第35話 プラン

「はぁ……しんど」


魔物を狩る事もなく数時間走り、やっとお昼件休憩タイムだ。

かなりハイペースで走らされたので流石に疲れた。


「じゃ、お昼ね!」


食料なんかは腰に付けた小さなポーチに詰め込んである。

これはマジックアイテムなので、見た目とは裏腹にその内容量は相当な物だ。


ソアラはそれから肉の塊を取り出して適当に塩をふりかけ、手にした剣の切っ先に刺してそれを炎の魔法でこんがりと焼き上げる。

素晴らしく大雑把な、男飯的調理方法だ。


「アドル、あーん!」


「あーん?」


一瞬『何言ってんだ?」って思ったが。


……ああ、口開けろつってんのか。


まさかとは思うが、その剣ごと肉を俺の口に突っ込む気じゃないだろうな?

いや、いくらソアラでも流石にそんな大道芸みたいな事は求めて来ないはず。


……はず。


「はやく!あーん!」


「……へいへい」


断っても絶対ごり押しで押し切られるのが分かり切っているので、俺は渋々言われた通り大きく口を開けた。

どうか剣を勢いよく突っ込んできませんように、と祈りながら。


「じゃ、行くよ。ふん!」


ソアラが剣を構えて力む。

その瞬間刺さっていた肉がサイコロ状に砕けて分かれ、その半分ほどが俺の口の中に勢いよく飛び込んで来た。

そしてもう残り半分は、ソアラの大きく開いた口の中に消えていく。


「もご……もぐもぐもぐもぐもぐ……んぐ」


口にパンパンに詰まった肉を咀嚼し、飲み込む。

中々美味い。

見事な焼き加減だ。


しかし……


「スゲーなソアラ。いつの間にこんな技覚えたんだ」


切っ先に刺さったままの肉を剣を振る事無くサイコロ状に切り分けて、しかも正確に自分達の口元に飛ばす。

まさに神業レベルの大道芸だ。


たった半年でこんな意味不明な技術を身に着けるとか、流石勇者。

さすゆうである。


「へへへ、バルターさんに教えて貰ったんだ」


「へー、あの人から習ったのか」


「うん!」


剣の道に生きて来ただけあって、色んな技術を持っていると感心せざる得ない。

面白いので、今度俺も機会があったら今の奴を教えて貰えないか頼んでみるとしよう。


え?

ソアラから習えばいいんじゃないって?


そんな事頼んだら、どんなスパルタで叩き込まれるか分かったもんじゃい。

なのでゾーン・バルター一択だ。

教えるのも絶対ソアラよりうまいだろうし。


「じゃ、ダンジョン探索再開!」


「もうかよ。飯食ったばっかじゃねーか」


まだお昼休憩に入ってから10分もたっていない。

それに飯を食ったばっかりだ。

そんな状態で走りたくないんだが?


「大丈夫!もうすぐそこだから!そこで強い魔物が出て来るから!そいつを倒してレベル上げしよ!」


どうやら何を狩るのか、ちゃんとソアラなりに考えてプランを立ててくれていた様だ。

まあ普段の言動はアホっぽいが、こと戦闘関連に関しては天才だからな。

このダンジョンの地形や魔物の分布なんかも、正確にその頭に入っているのだろう。


「強い魔物ね……道中にいたトカゲとゴリラは十分強そうだったんだが?」


途中遭遇した超でっかいトカゲや大槌持ったゴリラみたいな魔物なんかは、結構強かったはずだ。

道中の魔物は全てソアラが接触と同時に瞬殺してしまっているが、その二種類だけは明らかに動きが違っていた。

個人的見立てだと、イモ兄妹単独じゃまず勝てないくらいの強さはあったじゃないかと思う。


「態々強い奴の所行かなくても、狩るならあいつらぐらいが丁度いい気がするんだが?」


「ダメダメ!あんなのアドルの敵じゃないよ!強くなるなら強い魔物を狩らなきゃ!」


魔物は強ければ強い程、倒した際に取得できる経験値の量が跳ね上がっていく。

なので、狩れるならより強い魔物を相手にした方が圧倒的に効率がいいのは確かだ。


だが、ゲームの様に何も考えず気軽にレベルアップを行うという訳にはいかない。

死んだらお金が減るとか、経験値が減るとかでは済まないからだ。

現実での命の取り合いになる以上、余裕のある十分な安全マージンは必須だろう。


まあ最悪、やられそうになったらソアラが助けてくれるとは思うが……


ただその場合、ソアラが保険として討伐に貢献する事になるので、経験値が吸われてしまう事になる――引率がいる場合、貢献していると判定される仕様。

なのであんまりギリギリの魔物と闘わさせられると、彼女の貢献度が上がりまくって割に合わない事になりかねない。


せっかく頑張って強い奴倒したのに、吸われて経験値が今一とかやる気そがれるわ。

後、そもそもの問題として――


ヒーヒー言いながらレベル上げしたくないで御座る。


苦行は普段のソアラとの訓練だけでお腹いっぱいだ。


「出来れば倒しやすい奴からステップアップして――」


「さ!いこう!」


此方の言葉など無視して、ソアラが俺の手を取って走り出す。

まあ言っても聞かないだろうし、仕方ないと諦める。


そこから30分ほど走った所で、ソアラが言った強い魔物の元へと到着した。

訳だが――


「強い魔物って……まさかあれか?」


広い円形の空間。

その中央には魔法陣が描かれており、その上には体長20メートルは軽くあるであろう赤いイカがいた。

その多足の先端には凶暴そうな蛇の頭が付いていて『シャーシャー』威嚇する様に唸り声を上げている。


見るからに、とんでもなく強そうな化け物なんだが?


ソアラが俺の問いに、満面の笑顔で答える


「このダンジョンの中ボスだよ!」


――と。


ダンジョンの初戦闘が中ボスなんて聞いた事無いんですが?

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