第28話 残念な弟子
「貴方の事は、耳にタコが出来るくらいベニイモちゃんから聞いてるわ。勇者の相棒で、第二のゾーン・バルターだって」
「そう!アドル師匠はユニークスキル持ちの超絶天才なんです!!」
脛を蹴ろうとしたらベニイモに素早く躱されてしまった。
くそっ、無駄に学習しやがって。
「アドル君ってユニークスキル持ちなんだ。成程、市民なのにベニイモちゃん達が手も足も出ない強さなのも納得ね」
エンデさんがあっさり飲み込むあたり、ユニークスキルはこの学園じゃ一般的な知識の様だ。
そういや、ゼッツさん達からはそう言うの聞かれた事ないな……
ま、詮索しないでくれてたって事だろう。
もしくは、市民で馬鹿みたいに強いのだからあって当然的な感覚だったかだ。
「どんなスキルかは周りには秘密です!」
ベニイモが胸を張ってそういう。
何で自分の事の様に自慢気なんだ?
そもそも秘密も何も、お前は単に知らないだけだろうに。
「そうなんだ。残念ね」
「まあ、大っぴらにするようなもんじゃないんで」
「師匠は奥ゆかしいんで!」
別に奥ゆかしい訳ではない。
そもそもユニークスキルなんざ持ち合わせていないだけだ。
「そう思ってるなら、周りに吹聴する様な事は止めろ」
「何言ってるんですか!師匠が言わないなら、私達がその凄さを宣伝しないと!ね!タロイモ!」
「いや。俺はそんな事、まったくしてないぞ」
ベニイモがタロイモを巻き込もうとするが、当の本人にしかめっ面でばっさりと切り捨てられてしまう。
スピーカーはベニイモだけの様だ。
まあ知ってたけど。
無口な方のタロイモが他人に吹聴して周るとかありえないからな。
「兄に裏切られた!?」
「くすくすくす」
兄妹のやり取りに、エンデさんが笑う。
可愛らしく笑う姿は普通の女の子にしか見えないが、ゾーン・バルターの娘らしいからな。
きっと相当な腕の持ち主なのだろうと予想される。
「にしても……」
ベニイモが騒ぐせいか、さっきから周囲の人間が訓練を止めておもっくそこっちを見ていた。
いわゆる注目の的って奴だ。
「あんま騒ぐなよ、ベニイモ。周りから注目されちまってるだろうが」
「ああ、それは私が騒いでるからじゃなくてですね……皆、師匠を見てるんですよ」
「は?なんでだ?」
まさかさっきベニイモが言ってた天才がどうこうって言葉を、周囲の人間が鵜呑みにしてるって事か?
いや、ベニイモは天才師匠って呼んでたんだ。
まさか年下の俺が師匠だと思う奴はいないだろう。
「ベニイモちゃん達に、年下の天才師匠がいるのは学園では凄く有名だものね。皆、アドル君に興味津々なのよ」
「……」
く……親しい人間に話してるぐらいかと思ったら、まさか学園中に吹聴していようとは。
口止めが全く効いてない。
まさかここまで彼女の口が軽かったとは、大誤算も良い所だ。
……俺の事師匠だと思ってるなら、少しは言いつけ守ろうとしろよな。
本当に残念な弟子である。
「タロイモったら、すーぐ師匠の事を吹聴するんだから。困ったもんです」
「俺を巻き込むな」
「……」
ベニイモの頭に全力でげんこつ落としたい所だが、周囲の視線があるので俺はぐっと堪える。
「まあ偉大な人物ってのは、放っておいても自然と大衆に伝播していくものですから。それがちょっと早まっただけの事です。だからそんな怖い顔で睨まないで下さいよ、師匠」
「誰が偉大な人物だよ。お前が余計な事吹聴してなきゃ、誰も俺に注目したりするか」
少なくともこの学園ではそうだ。
ソアラとの絡みでゼッツさんとかに知られてるので、まあそっちはあれだが。
「そんな事ありませんって。師匠はもっと自分に自信をもって下さい!」
自信がどうこうの話じゃないんだが、まあこいつには言っても無駄だろう。
根本的に考え方が違うのだから。
お馬鹿な
「随分と騒がしいと思ったら……成程、その少年が二人の言っていた師匠という訳か」
急に背後から声を掛けられ振り返る。
そこには蛇を思わせる、中性的な顔をした青髪の長髪の青年が立っていた。
「ええ、そうですよ。この人こそ、次代のゾーン・バルター事こと――あいたぁっ!」
右脛を蹴るふりをして、躱そうとしたベニイモの左脛を蹴り飛ばす。
二度も躱せると思ったら大間違いである。
「それは止めろっての」
それでなくともそのゾーン・バルターの娘さんがいるってのに。
死ぬ程恥ずかしいわ。
「今の鋭い動き……成程、二人の大言壮語ではなさそうだな」
俺のフェイントを入れた蹴りを見て、青年が目を細める。
「面白い……是非とも私と手合わせ願おう」
そう言うと、青年が手にした剣を俺へと向ける。
……いや、手合わせとかしたくないんですけど?
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