第17話 実は超適正

疲れ切った体で、屋敷の離れにある風呂に浸かる。

そして一言。


「はぁ……死ぬかと思った」


結局あの後、久しぶりにソアラと手合わせする事になった訳だが……


俺は手も足も出ず、彼女にぼっこぼこにされてしまう。

しかもなまってるとか言われて、そこからそのまま3時間、猛特訓という名のせっかんコースである。


「あいつ、相変わらず容赦ねーな」


一方的にあそこまでやられるのは、訓練初期以来だ。

訓練を始めたばかりの頃を思い起こし、少し懐かしく――は、もちろんならない。


回顧するには、余りにも苦く苦しい思い出すぎる。

俺にとってはもう絶対に戻りたくない悪夢だ。


「しっかし、此処まで差があるとはな」


出発前の手合わせじゃ、やられはしたもののそこそこ戦えていた。

やはりレベルの差といのうは大きい。

特に成長率が図抜けている勇者だと、それが驚くほど顕著だ。


「にしても、製作か……」


この世界における製作系のクラスは、市民からの覚醒のみで結構希少だったりする。

そのため、余り数はいない。


「確かに、適性はあるっちゃあるんだよな。それも最高級の」


クラスがなくとも鍛冶は出来るし、マジックアイテムの製作なんかも可能ではある。

普及品レベルならそれでもかまわないだろう。

だが製作系クラスでなければ、絶対に作れないものがあった。


――それはオプション効果が付与されたアイテムだ。


専用のスキルを持つ者が作れば、ただの鉄の剣もなんかにも特殊な効果を付与する事が可能だ。

その効果は装備時の能力のアップや、特殊なスキルの付与なんかと多岐に渡り、中にはとんでもなく強力な物もあったりする。

更に、精錬スキルによる触媒を使った特殊オプションの付加も可能だ。


そんな訳で、制作系のクラスの製作物はそれ以外の人間が作った物とは一線を画す。

そして実はスキルマスターは、その上を行く適性を持っていたりする。

何故なら、製作や精錬時のオプション付与の成功率は、ステータスに依存しているからだ。


通常の製作系はスキルの都合上、市民以下のステータスになる。

仮に彼らが限界までレベルを上げたとしても、その成功率は3割にも満たないだろう。

しかもそこまで行ける様な奴は殆どいないので、実際の成功率は1割程度と考えていい。


だけど俺は違う。

何故なら、スキルマスターは豊富なスキルでステータスを増加させる事が出来るからだ。


「スキルマスターなら、付与率100%も可能だからな。それに、付くオプションの効果にもステータスの高さは影響するし」


オプションは何が付くのかある程度ランダムだが、これも一応ステータスの影響を受ける様になっていた。

当然高い方が優秀なオプションが付きやすくなる。

まあ、そっちは流石に付与程極端な影響はではないが。


付与の成功率。

そして付与されるスキルが優秀な物になりやすくなる。


以上の二点の要素から、俺の製作者としての適性は他の製作系クラスよりも遥かに高いと断言出来た。

ソアラもその事を考慮して俺に頼んだのだろう。


いや、違うか。

細かい説明はしてないし。

単に俺に頼んじゃえって感じだろうな。


「まあ魔王討伐を直接手伝わないんなら、装備ぐらいは俺が作ってやっても罰は当たらんか……」


幼馴染として影からバックアップする。

そう、戦士じゃなく影から手伝うたポジションなら、きっつい訓練も付き合わされなくて済むはずだ。

まさにウィンウィン。


「って、そんな訳ねーか」


影だろうが日向だろうが、ソアラは絶対そんなに甘くない。

10年も一緒にいる俺にはそれが分かる。


「一粒で二度美味しい状態としか、絶対考えないよな」


訓練に付き合わされるのはもう確定だ。

王都にいる以上、それは逃れ様がない。

まあ訓練自体は別に構わないのだが、自分一人の時でもしていた訳だし。

問題は、今の能力差がある状態でってのがキツイのだ。


「可及的速やかにレベルアップせんとな」


そのためには、魔物狩りに勤しむ必要があるだろう。

それもあんまり気は進まないのだが、今日みたいな訓練が続くよりかは遥かにマシである。


「そうなるとソアラ……いや、ゼッツさんに頼むのがいいか」


王都には、ダンジョンへと繋がるゲートがあるそうだ。

レベルを上げるための狩りをするなら、そこが一番手っ取り早いだろう。


ただし問題があって。

そこは王家に仕える騎士や魔法使い。

または、騎士学園や魔導学園に通う生徒だけが使える事になっていた。


つまり、一般人お断りという訳だ。


当然ただの農家のせがれでしかない俺は、そこに入る資格はない。

だから貴族であり、王家の親衛隊長を務めるゼッツさんに頼むのだ。


縁故万歳!


いやまあ、頼んだからと言って必ずしもオッケーが貰えるとは限らないが。


「取り敢えず、後で頼んでみるとしよう」


もし駄目だったら……


まあそん時はそん時だ。

別の方法を考えるとするさ。

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