第26話 敬称
「えぇー、そんな無茶な」
「頑張れ」
ユニークスキルの話をさっさと切り替えるべく、不服そうなベニイモを無視し、俺は話題変更とばかりに疑問に思っていた事をアークア達に尋ねた。
「ところで……魔法学園なら魔法書が置いてあるんじゃないですか?」
魔法関係を学ぶ学園である以上、魔法書は絶対に置いてあるはずだ。
ならわざわざ書店に買いに来る必要はないはず。
「魔法書は置いてあるけど、人気の奴は全部貸し出し中なのよね」
「一度借りたら皆、期限いっぱいまで基本返しにこないから中々回ってこないんだ。人数分は流石に魔法学園でも用意できないからね」
「ああ、成程」
魔法の習得は、有利に働く記憶マスタリーありでも数か月かかるのが普通だ。
回転率を考えれば、なかなか回ってこないのも確かに無理からぬ話である。
「それで、ここに必要な魔法を買いに来たんですね」
「ええ。でもうちは貴族と言ってもそう裕福な方じゃないから、本来は手痛い出費なのよね。魔法書の購入は。だからベニイモ達とのダンジョンの稼ぎがなかったら、今頃きっとヒーヒー言ってたわ」
「こうやって高い魔法書を気兼ねなく買えるのも、全部二人のお陰ですね」
「なにいってんの。アークアやクリフがいてこそでしょ。私達だって助けられてるんだから」
三人がお互いを褒め合い。
タロイモも納得する様に頷いていた。
仲の良さそうなパーティーである。
変な貴族にロックオンされてはいるが、こっちでイモ兄妹に親しい友人が出来ている姿が見れて安心だ。
まあ手紙のやり取りである程度近況は知っていた訳だが、全部が全部本当の事とは限らない。
強がってとか、二人の性格を考えると十分あり得たからな。
「そう言えば師匠はゼッツさんに頼んでダンジョンに入れる様、手配して貰うんですよね?」
「ああ、まあそのつもりだけど」
「だったら私達と組んで、一緒にダンジョンへ行きませんか?」
「うーん、そこはソアラ次第かな……」
アイツの性格だと、絶対一緒にダンジョンに潜ろうとするはず。
勝手にベニイモ達のパーティーに入ると決めると、とんでもない
因みに、ソアラはベニイモ達とは組んでいない。
勇者と組んでダンジョンなんかに行けば、やっかみが増えるのは目に見えているからな。
それに余り実力差があると、他のメンバーに経験値が入らなくなってしまう。
この世界で魔物を狩る経験値取得方法は、パーティーを組んでいる場合そのメンバーに配分される形となっている。
但し、それは均一ではなく貢献度によってその比率が変わって来る仕様だ。
まるでゲームみたいな仕様だって?
俺もそう思う。
まあクラスとかスキルのある異世界だし、深く考えるのは無駄だと思う。
そういう世界。
それが全て。
で、貢献度ってのは敵を倒す際にどの程度貢献したかってのが影響して来る訳だが……
これは単純にダメージを与えただけじゃなく、立ち回りで敵の攻撃を止めたり撹乱したりとかもその中に入る。
ヒーラーなんかはいるだけでパーティーの安定度を底上げしてるって事で、無条件で貢献している扱いだ。
もちろんその際の比率はかなり低い物になってしまうし、そもそも不要な相手との戦いじゃ経験値は貰えなくなるが。
んでまあ、ソアラと組むと彼女がほぼ一人で敵を殲滅しかねない。
というか実力差を考えると、間違いなくんそうなる。
その状況で他のメンバーが経験値を得ようとすると、ソアラが意図的に手を抜く必要が出てきてしまう。
言い方は悪いが、それは寄生だ。
保護者の足を引っ張りつつ、見守られて魔物を狩る。
ソアラは気にしないだろうが、イモ兄妹がそれを良しとするはずもない。
だから二人はソアラと一緒にダンジョンにはいかないのだ。
まあプライドって奴だな。
「あー、そうですね」
「ソアラ師匠と組めるのはアドル師匠だけだ。そこは諦めるしかない」
「それは大げさだろ」
タロイモの言葉に、俺は苦笑いを返す。
王都に来る前なら胸を張って相棒と言えなくもなかったが、今じゃ結構な差がついてしまっているからな。
頑張ってさっさとレベルを上げないと、俺も完全に足手纏い状態だ。
「残念ね。折角勇者レベルの天才君と組めると思ってたのに」
「タロイモ達の言葉をあまり鵜呑みにしないでください。ソアラに比べたら、俺なんて全然大した事ありませんから」
「ふーん……勇者様を呼び捨てにしてる時点で、十分過ぎるほど大物感があるけどね」
アークアが意地悪そうに笑う。
「彼女とは幼馴染ですから……」
小さい頃から一緒に育って来た相手なのだから、勇者とは言え敬称を付ける方が不自然だ。
とはいえ、は少し気を付けた方がいいのかもな。
それでソアラの周囲の人間から睨まれてもかなわないし、衆目がある状況ならさんぐらいは付ける様心がけるとしよう。
まあソアラは絶対嫌がるだろうが。
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