第19話 久しぶりに

「師匠お久しぶりです!」


「お久しぶりです。師匠」


翌日、朝食後にベニイモとタロイモが俺を訪ねてゼッツさんの屋敷にやって来た。

二人は厚手のシャツに、ジャージっぽいズボン。

腰には何故か剣を下げている。

後タロイモは盾も。


「久しぶり。二人とも随分大きくなったな。特にタロイモ……」


イモ兄妹はもう14歳だ。

村を出た頃に比べてかなり成長していた。

特にタロイモの方は、もう成人してると言われても納得する程大きくなっている。


たぶん身長は180位あるんじゃなかろうか?


「師匠。タロイモ、すっごく不細工になったでしょ」


ベニイモが自分の兄の顔を指さして笑う。

そんな妹を、タロイモが半眼で睨んだ。


「……」


ドストレートに悪口放り込まれても、こっちとしては反応し辛いんだが?


だが、確かに少し不細工になった気がする。

まあ顔立ちは昔っからアレだった訳だが、年を喰って、というより、表情が険しくてそう見えるんだと思う。

いわゆる厳ついってやつだ。


「ひょっとして機嫌が悪いのか?」


「いえ、そう言う訳じゃ……」


「学園でエブスやその取り巻きににメンチ切りまくってるうちに、人相悪くなっちゃったんですよ。ケッサクでしょ」


「そうか……色々大変だったんだな」


イモ兄妹とも、ソアラ程の頻度ではないが手紙のやり取りはしていた。

なので彼らの近況は俺も把握している。


同学年中、レベル30以上で入学試験をパスできたのはこの兄妹だけなので、二人は騎士学園ではかなり目立つポジションとなっていた。

まあスーパールーキーって所だな。

そのせいか、周囲からのやっかみなども少なくない。


まあ普通のやっかみ程度ならたいした問題ではないのだろうが、問題は騎士学園には貴族も通っており、その中の一人、エブス・ザーンと言う貴族に二人はしつこく絡まれている様だった。


「ふん。あんな雑魚、大した事ないですよ」


「まあ確かに強さはそれ程じゃないんですけど、相手は何せ大貴族の子息ですから。取り巻きが多くて、面倒くさいこと面倒くさいこと」


「目立つってのも考えもんだな」


出る杭は打たれる。

それはどこの世界でも同じだ。


「大丈夫だとは思うけど、きついと思ったらちゃんと相談してくれよ。ソアラが解決するから」


困っ時のソアラ頼り。

彼女が動けば、ゼッツさんも味方に付いてくれるず。

そうなれば一件落着だ。

いくら貴族の子息でも、勇者と親衛隊長を敵には回したくないだろうからな。


え?

お前は何もしないのかだって?


いやいや、そこそこ強いとはいえ所詮一市民だぞ。

俺は。

貴族相手に腕力で制圧する様な真似も出来ないし、流石に役には立てんよ。


「二人は私の弟子なんだから!いつでも頼ってくれていいよ!」


「ありがとうございます。ソアラ師匠」


「ソアラ師匠の手を煩わせるまでもありませんよ。二人に鍛えて貰った俺は、あの程度の相手に屈したりはしませんから」


タロイモは強気だ。

そしてその強気ゆえ、人相が悪くなってしまっていた。

悲しい話である。


まあ本人が気にしないなら俺は何も言わないが。


「そんな事よりも、久しぶりに稽古をつけてくださいよ。アドル師匠」


「お願いします」


二人が何で剣を腰に下げていたのか、これで合点いった。

このためだった訳か。


「朝っぱらから元気だな。いいぞ」


食べたばっかりだが、まあソアラの相手じゃないのなら大丈夫だろう。


「じゃああたしも!」


「ソアラは城で用事があるんだろ?そんなに時間があるのか?」


「あ、そうだった!ちぇっ、折角久しぶりに4人で特訓できると思ったのにー。ざんねん」


用事があってソアラは残念そうだが、俺は心の中で万歳三唱だ。

連日彼女にボコられたのでは叶わない。

もう俺もそこまで若くないので、せめてそういうのは中一日開けるぐらいでお願いします。


あ、若さってのは精神的な意味でな。


「さて、じゃあ――」


無事大怪獣ソアラが去ったので、俺達は屋敷の広場へと移動する。

二人は村を出る時レベル30はしかなかったが、先月の手紙には50に上がったと書かれていた。


すでにレベルは抜かされてしまっている訳だ。

やはり狩りができるかどうかの差は大きい。


「流石に二対一はきついから、どっちかずつで頼む」


村に居た頃なら二対一でも問題なかったが、流石に上級職のスキルを取っているだろうレベルが上の相手を同時にというのはキツイはず。

勇者スキルのブレイブオーラを使えば話は変わって来るが、イモ兄妹には市民で通しているからな。

一人一人で勘弁してもらう。


「アドル師匠。ソアラ師匠は何時も二対一ですよー」


「勇者様と一緒にすんな。だいたいこっちは魔物狩りでレベル上げも出来てないんだぞ」


「しょうがないですねー。じゃ、私から」


ベニイモが腰の剣を抜き放ち、突っ込んで来る。

そのまま彼女は俺に斬り込んで来た。

俺はそれを正面から受け止める。


「まるで別人だな」


以前とは比べ物にならない程の速度。

それに剣捌きも、村に居た頃よりも遥かに洗礼されている様に感じる。


「ギア、上げて行きます!」


更に彼女の動きが鋭さを増す。

この2年半で、ベニイモは確実のに成長していた。


けど――


「甘い!」


――俺もまた、彼女達が村に居た頃より成長しているのだ。


「きゃっ」


ベニイモの攻撃の隙を突き、俺は剣を叩き込む。

それを受け止めきれずに彼女は大きく後退する。


「流石アドル師匠」


「まだまだ弟子には負けないさ」


思った以上に差はまだある。

これなら二対一でも大丈夫そうだ。

そう判断した俺は――


「よし。タロイモも一緒でいいぞ」


「分かりました。でも、きっと後悔しますよ?」


タロイモが右手に剣を。

そして左手に盾を装備する。


両手で剣を持つベニイモは、攻撃向きの上級職ウェポンマスター。

そして盾を装備するタロイモは防御向きの上級職、ヘヴィーナイトに覚醒している。


「凄い自信だな」


「私達兄妹のコンビプレーは、結構な物ですからね」


イモ兄妹は自信ありげだ。

まあお手並み拝見といこうか。


「じゃあ俺から行くぞ!」


並ぶ二人、ベニイモの方に向かって俺は剣を振るう。

だがそれを横から割り込んだタロイモが、盾をつかって受け止めてしまった。

タロイモの大きな体によって、ベニイモが視界から遮られる。


「はぁっ!」


そのタロイモの影から飛び出す様に、ベニイモが切りつけて来た。


「くっ!?」


それに対応した瞬間、タロイモの剣も飛んでくる。

二人は息の合ったコンビネーションで此方の攻撃をいなしつつ、攻め立てて来た。


成程、確かにこりゃキツイ。


「やるな!けど!」


二人の連携は見事な物だったが、俺はそれをパワーでねじ伏せる。

盾で攻撃を受け止めたタロイモのガードを、剣で強引に追い込んでその体勢を崩す。

慌ててフォローすべく影から飛び掛かって来たベニイモの剣を、今度はスピードで機先を制して受け止め強く吹き飛ばしてやる。


「きゃっ」


「くそっ!」


タロイモが切りかかって来るが、俺はその剣を躱しつつその軸足を刈る様に蹴り飛ばしてやった。


「うわっ!」


態勢を崩したタロイモが尻もちを搗く。

その首筋に、俺は素早く剣を当てる。

これで試合終了だ。


「参った」


「こんなあっさりやられるなんて、やっぱ師匠は強いですね」


「まだまだ弟子には負けられないさ」


面目躍如って所だ。

まあもう少しステータス差が小さかったら、こう上手くは行かなかっただろうが。


「もう一本お願いします」


タロイモが起き上って構える。

ベニイモの方も、まだまだやる気満々の様だ。


「よしこい!」


個の手合わせは、この後昼食時まで続く。

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