第10話 二人目の弟子
記憶力アップ効果のあるマスタリーを、2種取った影響は大きい。
本来なら半年かかると言われる魔法の習得だが、俺はそれを月一ペースで獲得する事が出来ていた。
ソアラもそんな俺を「凄い凄い!」と尊敬のまなざしで見て来る。
思い知ったか!
これが大人――精神年齢的に――の
ま、そんな事はどうでもいいか。
現在レベル34の俺のステータスはだが――
【Lv:34】
【クラス:スキルマスター】
【生命力】 77 (+320%)= 323
【気 力】 68 (+340%)= 299
【マ ナ】 43 (+270%)= 159
【筋 力】 66 (+640%)= 488
【体 力】 68 (+340%)= 299
【敏捷性】 63 (+440%)= 340
【器用さ】 61 (+540%)= 390
【魔 力】 41 (+320%)= 172
【知 力】 58 (+320%)= 243
【耐久力】 63 (+370%)= 296
【抵抗力】 42 (+320%)= 176
【精神力】 83 (+320%)= 348
【S P】 1
――こんな感じ。
言うまでもなく脳筋寄りだ。
魔法を使うのなら、これからはそっち系統のマスタリーも取っていく必要が出て来るだろう。
まあまだ脳筋一点張りでマスタリーを取るか、魔法系も取るかは迷い中だが。
因みに、ソアラはステータスがもう600を超えており、午前中にやっている騎士さん達との訓練では二対一で勝負していたりする。
強すぎ。
ステータスは多少近づいてきた気もするが、やはりまだまだ俺では相手にはならない強さだ。
「次!アドルの番だよ!」
気づくと、タロイモがお尻だけを持ちあげる形で地面に突っ伏していた。
どうなったらそんな格好になるんだ?
現在、タロイモは俺の弟子になっている。
最初は当然断ったのだが、毎朝必死に土下座して頼んで来るものだから折れた。
まあそのうち飽きるだろうと思ったし。
「はぁ……死ぬ……」
そしてそのタロイモの横には、仰向けに女の子が倒れていた。
彼女の名はベニイモ。
名前から分かる通り、タロイモの双子の妹だ。
双子とはいっても二卵性だったらしく、幸い顔はタロイモに似ていない。
可愛らしい顔立ちをしている。
心の底から良かったねと、言ってあげたい所だ。
で、だ。
何故彼女が倒れているのかと言うと、彼女も俺の弟子になっているからだった。
タロイモにオッケーを出してソアラとの訓練に参加させてから数日後に、彼女はやって来た。
「自分も鍛えて欲しい!」と。
タロイモにオッケーを出してその妹を断るのはアレだったし、兄の時の様に付きまとわれるのも面倒くさい。
そう思ったので、彼女も弟子にした。
まあそれももう、2年前の話だ。
この2年間、一緒にソアラにしごかれて来たこの兄妹のレベルは20程になっている。
ステータスは、筋力等が100中盤位に達している程度なので、当然ソアラの相手は真面に務まらない。
ので、訓練時は基本ニコイチで手合わせしていた。
勿論、それでもほとんど話にならない感じではあるが。
「ほら!ぐずぐずしてないで早く!」
ソアラがひょいと二人を持ち上げ、横へと除ける。
まるで物扱いだ。
「まずは魔法勝負だよ!」
「へいへい」
ソアラが魔法を生み出す。
炎の初級魔法、フレイムだ。
俺も脳内で魔法陣を描き、そこに魔力を流し込んでフレイムを発動させる。
生まれた炎は俺とソアラとでは二周り程違う。
当然大きいのは向こうである。
これは単純に魔力の差だ。
此方は魔力が172しかないのに対して、ソアラの方は500以上だからな。
二種のマスタリー効果で習得自体は俺の方が早いが、使える様になったら結局威力では負けてしまう。
勇者は本当に出鱈目である。
「おりゃ!」
「ふん!」
相手ではなく、お互い上空に向かって魔法を放つ。
俺達の放ったフレイムが空中でぶつかり、俺の方が飲み込まれて魔一瞬で消滅する。
そして残ったソアラの魔法はそのまま上昇し、上空高くで大爆発した。
これが夜なら、きっと花火の様に周囲を照らし出した事だろう。
「へへへ!あたしの勝ち!アドルはまだまだだね!」
魔法勝負に勝って満足したのか、ソアラが鋼の剣を構えたる。
俺の持つ獲物も鋼だ。
今の俺達の腕力で剣を打ち付けあったら、鉄では直ぐに折れてしまう。
だから少し前から、鋼鉄製に持ち替えていた。
通常の鉄製品と違い、鋼鉄製だとかなり値が張るのだが……
俺の分も合わせて、騎士さん達に経費で落として貰っているので全く問題なしだ。
ま、こっちは勇者の訓練に付き合わされてる身だからな。
当たり前っちゃ当たり前だが。
「へへへ!楽しいね!」
ソアラが楽し気に切り込んで来る。
俺は必死にそれを捌く。
当然、楽しくとも何ともない。
こっちは死ぬ程必死だっつーの。
「ねぇアドル!ブレイブオーラ使っていい?」
暫くソアラと斬り結んでいると、彼女はとんでもない事を口にする。
ブレイブオーラとは勇者特有のスキルで、短時間全能力を二倍にするとか言う、イカレた代物だ。
上級クラスにも似たような短時間強化型のスキルはあるが、勇者のそれは倍率も効果時間も、それにディレイの短さなんかの回転率もぶっちぎりとなっている。
流石、伝説級のスキルだけはあるとしか言いようがない。
言うまでもないが――
「良いわけあるか!」
――許可する訳がない。
ソアラは溜めたSPで、丁度今朝これを習得したと言っていた。
まだ子供だから、手に入れたスキルを早速試したくてしょうがないのだろう。
だが素の状態で押されまくっているのに、更に二倍になんてなられたら堪った物じゃない。
下手したら死ぬ。
なので当然その答えはノーだ。
が――
「今のアドルなら大丈夫だよ!」
ソアラが能天気な事を言う。
全く人の話を聞く気はない様だ。
「じゃ!いくよー」
宣言と同時にソアラの全身から青いオーラが立ち昇る。
正に強者のオーラと言うべきそれを纏わせた彼女は、無邪気に剣を振り下ろした。
うん、無理――
生存本能が躱せと強く警鐘を鳴らす。
俺はそれに素直に従い、全力で後ろに飛んで回避する。
――轟音。
剣を叩きつけられた地面は、剣を叩きつけられた衝撃で小さなクレーターの様な物が発生する。
叩きつけた鋼の剣は粉々に砕け。
その破片や、抉れた地面が周囲に勢いよく飛び散った。
能力が2倍になっているソアラには大した事ないのだろうが――実際、間近で破片などが当たりまくっても彼女は無傷だった――俺にとって、それはまるで散弾だ。
喰らえば確実に大怪我する。
「くそっ!」
俺は剣を使って飛んでくる破片を全て、必死に叩き落とす。
丁度背後にイモ兄妹がいるので、回避する訳にもいかないのだ。
まあ騎士さん達の方は、自分達で対応するだろう。
「びっくりしたぁ……」
「びっくりさせられたのはこっちだ!あほ!」
鬼の様に強い勇者とは言え、所詮心はまだ無邪気な子供だ。
其の辺りもさっさと成長してくれないと、その内本当に殺されてしまいそうで怖い。
まあ仮に俺は何とかなっても、イモ兄妹はそうはいかないからな。
振り返ると、二人は俺の背後で抱き合いガタガタと震えていた。
「ソアラ!人に対してのスキルの使用は無しだ!いいな!聞けないなら、もうお前とは訓練しない!」
取り敢えず、強く言いつけておく。
人の命がかかってるし。
「う……うん。ごめんなさい」
するとソアラがしょんぼりと落ち込んでしまう。
ちょっと強く言いすぎた様だ。
だがまあ、反省させるならこれぐらいが丁度いいだろう。
相手がへらへら笑っている様じゃ、注意の意味がないからな。
「はぁ……早く新しい剣持って来いよ。そのままじゃ続きが出来ないだろ?」
「え……うん!」
俺の言葉に、落ち込んでいたソアラの顔が一瞬で明るくなる。
やれやれ、感情の変動が激しい奴だ。
しかし……自分から訓練の続きをしようなんて言ってしまうとはな。
我ながら子供に甘いと言わざるを得ない。
こんなんだから、無理やり訓練につき合わされちまうんだよな。
まあそれもあと4年の辛抱だ。
って、やっぱ4年は長いよなぁ……
これがまだまだ続くのかと思うと、若干滅入るわ。
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