第22話 同時視聴@限界オタク
『にゃっほろ~! 新人紹介系アイドルの新見真希で~す!』
ミーコが配信を始める十五分ほど前。
真希は普段よりも高い声で挨拶をした。
『あのにぇ、真希にぇ、今とっても笑顔なの〜!』
:きっつ
:うわ
:きっつ
:開幕一秒で出して良い火力じゃない
『……はーい。今ウチの笑顔を奪った連中の名前をメモしました。覚悟の準備をしておいてくださーい』
声のトーンが元に戻る。
そして彼女は訓練された視聴者達に向かって語り始めた。
『聴いて? 昨夜の
:急に発狂するじゃん
:平 常 運 転
:^q^
:この緩急ほんと癖になる
『ウチ思わず海岸に直行してルイズコピペみたいなこと絶叫してたわけ。あのコピペさぁ、ぶっちゃけ古のオタクがネタでやってると思ってたけど、違ったわ。ほんと。痛感した。途中で警察が止めてくれなかったら一生叫んでたかもしれん』
:通報されてて草
:特定犯、出番だぞ
:マキルートの後に海岸沿いで待機だな。覚えた
『ミーコしか勝たん!』
:コメント見てねぇぞこいつw
:久々だなこんな興奮してんの
:実際かわいかった
『寝て起きたら冷静になったんだけどさ、ミーコはウチが産んだかもしれん』
:???
:?
:(;゚Д゚)?
:?????
『痛っ、痛た、痛たた――産まれた! ……ね?』
:ね? じゃねぇよwww
:腹が痛いのは我々定期
『というわけで、八時から始まるミーコの配信を同時視聴しゅりゅよぉ』
:冷静に溶けてる
:しゅりゅよぉ^q^
:声のトーンだけ普通なのにwww
『マキリスは推しの配信を見る時なんか装備する?』
:ワイはコーラ片手に
:特になんも
:風呂入ってから見てるわ
『ウチは……』
真希はゆっくりと画面下部にフェードアウトする。
『じゃーん!』
数秒後、画面下部からドンと現れた。
衣装が変化している。
桃色の法被。パリピなメガネ。そして手には団扇。
団扇には「ミーコのこたつになりたい♡」と記されている。
『あっと五分。あっと五分』
:うっきうきで草
:どこから突っ込めばいいのwww
『あっと四分。あっと四分』
:おっと?
:^q^
:ずっと言ってるwww
:これ耐久か?
『あっと三分。あっと三分』
:今来た。何これ
真希が唐突に忍耐力テストを始めると、後から来た視聴者による困惑したコメントが投稿された。彼女は、「あっ」と心の中で呟き、画面に「#ミーコの配信同時視聴」という文字を表示させる。
:コメント読んでて草
そのまま時は流れ、ミーコの配信が始まる。
『きちゃぁ~!』
真希は叫び、団扇を裏返した。
そこには「ミーコ、真希がこたつだよ♡」とある。
:こいつwwww
:^q^
『待って!!!』
:?
:??
『39.2を見て体重を連想するってことは……ミーコの体重……ってコト?』
:軽すぎん?
:小学生かな
『ふわふわミーコきゃわぁ~!』
:^q^
:もしかして今日ずっとこのテンション?w
:ミーコの喋り方コラボの時と全然違うな
『風邪ひいた時は寝て~!
ウチと一緒にこたつで寝ようね~!』
真希が叫んだ数秒後、ミーコは「やだ」と発言。
『ほぇっ!?』
:拒絶されてて草
『はぅぁっ!?』
:かわいい
:どうした?
『んぎゃぁゎぃっひゃぁぁぁ~』
真希の声が遠くなる。
『ミーコ! ミーコ! ミィィィィィィィィィ! がんばって~!』
ミーコは「えへへ、ありがと~、がんばる~」と言った。
:ファンサ完璧かよ
:返事してて草
:なんでリンクしてるのwww
まるで真希に返事をしたかのようなタイミング。
同時視聴している視聴者達は感動したようなコメントをするが、真希はパソコンの前から離れて絶叫しており、そのシーンを見逃したのだった。
『かわいいしかない』
ミーコの配信は続く。
真希は逐一オーバーなリアクションをした。
『そうそう。昨日のコラボを見た人はビックリしてるかもだけど、普通に配信してる時はこんな感じなんだよね。ちゃんとコメント拾ってるし、配信環境も良さげなの。野生のプロじゃんね。だから昨夜のコラボは台本とか作らなかったわけ。でもミーコ全く喋ってくれないじゃんね。あれほんとマジで焦った』
:急に冷静になるじゃん
:一周回るとよくあるやつ
:何分持つかな?
『やばい。このままだと事故る。なんとかしないと。そんな感じの焦燥感が最終的に全部――ですぞぉおおおおお! んぎゃぁわゎゎゎぁぃっひぃぃぃ~!』
:一分持たなかったな
:wwwwww
:^q^
:語るか見るかどっちかにしてww
真希のアバターが硬直する。
彼女がカメラの前に戻ったのは、ミーコが二つ目の動画を再生する直前だった。
『あー、これこれ。ウチこの動画でミーコを知ったんだよね』
:おっ、賢者タイムか?
:今度は何分持つかな
『ウチはアニメとか一回見たら満足する派なのね。全部覚えるから、リピしたい時は脳内再生した方が速いみたいな感じ。特殊技能? まぁそんな感じ。羨ましいだろ。ほんでね? この動画も全部覚えてんだけど――』
真希は視聴者のコメントを読みながら動画を視聴する。
『この動画だけ見るとさぁ、ファン千人とかお兄ちゃんとか設定なんだろうなぁって思うじゃんか。そもそも無名の個人勢が切り抜かれるとか自演を疑うよね』
:急にIQ上がるじゃん
:確かに自演くさい
『でもかわいいから本家チェックするじゃん?』
:わかる
:広告は釣られてなんぼよな
『ビックリした。毎日行動してるし、セルフまとめ動画も作ってんの。ウチの場合は新人食べて生きてるから、これはもうアーカイブ全部見るしかないですぞって思ったわけね。それがもうほんと……』
:言い方よ
:わかる。新人発掘は食事よな
:涎を吸う音しなかった?
『ただひとつ気になることがあって、今流れてる音声どのアーカイブにも無いんよ。別の場所で配信してたのかな? めっちゃ気になる。誰か知らない?』
:知らない
:わからん
『役立たずどもが!』
:もう一回お願いします
:罵声助かる
『もう言わない。とりまミーコのアーカイブは全部見るべき。さすれば、自演を疑う薄汚い心が浄化されることでしょう。アーメン』
:突然の聖女
:お前が懺悔しろ定期
『わたくしに懺悔することなどございません』
:昨日警察呼ばれた奴が何か言ってる
『警察の方にはミーコを布教いたしました』
:つよい
:何やってんのwww
『動画そろそろ終わるかな。いやこれほんと良くできてるよね。ヒキニートやってたミーコがお兄ちゃんを安心させるためにファンを百万人集める。ストーリーちゃんと分かるし、初見の人でもミーコのこと応援したくなるようにできてるのよ。特に……これ! ここ! ここなんだよなぁ! 千人集められなかった瞬間の反応……あー、ダメダメ。死人が出ます。尊死警報発令。ピピピピピピ~』
:ピピー!
:ピ……ピ……
:ピーーーーーーーーー
『死人出ちゃった……』
その後も奇声を交えながら視聴を続ける。
そして一時間後、ミーコは配信を終えた。
『これは応援したくなるよね~』
:分かる
:しかし百万人か
:個人で達成してるやつおる?
『個人で達成……ロリ神?』
:そいつ実質ホロやろ
:意外とおらんよな
:企業勢と絡みまくるしかない
『なんかやるかぁ……』
:お?
:楽しみ
:推しの前で涎出てない真希ひっさびさやな
『ぶっちゃけると……いや、やめとく』
彼女は言葉を飲み込んだ。
その後、配信ツールとは違うウィンドウに目を向ける。
コラボ配信の関連動画。
総再生数、そしてチャンネル登録者数の推移。
彼女は思った。
これは――稼げる!
『イベント考えとく~』
:マジか!
:楽しみ
:いつぶりだ?
彼女はお金のことを考えながら五分ほど雑談をして、配信を終えたのだった。
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