漫画と映画と物語と建築

 映画と漫画は近いと思う事があります。漫画は原作と作画が別の人物であるケースも増えてはいますが、話も漫画家本人が考えているものの方が今はまだ多いと思います。


 一方映画監督も優れた脚本家である事が多いですよね。一番わかりやすい例でいうと黒澤明監督でしょうか。氏の監督作品は共著はあるものの基本的には、監督自身で脚本を書かれています。きっとストーリーを考えるのと同時に、映像も頭の中に浮かんでいるのでしょう。漫画家もそうですね。ビジュアルと話が一体として頭の中に描かれているんだと思います。


 小説はどうなんでしょうか?もちろん場面場面を頭に浮かべて書いている人が多いとは思いますが、映画や漫画と違って受け取り手の方は、文章という材料を元にして多分筆者とは別の風景を頭の中に思い描いているんじゃないでしょうか?映画や漫画に比べて余白が多いと言えるのかもしれません。


 それがいいとか悪いとかではなくて、違った魅力を持つ物語手法ではないかと思っています。ただそれは物語に映像が付くよりもずっと前のやり方で、更に昔の文字の無かった時代の口頭による伝承も同じだったんじゃないかと思います。


 想像力というのは大切です。物や事を作りだしていく根源的な力だと思います。それは不幸にして負の方向に働くこともあります。しかしプラスでもマイナスでも少なくとも前に進むことの原動力にはなり得ると思います。一人で考えるのもよし、複数人で協同するもよしです。そうして多分小説という手法には担当編集者の人の力も大切なんでしょうね。


 私の本業は建築設計なんですが、これを書いている今は日曜日で、明日はクライアントとの打合わせの予定が入っています。

 設計者なんて一人では何もできません。作ってくれる職人さんや現場監督…もっと言えば各メーカーや材料業者、流通や卸をする人たち、その他色々な人たちとの共同作業があって、初めて現実のモノやコトが作られていきます。


 そうしてクライアントの存在が一番大切です。一般的な芸術作品とは違って、建築はクライアントがいなければ何も作れません。クライアントの要望だけ聞いてあとはこっちがプロなんだから任せておけというスタンスの建築家も確かに多いです。私はちょっと違います。クライアントや、時には施工者と一緒に考えてアイデアを出し合って作っていくのが好きです。


 理由はシンプルです。その方が私にとっては楽しいからです。

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