気になるあの娘の問題点
@aus1771
第1話
その日は、全国中学野球大会決勝戦の当日だった。俺は先発としてマウンドに立って投げる予定だった。しかし実際にはマウンドに立つ事はおろか試合に参加すら出来なかった。何故なら大会に向かう途中、突然車が自分に突っ込んできたのだ。そして目が覚めたら病院のベットで、近くにある時計は、既に試合が終わった時間を指していた。また自分の利き腕である右腕は包帯で固定されていて、自分の血の色が滲んだであろう薄紅色が包帯には浮かんでいた。それを理解した瞬間右腕に自分がこれまで体験しようが無い激痛が襲いかかった。二度と野球は出来ない。本能でそれを理解した瞬間だった。
そして森野は目を覚ました。
「やっぱり夢か……子供じゃ無いのにな。いい加減忘れないと」
森野は、暗闇の中ベットでそう吐き捨てた。
彼の名前は森野烈火と言う。とある島に住んでいるごく普通の高校一年生だ。身長は本人曰く普通(実際は平均を少し下回っている)であり野球を続けてきたお陰で付いた筋肉を除けばごく普通の高校生だ。
そして彼は起きる為に、何故か少し重く感じる毛布から出る事にした。朝の目覚ましはまだ鳴ってなく、もう一度寝ても問題無いが、再び寝たらあの悪夢に襲われるかも知れないと考えるとその選択を選ぶ気にはなれなかった。
(まだ違和感があるな)
もう痛く無いはずの右腕を少し気にしながら彼はベットから立った。既にあれから二年、医者からは無理をしなければ痛みはもう無いと言われている。確かに日常生活では痛みは無いし特に不便も感じない。しかし右腕を下にして寝たり、先程のような夢を見ると少し痛みを覚える。何かで腕を無くした人も無いのに痛みを覚えるという。これと似たような物かと勝手に思いながら
ベット近くの目覚まし時計を見るとまだ四時をようやく回った所で部屋も暗闇に支配されていた。学校に行かないといけない時間はかなり先だった。このまま自分の部屋に居てもやる事が無い為、リビングでテレビでも見るかと自分の部屋を出て廊下に向かった。
部屋と違い窓から少しだけ入ってくる月の光によって少しだけ明るい廊下を静かに歩き、階段を下りてリビングに向かった。こんな夜中に家族が起きている訳もなく、誰もいないリビングで一人冷めきったソファに座り机に置いてあったテレビリモコンを操作した。テレビはこんな時間帯だからか砂嵐が多くまともに放送している番組は胡散臭い通販番組か訳の分からないニュース番組のどちらかだった。
どっちにも興味を沸かなかったが、少し迷って結局ニュースを選んだ。
「最近新種の動物が……」
「大会社グループの若き敏腕社長が埼玉県の富士見市で殺されて早一年……」
「次は幸運な島と言われている…」
適当にニュースを見ていると自分が住んでいる島の話題になった。
彼の住んでいる島は人工的に作られた島である。少子高齢化を防ぐ目的で政府が子供を産むのを推奨した結果、第三次ベビーブームが発生し人口が爆発。このままでは、人が増すぎて住む場所が無くなるのでは?と言われ、それを解決しようと政府が海に人工で出来た島を作る大規模な政策を十年以上前に打ち立てた。その最初の実験の際に出来たのがこの森野が住んでいる人工の島である。(最も費用が膨大にかかった為、この島一個で計画は終わっているが)そしてこの島の街には一つオカルトめいた話がある。何でも老衰以外では死なないと言う話だ。病気や事故などでは、絶対死なないとされる。だから幸運な島と一部では呼ばれている。最もゴシップ程度の信憑性だが。自分もあの事故で、車に突っ込まれても腕の怪我だけで済んで死ななかったのはそのお陰だと周りから言われているが信じてはいなかった。
(どうせなら死なないだけじゃなく事故や病気も完全に無くしてくれよ)
今だ違和感が残る右腕をさすりながらそう思った。
「なぜ人がその幸運の島で死なないと言うのはまだ出来て十数年だからですよ。その為若い人が多く……」
コメンテーターらしき太った人やニュースキャスターの人らが、さも自分が人類の全てを代弁しているかのように偉そうに語っていた。何故自分の意見を一般論みたいに語るのか不思議でたまらなかった。
「いやでも死なないなんて最高ですね。ここに住んでる住人は本当に幸せですね」
太ったコメンテーターらしき人がそう言った。
「幸せか」
森野は呟きながら右腕を見た。もう二度と野球が出来ない右腕を
「幸せか」
その後もボーとテレビを見ていると上の階からドタドタと音が聞こえた。その音はリビングに近づいていた。
「あら。烈火起きてたのね。ふわぁーー」
途中にあくびが入り聞き取り辛くなった挨拶をしながら女の人がリビングに入って来た。彼女は森野烈火の母親である。近所から美人ママと言われ評判が良いが息子から見れば只のがさつなおばさんである。
彼女はパジャマのまま長い髪の毛を適当に縛ると朝飯と弁当を作ろうと台所に立った。時刻はいつのまにかニワトリが鳴く時間を過ぎていた。彼は歯磨きなど簡単な朝の準備をする為にテレビを消した。そして用意が終わったタイミングに丁度朝飯の用意が出来たらしく机には、卵焼きや味噌汁などの料理が並んでいた。
席に付き少し待つと父親と妹も起きてきてバタバタと席に着いた。父親はくたびれた細めの如何にもサラリーマンな見た目をしている。母親と比べると格落ち感が有るのが息子目線からでも分かるが、母親は今でも父親にぞっこんのラブラブ夫婦である。息子からすると仲良いのは結構だが良すぎるのも困ったもんである。
一方妹は兄から見ても可愛く例え真冬で合ってもひまわりの様に明るい性格だ。そして驚く事に中学生でありながら彼氏がいるのだから恐れいく。そんな妹が朝ご飯の納豆をまぜまぜさせながら聞いてきた。
「そういやお兄ちゃん。結局何入るの?部活」
朝だと言うのに天真爛漫な気分があがる声だった。そう聞かれ彼は一つ入ろうと決めていた部活が有ったが、入りたい理由が家族の前では言い辛い為
「そうだな。野球はもういいし。適当に楽な部活探してみるよ」
と味噌汁を飲みながら嘘を着いた。
「ふーん?」
話はすぐに別の話題に移っていった。朝飯を食べ終わると自室に戻り白いyシャツに簡単に付けれるボタン付きのネクタイ、黒目のズボン、そして紺色の左胸辺りに少しだけ奇抜な校章を付けたブレザーに着替えた。ようやく学校に行く支度が整った。男ですらそこそこ時間かかるのだから、周りにどう見られるかが、そのままカーストピラミッドに直接影響しそうなおませな女達はどれだけ早起きなんだろうか?そんな下らない事を考えながら、家から外に出た。妹はようやく着替えを始めた所であった。
高校は家からはまぁまぁ近い為、向かうのはいつも歩きだった。いつも通り特に代わり映えの無い住宅が並ぶ道を少しだけそわそわしながら若干の早歩きで進んでいくと同じように気だるそうに猫背で歩いてる女の人を見つけた。そして森野は、彼女を見ると急にやる気が出てきた。
「よっ。桜花元気?」
彼は後ろから声を掛けた。
「…うるさい」
女の人はいつも通り前が見えているのか心配になる程の細い糸目でこっちを睨みながら言った。別に朝で眠いからこうと言う訳では無い。いつもこの様に眠たそうで機嫌が悪そうなのである。森野と似たようなyシャツに一応は女子用だが違いが分からないブレザー、違う所は、ネクタイを付けてなくリボンなのと下がズボンでは無くスカートを履いていると言う点か。そんな制服を特に問題無く着ている彼女の名前は西宮桜花。瞳は普段糸目の為見えないがたまに見れると吸い込まれそうになる程に綺麗な黒い瞳の持ち主である。頬には少しそばかすが有りそれがさらに彼女の魅力を上げていると森野は思っている。化粧気が無く制服をあえて崩すなどのおしゃれもしていないが、ただ少しだけ長い彼女の瞳の様に鮮やかな黒い髪だけは毎日綺麗に手入れされている。しかしこれは怠け者の本人では無く彼女の妹がやっているらしい。身長は森野より低く女子の中では平均といった所だ。また常に気だるげでやる気と言うのを見せた場面が数えるほども無い。そして森野とは小学校の頃に転校してきて直ぐに一目惚れされて、直ぐに告白させ直ぐに振った仲だ。そして振ったのにも関わらずその後も諦めずにアタックしてくる森野となんやかんや話すようになった。しかし中学に入り森野が野球部で忙しく中々話す機会が減ったが。(それでもすれ違う度に告白してきた)こうして高校生になると同じ高校しかもクラスも一緒と言う事もありこうして再び話すようになった。
「なぁ桜花って天文部入るよな?」
隣を歩きながら質問すると彼女はうんと頷いた。
「なら俺も入って良いか?」
「別に私に許可はいらない」
「嫌だって言えば一応は別にする予定だからさ」
「…同じ部活にすら入りたく無い人とは、朝一緒に話さない」
彼女は少し照れているのかいつもより少し早口で言った。それを聞いて数秒停止したあと
「おいおいそれって愛の告白?もちろんこっちも愛してるぜハニー」
と某怪盗宜しく飛びつこうとしたがその前に
「……」
グキと言う音が足から聞こえた。犯人は勿論西宮だ。彼女によっておもいっきり足が踏まれていた。
「あぁぁぁーー!!」
やられた激痛で洋画のワンシーンみたく叫んだ。暫く痛みに絶叫していると
「よっー!二人さん相変わらずラブラブやな」
こっちのラブラブタイム(森野主観)をぶち壊して声を掛けた人物がいた。
「まじか!片岡」
森野はその人物片岡真の言葉に痛みを忘れて喜んだ。片岡とは小学校からの長い付き合いの友人であり、長年一緒に野球をやってきた戦友とも言える仲である。本当なら森野が投げる予定であった試合にも出ており、森野の代わりに少しは投げていた。そんな友人が二人を見てラブラブと言ったのだ。舞い上がった。
「そうそう。さっき足を踏んだのも照れ隠しや」
片岡は、普段から西宮と同じく猫背の為森野と同じ目線で軽薄そうな顔で半分笑いを作りながら胡散臭い関西弁で適当に言った。因みに関西出身では無い。
「愛してるぜ。myhoneyー」
ならばもう一度と再び言った瞬間二人を置いて先に歩いていた西宮が突如振り返り森野の腹に一撃を食らわせた。彼女からすれば確かに照れ隠しもあったがhoneyは流石に無いのである。きもい。そして片岡は半笑いを進化させて大爆笑になっていた。
「…そんなラブラブに見えた?」
彼女は地面で悶えている森野を無視して聞いた。
「いやー、全然や。どっちかというと母親と息子やな」
とまだ笑いながら返した。
それを聞くと再び先に歩き出した。森野はまだ倒れていたが
「西宮さんは先に行ったぞ。はよ起きろ」
と聞くとガバッと布団をめくる様な音と共に立ち上がった。
「しかし痛かった。球が当たったかと思ったよ」
「ハハハ、自業自得やろ」
「お前の責任が無いみたいな言い方は納得が出来ない」
そう言いながらお腹を擦りながら歩き始めた。西宮に追い付こうと少し早歩きで。結局三人は、並んで学校に着いた。森野達が通う学校はこの島で2つしかない高校の一つである。その為かなりの大きさで主にコンクリートで出来た校舎と日本文化の維持とか言う理由で木造で出来た校舎の二つに別れており森野達のクラスは木造の方である。
「正直さぁ木造が駄目だからコンクリートが主流になったと思うんだよ」
「…木造にも木造の良い所がある。例えばよく燃えるとか」
それ良いことか?森野は突っ込んだが西宮からの反応は無かった。時々彼女は奇天烈な発言を言う時がある。そして下駄箱に着いて靴を変えていると
「二人とも朝から熱いな」
先程と同じ様な文言が後ろから聞こえた。森野や西宮が反応するより前に片岡が
「何?俺は見えてへんのか?伊織さんよ」
と振り向いて言った。彼女は神条伊織と言う。森野や西宮とは、高校に入ってから知り合った人物である。髪は染めたのか地毛なのか分からないが透き通りそうに綺麗な紅茶の様な色をしている。背は森野と同じ位あり西宮より大きいのだが胸は西宮より無いと言うか壁である。だが何と言っても特徴は少し細い目付きに濁っている瞳だ。まさしく性格を表していると言っても良い。また着ている服も基本は西宮と変わらないが、下がスカートでは無く森野らと同じズボンを履いている。本来は校則違反だが今は多様性の時代の為先生もあまり強く注意出来ずに居る。そんな彼女の
「只のお邪魔虫だから仕方ない」
と言う言葉に森野がうんうんと頷いた。
「…ん。おはよう」
西宮が慣れたように挨拶を言うと神条は「はぁ」とわざとらしく口で言った。そして
「あの頃はからかうと顔を赤くしてたのにな」
と明らかに失望を込めて言葉を放った。まだ高校に入って少ししか経ってないのにもう慣れられさせられた辺りどれ程からかわれたのか分かる物である。
「相変わらず良い性格してんな」
森野はドン引きしながら言った。そんな神条に被害を受けている人物は多く彼もその一人である。
「人をからかうのが三度の飯より好きやからな」
片岡がうんうんと頷いた。神条は森野らと小中は違って高校に入ってからこの島に引っ越してきた。しかしどこで知り合ったのか片岡とは昔からの知り合いであり、何なら元恋人同士である。二人とも過去を余り話さない為、詳しくは森野や西宮も分からないが。
そしてきらーんと特徴的な濁った目が光った。
「お前には言われたくないな。散々私に色々しといて」
片岡は少し狼狽えながらも
「そればかりはお互い様やろ。伊織だってこの前」
と返したがこれが最後の言葉だった。彼女は口元に笑みを浮かべると次に片岡の腕を無理矢理持つと森野達のクラスとは別の方向に引っ張っていった。片岡は後が怖いのか特に何もするではなく大人しくついていった。
森野は御愁傷様です。と二人を見送った。しかしこれで邪魔者も無くなり桜花と教室に行けると思った瞬間神条が振り向いて
「でも愛しの西宮ちゃん。もう先に言っちゃってたり」
クスクスと言った。
そして辺りを確認し終わって愛しのあの子が居ないのに気づいた悲しき男の絶叫だけが靴箱にむなしく響いた。
教室につくと森野は真っ先に西宮の席を見た。西宮の席は窓側から三列目で後ろから二番目の場所である。彼女は座ってすでに前の席の友達の女子と喋っていた。その女子は白雪姫乃と言う。長い黒髪ロングと身長は小さいがそこそこある胸が特徴である。彼女もまた小中は違く高校からこの島に来て森野らと仲良くなった人物である。また白雪グループと言う会社のご令嬢であるらしくかなりのお嬢様である。
はぁと仕方なく何とか二時間先生を説得して勝ち取った西宮の隣である自分の席に着いた。すると2人の男が話しかけてきた。
「今日は二人とも別々なんだね」
「どうせ振られて置いてかれただけだろよ」
見た目が対照的な二人だった。最初に話しかけてきた男は山倉と言う。身長は平均は有るがかなりのガリガリの体である。強風が来たら吹っ飛ばされるのでは?と思う程だった。森野の友達としては珍しく口が悪くなく少し気弱だが優しいと本当の意味で良い性格をしている。もう一人の方は坂本巧と言い。背が自分よりも大きい片岡より更に大きく、そしてなにより目立つのはその筋肉である。どれぐらいかと言うとあだ名が日本版アーノルドシュワルツェネッガーとか実写バ○などの時点でエグい事が分かる。勿論見かけ倒れで無くかなり強いらしく今西宮と喋ってる白雪姫乃のボディーガードを正式に白雪グルーブから頼まれているらしい。一方性格は口はまぁまぁ悪いものの穏やかである。
「うるせぇ。本当にもうすぐもうすぐでいけたんだよ!」
森野がカッコ悪く反論しているのを聞いた白雪がお嬢様らしく上品に聞いた。
「って仰ってますけど?」
「……知らん」
机と半一体化しながら西宮が答えた。
「らしいですわ」
白雪が森野達の方を向いて言うと彼も机に突っ伏してしまった。
「ひでぇ事しやがる」
「あら?別にすぐ復活するでしょ」
と坂本の言葉に白雪は素っ気なく言った。そして西宮は知らん顔で眠たそうだった。
「ほら、元気出してよ。いつもの事でしょ」
山倉の慰めているのか止めを刺しているのか分からない慰めもありあっさりと復活した森野は他愛のない世間話を二人と始めた。普段より穏やかな会話だった。なぜかと考えるとすぐに答えが出た。片岡神条コンビが不在だからであると。森野と西宮のそれぞれの後ろの席は両方とも空いてた。
そして朝のチャイムが鳴り終わり先生が入ってきて朝のホームルームが始まった。
うちのクラスの先生は身長は小柄で見た目も小動物系で可愛いらしいが体育の先生でも無いのに常にジャージを来ていたりこのご時世にも関わらず授業中に下ネタを平気で言ったりする残念な女の人だ。男なら間違いなく首になっている、と言うか女でもなぜ首になっていないのか分からないレベルである。
「はい、出席をとる。居ない人。…片岡と神条がいな」
先生の声を遮るガラガラと正式名所新井式廻転抽選機みたいな音をたててドアを開けて入ってきた人物がいた。神条伊織だった。
「ギリギリセーフ!」
手を横に広げセーフと審判の動作をしながら入ってきた。最もセーフと決めるのは彼女じゃないが。
「…まぁセーフにしたる」
と言いながら先生は神条の頭にチョップをした。
「セーフの筈では!」
と少し涙目で抗議をしたが無駄な様だった。
「これで許し足るって意味だ。あれ?片岡はどこだ?」
先生に聞かれるが知りませんよ。トイレにでも行ってるんじゃと適当に言いながら自分の席である西宮の後ろの空いてる席に座った。
「おい!連行してたろ。片岡を」
斜め後ろに座った神条に少し話づらいが振り返りながら森野がこう聞いても先生が聞いた時と同じ反応だった。だが少し口元が緩んでいたのを見て片岡はもう死んだと感じた。正直連行されてた時点でこうなるとはちょっと予想していたが
「片岡よ!君の事は忘れない。0、2秒ほど黙祷をしよう」
「それって只の瞬きじゃないの?」
と左側の隣の席の山倉に突っ込まれたがそれ位しか片岡を思ってないので仕方ないのである。もし西宮だったらあの神条からでも救い出す為殴り込みにでも行ってたが。
キンコンカーンコンとようやく終わりを告げるチャイムの音がクラスに鳴り響いた。今日も全力で子守唄を歌ってくる教師相手に立ち向かった1日だった。勿論全敗で、すやすやと寝てしまったが。むしろこれを口実に使って西宮にノート見せてと言って家に行くかと考えていると帰りのホームルームが終わっていた。
「ようやく終わったか。あぁ疲れた」
坂本が腕を伸ばしながら言ってたので森野もうんうんと同意すると白雪が
「でも貴方達ずっと寝てませんでした?」
と寝言を言って来たので無視した。
「寝言言うてんのはあんたやろ。前に桜花愛してるって叫んでクラスの奴らドン引きしてたぞ」
片岡が呆れるように言った。
「なんで俺の考えてる事がって…そんな寝言言ってた……あぁあの時か!確かにあの時からクラスの奴らが俺を見る目が変わった気がする」
「懐かしいな。あの事件。西宮ちゃんずっと顔赤かったからな」
「まぁ森野さんはそれを風邪か!とか言って心配してましたけど全部お前のせいって話ですわ」
神条と白雪がまだ高校に入って一ヶ月も経っていないのに同窓会のような雰囲気で喋った。
「でも西宮さんも心配されて満更でもなかったって感じやったけどな」
片岡は笑いながら言うと流石に言いすぎたのか西宮に睨まれてしまった。更に何時もみたいな開いてるのか開いてないのか分からない位では無くガッチリと開いていた。
「うーん?でなんでここに片岡いるの?」
ようやく山倉によってまともな突っ込みが片岡に入った。それを聞いて
「あん?…なんでって片岡の事だ。授業だるいからサボってただけだろ」
と自分も寝てたのを棚に上げて森野が言っても
「ハハハ」
とただ片岡は笑うだけだった。
山倉は更に追及したが暖簾に腕押しだった。結局片岡が入った所からただの雑談になってしまった。すると五分たった辺りから白雪が
「坂本ー帰りますわよ」
言った。すると森野はやっと気づいた。既に西宮がいないと言うことに
「西宮はどこじゃ!」
戦国大名みたいに言うと片岡が森野の鞄からなにかプリントをするりと取って答えた。
「確か…今日から一週間って新入生部活体験の日やったやろ」
ほらっとプリントを森野に見せた。
「しまった!くそ今からじゃ追い付けない!地味に神条も居ないし」
「神条さんも天文部に入るって言ってましたわ」
それを聞くと片岡はシーラカンスが生息している所まで達したため息をついた。
「じゃ行くかぁ」
しぶしぶと言った感じの片岡は他の三人に
「君らも天文部どう?」
と聞くと坂本はちらっと白雪を見た。
「うーん?入りたいのですがこの時間は用事が…申し訳ございませんわ」
「と言うわけだ」
白雪も坂本も少し残念そうに言った。
一方山倉は
「まぁ、僕は良いよ」
結局三人で天文部の部室に向かうことになった。
天文部は森野のクラスの教室の二つ上の階段を上がって突き当たりにある生物室を部室に使っている。そこに向かうと階段を歩いてる三人だったが片岡が急に
「せっかく遅れるんやしインパクト溢れる事してぇな」
と言い出すと森野も
「ふっ。俺に任せろ最高のショーを見せてやるぜ」
自信満々に変な事を言い出した。山倉だけは嫌なことが起きると確信したが二人を止めるのは神条か坂本の筋肉しか出来ないので諦めた。
階段を登り終わり生物室の前に付いた。ここが天文部の部室ですよと女の子が書いたと思われる可愛らしい絵と文字が書かれた紙がドアに張り付いているのを確認してから森野は思いっきりドアを開けた。
「だがショーは俺がやるんや」
と片岡がそう言って森野に続いて入った瞬間大声で
「さて問題。張り切っていきましょう。幸運な島のお陰か死なへん街と言えばこの街やけど…埼玉にもある死なへん市はどこやろーなと?」
天文部らしき人たちはただ一人除いて全員ポカーンとしてた。
「ふふふ。簡単だぜ。正解は富士見市だ!」
森野は今朝ニュース見てよかったと初めてトラウマに感謝した。
「くっ、俺の負けや」と片岡は言って倒れた。森野はそれを確認してドン引きしている部室の人達を無視して大声で言った。
「この勝利を俺は愛しの桜花に捧げるぜ」
ただでさえ部室の空気はヤバイのにこの発言により部室の気温が2度は落ちた気がした。
部室の中は大きい机が六つありその机を中心に合計で15人程座っていた。
冷え冷えの空気の中腕をピシッとさせ見えもしない星に向かって指を指している森野とある女の人の笑い声だけがここを支配していた。
「さて桜花に届いたかな?」
森野は西宮がどこにいるか確認しようとすると笑い声の主がまだ笑いながら言った
「西宮ちゃんなら寝てるよ」
森野が声がした方を見ると笑い主である神条とすやすやと夢の中に入っている西宮の二人を確認した。そして西宮に今のが全部聞こえてなかったと知ると森野はその場に倒れこんでしまった。そうなると唯一まだ立ってドアの前に(片岡はまだ倒れてる)いる山倉に部活の人達の目が集まった。
そして視線を沢山集めた事によるキャパオーバーで山倉も地蔵の用に固まってしまった。
結構時間が過ぎたのか神条の笑い声も終わった頃流石にもう良いかと思ったのか片岡が起き上がって
「おい起きろや」
倒れている森野に水平チョップを食らわした。パチンと小気味の良い音が部室に響いて少し経つと森野は立ち上がった。
「痛い!かーたーおーか」
拳を握りしめ今まさに殴りかかろうとした。
「ほら皆ドン引きや」
「うるせぇよ。何ならお前も原因じゃねぇか!」
結局森野は文句だけ言って拳は納めた。
山倉も視線がまた森野と片岡に集まった事で地蔵が解け部室に入ってきた。
「と言うわけで部活体験に来ました。森野ですよろしく」
「どういうわけや」
「おめぇが言うな!」
それを聞いて漸く固まってた部員の一人が
「えっと。 ど、どうも天文部の部長を勤めてる星見って言います」
よろしくと星見と名乗った。その星見という女性は背が小さくオドオドと言った擬音を背中に背負ってそうな女性で息でもかければすぐに消えてしまいそうな雰囲気だった。ただ胸だけはかなり主張してた。 神条は勿論白雪より大きい感じだった。
「えっとね。 取り敢えず一年生はあっちの席に座ってくれるかな?」
と星見は六つある机の内左奥の西宮(睡眠)神条、他に四人が座ってる場所を指差して言った。森野達は今回は大人しくその机まで移動した。
「いやー。 かっこいい登場だったな」
席に着いてすぐ神条が笑いを押さえる気も無く言った。
「だろ?。 でも神条に誉められてもなぁ。桜花じゃなきゃ」
復活した森野が残念そうに言った。一方片岡は巻き込まれた形の山倉に謝っていたが心からでは無く少し笑いながらの感じだった。
「その態度は酷いな。この私が褒めてるのに…真だったら泣いて喜んでるよ?」
神条はクスクスとまだ笑いながら言った。
「あんなドMと俺を一緒にすんな」
「お前もなんやかんやMやからな」
森野は聞かないふりをした。精神構造上基本的に神条の話はスルーした方が良いのである。
すると隣の女子が
「君たち元気だね」
とキンキンのアニメ声で話しかけてきた。
初めて森野は他に席に座っていた四人を見た。四人のうち三人は女子で元から仲良しグループなのかずっと楽しく喋っていたみたいだ。そしてその中の1人が今話しかけてきたのである。あとの残りの一人である男子は片岡、山倉と喋っていた。そして話しかけてきた人物は横に主張が激しい人物だった。
「ほんとに馬鹿だろ?あんたら」
そう言ったのは身長も大きく活発そうな人だった。
「ほらほら。女の子がそう言うこと言っちゃ駄目だよ」
アニメ声が高身長に注意をした。
「うーん?でも皆キャラ濃いね」
最後の女子一人はこの中ではまだ普通の見た目をしていた。
森野は特にこの女子達に興味を沸かなかったから適当に返事をしていたが思ったより三人の女子特にアニメ声のデブに色々質問をされて困った。
「そういえば西宮さんや神条さんとは知り合いなの?」
ここから塩対応だった森野のオンステージが始まった。
「よくぞ! 聞いてくれた。 俺と桜花はまさに赤い糸の仲でラブラブなのだよ」
森野は西宮の事を聞かれた瞬間これまでの気がない返事から急に熱意を込めどれだけ自分と西宮がラブラブか語った。それを片岡と神条と山倉はまた始まったよやれやれと見ていた。
そしていかにラブラブかの話が終わったと思ったら今度は西宮の良い所に可愛い所にと話題が変わった。そして長い間語っていたが突然森野にゴンと学校指定の鞄が当たり無理矢理途切れてしまった。勿論物理法則に逆らって鞄が森野に引っ張られた訳ではない。
「… ………なに恥ずかしい事を言ってんだ。…あと嘘も多いし」
犯人はどこから話を聞いてたのか顔をほんのり赤くさせていた西宮だった。
「嘘は言ってないし 全部事実だけだ。 あと桜花の魅力の2%しか話してない」
「…過大評価だよ。あと前のラ、ラブラブって部分も」
言うのに抵抗があったのか少しどまりながら言った。
「けどラブラブなのは間違いないと思うけどな?」
「端から見てる限りな」
神条、片岡のお前らが言うなペアが言った。
それらの援護を得た森野が
「と言うわけで俺らはもう付き合ってるで良いよな?」
「… 良くない」
普段糸目な西宮がキリッと目を開けて森野を見て言った。
そして空気を読めない森野も流石にこれには大人しく黙った。
が空気を読めないのではなく読まないペアーである片岡と神条は
「せやけどそないな事言うても西宮さん。森野が野球部で忙しい時寂しそうやったやん」
「早く堪忍しろよ?もたもたしてると他の人の所に行くかもよ」
まだまだしつこく追撃をした。
「…別に」
西宮は目をいつも通りの糸目に戻して言った。
「俺はずっと桜花一筋だぞ?」
森野はなに当たり前だろと顔で言った。神条はそれを聞いてピューと口笛を吹いた。そして片岡に向かって
「君もあれぐらい素直だと良いのに」
と言うと
「お前が言うなやお前が」
「そう言うなら早く私をデレさせろよ」
と片岡に返された。その後何がおかしいのか二人して笑った。
「えっといつもこんな感じなのか?」
そんな光景を見て森野達が来るまで唯一の一年男子が山倉に聞いた。
「お恥ずかしながら」
そう返すのが常識人の山倉には精一杯だった。
「えーと。そろそろ良いですか?こっちに注目してください」
先ほど森野たちを席に案内した部長の星見がピョンピョン跳ねながら言ってた。再び寝ようと目を閉じている(大体閉じているので違いが分からないが)西宮とそれをじーと密かに見ている森野を除いて喋るのを止め皆星見に注目した。
森野が西宮観察を止めたのは片岡にチョップされてからだ
「おーい!意識あるか?今日はもう自由やって解散してもええし、まだ残っててもええって」
「聞いてた聞いてた」
森野は勿論聞いていなかったがとりあえず知っているふりをした。さてどうしようか?まぁ桜花次第だなと思っているとアニメ声が聞こえた。
「ねぇねぇ。まだ皆時間大丈夫?なら一年生で自己紹介しない?」
と提案をしていた。
「確か今日ってまだお試し期間やったよな。君達はもう入るって確定してんのか?」
片岡が返したらアニメ声や他の二人もうんと頷いた。それを聞いて神条も
「じゃやるか。私も入ろうと考えてたし……西宮ちゃんはわかんないな。寝てるし森野は?」
特に考える素振りも見せず
「桜花次第だか、まぁこの様子だと入ると思うから俺もほぼ確定だな」
そして二人の同意が得られるとアニメ声が
「じゃ私達だけでも自己紹介しましょ」
「まだ、旦那さんとえーと桜井にも聞いてへんやろ」
旦那さんって言うのは山倉を指しておりであり片岡はたまにそう呼ぶのである。なぜかは不明だが。桜井は多分今も山倉と喋っている俺等を除いて唯一の一年生の男子の名前だろうと森野は推測した。
片岡が良いか聞くと二人とも了承して自己紹介を行う事になった。
最初は言い出しっぺっだからかアニメ声からになった。森野は流石に西宮から目を離して彼女を見た。
「はい。私の名前は榊原って言います。趣味はカラオケかな?皆さんよろしく」
パチパチと回りの人がやっていたので森野も合わせて拍手をした。朝見たくだらないニュースよりも興味が湧かなかった。
「ほら、次は梨子ちゃんの番だよ」
「あぁん?私もやるのか」
榊原にもうそんな事言っちゃダメだよと言われ少しムカついてる用に見えた。そして投げやりに言った。
「えっと。吉原梨子。よろしく」
顔が少し赤くなってた。意外と恥ずかしがり屋かもしれないと森野は西宮の睡眠姿をちらっと横目で見ながら思った。
最後の女子は深浦と言い。他の部活にも入っていると言った。意外とテンションが高めだった。
「じゃ私か。神条伊織でーす。気軽に陛下か閣下とでも呼んでください」
流石神条。初っぱなからつまんないボケを放り出してきた。それとなんか片岡の様子が少しおかしい。具体的には少し悶えている。
「えっと?陛下って」
深浦が当たり前の疑問を聞くと
「まぁ真以外なら呼び名は何でも良いよ。アオちゃんやアーちゃんでも。真以外は」
片岡が無言で神条を睨んでいるがどこ吹く風だ。そして西宮の番に回ってきたが寝ている為どうしようとみんなが思った瞬間神条がおもいっきり西宮にチョップをした。
「うっう」
呻き声をあげ西宮が起きた。手でチョップを受けた部分をさすりながらどうせ犯人は神条だろとギロっと普段閉じている目を開けて睨み付けた。これで二人から睨み付けられているが神条は一切気にせず、それどころかむしろそれを見て勝ち誇っている顔をしていた。そして少し笑いながら西宮に自己紹介していると説明し次は君の番と言った。
「…… ん。西宮桜花。よろしく」
と椅子から立ちもせずに言った。しかも変な起こされかたしたからか明らかに機嫌が悪い。ただ眠気は少しの間だけ家出したらしく突っ伏しはせずぼーとし始めた。森野は勿論それをなるべくばれないように眺めていた。そして中学に比べると丸くなったなとぼんやり考えていた。中学のクラスの自己紹介の時なんて彼女はずっーーと寝て結局自己紹介しなかったと言う伝説がある。本人に聞くと体力が持たないらしい。ただ意外と運動神経が良く女子の中で50メートル走トップクラスだったりもする。そんな事思っていたら山倉と桜井の自己紹介が終わって片岡がやってた。
「レッサーパンダとかけて神条伊織と解きます。その心はどちらも腹が黒いでしょ。どうも片岡真です」」
何を考えているか分からない顔をしてしれっとボケを挟んできた。ようやく出番が回ってきた森野も続いて
「西宮桜花とかけてバラと解きます。その心はどちらもたかねの花でしょう。森野烈火です。よろしくお願いします」
片岡に被せて言った。
「と言うわけで座布団を10枚集めた……」
さらに神条が被せたが
「あれ?笑点みたいにになってるじゃん」
アニメ声が遮るように突っ込みをした。
ハッハッハッと一年のほとんどが笑った。笑ってないのは西宮と片岡位の者だった。森野は西宮なら仕方ないとしても普段壊れた人形みたいじゃないかと思う位笑う片岡が笑ってないのを見て不審に思って
「どうした?」
と聞いてみると小声で
「…伊織の奴。あのあと何かボケようとしてて遮られたから絶対怒ってる」
森野はそう言われて改めて神条を見たが、普段自分等と喋っている時よりも何ならにこやかで怒っているか分からなかったが、自分がそんな女心など分かる筈も無いのでふーんと適当に返した。そんな怒っているらしい神条だが
「そう言えば深浦さん他の部活に入るとか言ってたけど」
と話を変えた。
「うーん。美術部だよ」
「へぇそうなんだ。私達も美術部にも入りたいと考えていたからさぁ」
「なら今から顔出しにいく?解散みたいだし」
それは良いねと神条が行こうとしているのを見て森野は時間を見た。今は4時を回り少しだけ教室が暗くなって居た。
「なら俺らは帰るか」
と西宮に聞いた。半分寝ていた西宮がうんと寝言の様に言うとのっそりとしながらも意外と俊敏に帰る用意をした。他のメンバーも帰るで一致したらしく解散することになった。当たり前の用に片岡は帰ろうとしてた所を神条に捕まって美術部に強制連行されてしまった。南無三。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます