紅い夜

@kaededdddd

第1話

その時、恋をした。口元を紅く染めたあなたに、、、

ー紅い夜ー

金持ちの子供というとどんなイメージを持つだろうか。大半の人間は[甘やかされて育った苦労を知らない子供]というイメージを持つだろう。現代において金は正義だ。金じゃ解決できないことも少なからずあるが、金で解決できることが世の中には多くある。

私の父は資産家で、私は金持ちの娘として育った。金持ちの娘、さぞ愛されて育ったのだろうと、私を知らない人間はそう言う。しかし実際のところ、両親が愛を注いだのは兄の方だった。私は生まれつき体が弱く、いずれ父の仕事を継ぐ兄の補佐としての器量がないと言われた。

かと言って家を追い出されたりしたというわけではない。私は今学期で大学4年生となるのだが、ここまで育ててくれたのは両親と、世話係のメイド達のおかげだ。

大学を卒業したら、私はどうするのだろうか。夢というものは私にもあったが、心の成長と共に現実を知り、いつしか捨ててしまった。

...朝から嫌なことを考えてしまった私は憂鬱な気分のまま起床した。重いカーテンを開けて私は朝の光を浴び、部屋の換気をするために窓を開ける。今日は風が強いらしい。窓を開けると、風は私の髪を激しく揺らし、昨晩途中まで読み進めた本のページを凄まじい速さでめくっていった。

ひょいとベランダを除くと黒い塊が目に入った。その正体は弱りきったカラスだった。見てみると足と腹部に酷い怪我をしており、出血もしていた。治療するべきか考えたその瞬間、閉じかけていたカラスの目は完全に閉じた。今私の目の前にいるカラスは、この瞬間命を散らしたのだ。

[朝から不吉だな]

私はそう嘆き、鉛のように重い服を着替え、気持ちを切り替えた。自室を後にし、洗面台にまで向かう。その途中で何人かメイド達と顔を合わせた。

[志織様、おはようございます]

と丁寧に朝の挨拶をされる。

[うん、おはよう]

そう返し、私は洗面台に辿り着く。歯を磨き、口をゆすいで、顔を洗って、タオルで拭き、髪をとかす。ふと鏡を見てみると、陰気そうな女が私の目を見ていた。なんて暗い女なんだろうな、と私は卑屈になる。私は朝食は摂らないため、食堂には行かず、自室に戻る。その途中で執事の宏哉と出会った。

[志織様、おはようございます]

他のメイド達と同じように私に挨拶をする宏哉だが、その声には他にはない温かさを感じる。宏哉は虚弱体質故に家族から愛をほとんど注がれなかった私に対して、愛をもって接してくれていた人だった。私が体調を崩すことは珍しくはないのだが、その度に宏哉は私を看病してくれた。恐らくだが、私は宏哉がいなかったらこの広い屋敷でより孤独を感じていたと思う。

[うん、おはよう宏哉]

ちなみに宏哉はうちに使える身としては唯一男で、28歳と私の兄とほとんど変わらない若さで執事長なのだ。(執事が一人しかいないのに長も何もないだろう、という指摘は誰もしないのである。)

[今日も朝食を摂らないのですか]

[今日も明日も、食欲は湧かないわ]

[そうですか、それでは昼食の時にまた]

[うん、またね]

宏哉は私に軽くお辞儀をしてから食堂の方へと向かった。宏哉と軽く会話をした後私はすぐに自室に戻り、換気をし終わったであろう窓を閉じようとしたのだが、既に窓は閉じてあった。またベランダを除くと、そこにもうカラスの死骸はなかった。

本当にうちのメイド達は優秀だ。恐らく外回りをしていた誰かが私の部屋の黒い影を見かけ、即刻掃除をしたのだろう。誰かはわからないが、後でお礼をしないとな、と私は心の中で感謝をした。それにしても、私がこの部屋を出て20分程度、そんな短時間でここまで綺麗にカラスの死骸の掃除を血痕一つ残さずにできるのだろうかと疑問点はあったが、考えても解決しないことはわかっているのですぐにその問題を切り離した。

私は読みかけの小説に手を伸ばす。強風のせいでどこまで読んだか正確にわからなくなってしまっていたので、自分が読み進めたと確証のある章から読み始めた。その小説は吸血鬼が題材となっており、一種のホラー小説であった。そのなかに人間の愚かさなどが細かく描写されており、中々に考えさせられる作品だった。

吸血鬼か、、、現実にいたら私はどうするのだろうか。やはり十字架やにんにくなどが効果的なのだろうか、と非現実的なことを考えながらも私はその小説のページを次々とめくっていく。その小説もクライマックスへと近づいたのだが、私はそこで眠くなってしまった。昼食は食べると宏哉に言ってしまったのだが、突如きた睡魔に私は打ち勝つことができず、そのまま夕方まで目を閉じるのであった。

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