくも妖艶で、そのたびに大人への階段を上がっていくのかと思うと、感慨深かった。そして何より、芽生えてはいけない感情すら芽生えてきそうだった。

 そんな情けない結果だけは避けたい。

 彼女が好きなのは、間男の本間なのだから。感じているのは、脳内にあいつがいるからなのだ。


 そんな事を考えていた時だった。


 小山内さんが、壮一の指をぎゅっと握った。

 それは拒絶の合図ではなく、もっとほしいと言っているかのように感じられる。

 胸の上に引き寄せて、顔を背後に傾けて、壮一の胸元に頬ずりをした。


――え? これは……?

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