第36話 死ぬかと思った
戦闘終了後、俺は回復用のポーションを一気飲みする。
「はぁ……死ぬかと思った」
けっこう本気で。
足と触腕が毒蛇の頭部になっている赤い巨大イカ――中ボスは冗談抜きで強かった。
パワー、スピード、タフネスが高く。
伸縮自在の計10本の毒蛇が猛烈に襲い掛かってくる攻撃は手数が半端ない。
しかもそこを切っても短時間で再生してしまうし。
更には、本体が水系の攻撃魔法まで使って来る始末。
……マジでやばかったぞ。
途中毒を喰らって、それをソアラが魔法で治してくれていなかったら冗談抜きで死ん出たまであり得る激闘だった。
解毒ポーションも飲む余裕も無かったからな。
「アドル!ちゃんと完全耐性取っとかないと駄目だよ!」
勇者のスキルには、10pでとれる状態異常に完璧な耐性を得る――そのまんまの名前の完全耐性という名前――スキルがある。
これを取っておけば毒や麻痺とか言った異常は一切気にしなくて良くなるので、こういったダンジョン探索では超便利な物だ。
「いや、毒持ってるなら先に言ってくれよ」
取得するだけのポイントは余らせていたが、事前に言ってくれなきゃあの見た目で毒まで決めて来るとは普通思わない。
分かっているなら先に言っておいて欲しいもんだ。
「何事も経験だよ!」
先に取っておくべきなのか。
それとも痛い目見て経験しとくべきなのか。
どっちなんだよ。
ま、ソアラには突っ込むだけ無駄だな。
彼女ならきっと満面の笑顔で両方って答えるのは目に見えてるし。
「にしても……流石に出鱈目に強かっただけあって一気に3つもレベルが上がったな」
死ぬ程きつい戦いではあったが、効率で言うなら間違いなく最強クラスと言っていいだろう。
……うん、効率よりある程度余裕があった方が絶対いいな。
「あれ?3つ?あたしの時は5つ上がったんだけど?」
ソアラが少し不思議そうに首を捻る。
アップ前の俺のレベル43で、村を出た時のソアラよりも3つ低い。
普通に考えれば俺の方が多くレベルアップするか、そうでなくとも同じぐらい上がって然るべきだ。
じゃあ何故、俺のレベルが3つしか上がらなかったかだが――
「ソアラがいたからだろ。解毒のサポートもして貰ったし」
死ぬ戦いと。
死なない戦いでは全く意味合いが違って来る。
その為、保護者がいるとそっちに貢献度がかなり吸われてしまうのだ。
ゲーム的に言うなら、パワーレベリング禁止要素って所だろうか。
更に今回は、冗談抜きでソアラのサポートで勝てたという面が大きい。
そのため経験値の多くを、下手をしたら半分以上吸われている可能性すらあった。
「そっかー。じゃあ手伝ったのは失敗だったね」
「いや、手助け無しだったら俺は結構な確率で死んでた。勝てたのはソアラのお陰だ」
やはり何だかんだで、最悪『ソアラ先生オネガイシマス』が出来るのは大きい。
もし彼女のサポートが期待できない状態なら、毒云々以前に途中で逃げ出してた自信がある。
俺は強敵相手に無茶する熱血タイプじゃないし。
やっぱソアラがいるのは心強いわ。
そう言う意味では感謝……
いや、感謝はねーか。
そもそも普通なら絶対戦わないこんなクッソ強い魔物と闘わせたのは、他でもないソアラな訳だし。
レベルが上がったとはいえ、感謝なんかして堪るか。
「えへへ」
そう思って毒づこうかと思ったが、ソアラの満面の笑みを見てその気が失せる。
そんな屈託ない顔見せられたらなぁ……
「よし!先に行こう!ここのボスは一度倒すと24時間は出て来ないからね!」
「次はダンジョンボスとかは勘弁してくれよ」
「あ、大丈夫!それは私も一対一じゃ倒せないから!」
今のソアラが一人に倒せないレベル。
どうやらこのダンジョンのボスは相当強い様だ。
まあ中ボスであのレベルだから、当然か。
「それを聞いて安心した」
もしソアラが勝ててたら、俺は挑戦させられてた可能性がある。
そう思うと心の底からほっと出来た。
運動できない子供が嫌な運動会が雨天で中止になったら、きっとこんな気持ちなんだろうなとか、そんなどうでもいい事を思う。
「安心して!さっきの奴に負けないぐらい強い奴が他にもちゃんといるから!」
全然安心できねーよ。
ぬるま湯につかりたいと言う俺の気持ちを少しは察して欲しい物だ。
……まあまだ12歳だから、その辺りは難しいか。
「お手柔らかに頼むよ。後、取っといた方がいいスキルがあるなら先に行っといてくれ」
折角のレベル上げでソアラの手を借りて経験値を大量に持っていかれるのは、叶わんからな。
ソアラ式レベリングはまだまだ続く。
……はよ帰りたい。
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