満月の恋
冬野 暉
満月の恋
満月の夜、海の底に月のしずくが落ちてきた。
月のしずくは銀色のあぶくにくっつくと、うさぎになった。
「こんばんは、人魚の娘さん」
「よい月夜ね、うさぎさん。今日はどんなお話を聞かせてくれるのかしら」
海の上に上がることを許されていない人魚の娘に、うさぎは雲の上の永遠の国について語った。
人魚の娘はうっとりとうさぎの話に聞き入っていたが、やがてため息をついた。
「人間が羨ましいわ。死んだら永遠の国へ招かれるなんて。魂を持たない人魚は、死んだらあぶくになって消えてしまうのに」
「おやおや、それはなんとも寂しいことだ」
満月は人魚の娘に恋をしていた。
月のしずくは、娘恋しさに満月が流した涙。彼女を手に入れるために、うさぎは人魚の掟を破るよう唆した。
「人魚が魂を得る方法を知っているかい? 人間を愛し、同じように愛されればいいんだ」
たとえ人魚の娘がだれを愛しても、雲の上まで昇ってきた彼女の魂は満月のものになる。
無垢な娘を悲劇へ誘う役目を果たし、うさぎは銀色のあぶくに戻ってぱちんと消えた。
満月の恋 冬野 暉 @mizuiromokuba
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
卒業/卯の花腐し/冬野 暉
★12 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます