王都へ
第15話 実は偉い人だった
村を出て四日。
やっと首都が見えて来た。
首都は高い外壁に囲われており、ある程度近くまで来るとその威容が良く分かる。
「流石に首都だけあって凄い外壁だなぁ」
「俺も始めて来るが、こりゃ大したもんだ」
勇者の両親と言う事で、門は待たされる事無くフリーパスで通る事が出来た。
俺も帯同者なので問題なし。
「やっぱり小さな村とは全然違いますね」
立ち並ぶ家々。
日本に居た頃の高層マンション街に比べれば全然大した事はないが、家から家まで何十メートルも間隔のあくガゼム村に比べれば十分過ぎるほど立派だ。
やがて馬車はかなり大きな屋敷の門扉へと辿り着く。
「ゴリアテと言うもんです。これを……」
門の守衛にゴリアテさんが証明書を見せると、俺達は屋敷の待合室へと案内される。
「お待たせしました」
出された紅茶を飲んで待っていると、待合室に鎧姿の男性が入って来る。
それは俺のよく知る人物だった。
「ゼッツさん。お久しぶりです」
俺はソファから立ち上がって挨拶する。
長らくソアラの側で護衛をしていた護衛騎士達の隊長。
それがゼッツさんだ。
「久しぶりだね、アドル君。それにゴリアテさんとアデリンさんも」
「お久しぶりですゼッツさん」
「この度は我がままを聞いて頂きありがとうございます」
「いえいえ、親御さんが娘さんと一緒に暮らしたいと考えるのは当然の事ですから」
様子から察するに、ゴリアテさん達がソアラと一緒に生活できる様に手配してくれたのはきっとゼッツさんなのだろう。
「ソアラちゃんもきっと、御両親と一緒の方がのびのびできるでしょうし。アドル君も居れば猶更です」
あんまりのびのび暴れられてもかなわないんだがな。
レベル差が開いてしまってるし、今稽古したら一方的にボコボコにされる自信が俺にはある。
ま、最初からずっとそうだった気もしなくもないが……
「ソアラちゃんの方にも連絡しましたし、じき家にやって来るとおもいますよ」
「家……ですか?じゃあここって、ひょっとして……」
「ああ、私の家だ。まあ正確には、父であるチョリーム伯爵の別邸だけどね」
「そ、そうなんですか。ゼッツさんって貴族の方だったんですね」
まさか貴族だったとは……
小さな村で、勇者とは言え
「ははは、もっと下っ端だと思ってたろう?一応、今は王家の親衛隊で隊長を務めさせて貰っているよ」
王家の親衛隊で隊長とか、超エリートですやん。
「ま、12歳の君にも勝てない身だけどね」
「ははは……」
何とも答え辛い自嘲ネタには、取り敢えず愛想笑いしておく。
ソアラ相手にいつもボコボコにされてきた俺だが、ぶっちゃけ、ゼッツさんレベルなら勇者スキルのブレイブオーラなしでも勝てるぐらいには強くなっていた。
親衛隊隊長と言う肩書を持っている以上、彼も決して弱くはないはず。
そう考えると、俺も随分強くなったもんだと改めて認識させられる。
「ソアラちゃんが来るまでの間、先に離れを案内しますよ」
「離れ、ですか?」
何で離れの案内?
意図が分からず俺は首を傾げる。
「これからゴリアテさん達と、君の暮らす場所さ」
「え、そうなんですか?」
「ああ」
そういや道中、ゴリアテさんは住む所がもう決まってるって言ってたな。
知ったらびっくりするぞって勿体付けてたけど、どうやらゼッツさん家に厄介になる予定だった様だ。
確かに、平民が貴族の屋敷で寝泊まりとかビックリ物ではある。
「お世話になります。でもいいんですか?離れとはいっても、伯爵家に住まわせて貰って」
「気にしなくも構わないさ。兄も父も、首都に来ることはまずないからね。私も王宮に泊る事が多いから、自分の家と思ってくれていい」
「至れり尽くせりですね」
「当然だよ。何せ勇者の御両親と、次世代のゾーン・バルターだからね」
「ははは……」
ゼッツさんは俺を市民だと思っているので、天才だと信じ込んでいる。
実際は全く違うんだが、説明する訳にもいかないので適当に愛想笑いで流しておく。
「それじゃ、案内するよ」
俺達はゼッツさんに促され、屋敷の離れへと向かう。
本邸程ではないが、それでも俺から見れば十分過ぎるほどの豪邸だ。
「彼女達は世話係だ。身の回りの事なんかを頼んでくれていい」
離れには5人のメイドさんがいる様だ。
だいたい40台程の顔ぶれだったが、その中に一人だけ若いメイドが混じっていた。
……すっげぇ綺麗な人だな。
その若い金髪のメイドは、今まで見た中で最高クラスの美貌の持ち主だった。
「おぉ……」
ゴリアテさんがそのメイドを見て、鼻の下を伸ばす。
が――
「うっ……」
次の瞬間、アデリンさんに爪先を踏まれて顔色を変える。
「ははは、ケイトはアドル君専属で決まりだな」
ゼッツさんがその様子を見て笑う。
どうやら金髪のメイドさんはケイトって名前の様である。
「本日より、アドル様のお世話をさせていただくケイトと申します。どうぞよろしくお願いします」
「あ、はい。よろしくお願いします」
心の中で、ちょっとだけラッキーと思う。
一応俺も男だからな。
こんな美人さんに世話されたら、そりゃやっぱ嬉しいもんだ。
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