Why so lonely

立花 ツカサ

Why so lonely


あなたとの出会いは、本当に映画のようだった。

忙しさから目を背けるように桜を見つめながら、いつもとは違う道を歩いて会社へ向かう。

心の中で、「綺麗で儚いな・・・」と思いながら、青空に映える薄いピンク色の桜を眺めた。


急にブワッと風が吹き、桜が散った。思わず目を瞑り、ぱっと目を開けると桜吹雪の奥に、誰かが立っていた。

儚く散る桜の中にいるからか、その人の横顔も儚い夢のように綺麗に見えた。

「綺麗・・・」

思わず、口に出た言葉に反応するかのように、その人はこちらを向いた。

「ええ、とても綺麗ですね。」

話せるなんて思っていなかった。

でも、口から出たのはあまりにも自然な「はい。」という自分の声だった。

桜に包まれながらなんとなくその場にいると

「よかったらこれ・・・」

と言ってその人は私に葉書サイズの紙を手渡した。

裏を見るとそこには癖のある字で

『舞うように 私の思い 桜色』

紙には淡い色で桜の花が描かれていた。

「すてき・・・ありがとうございます。大切にしますね。」

その人の顔を私は見つめて言うと、くしゃっと笑い「ありがとうございます。」と言った。

それから彼は、私の歩いてきた道の方へと歩いてゆき、私は会社に向かってまた前へ歩いた。

それから、その俳句の書かれた紙を手帳に挟んで持ち歩いた。

時に心の支えとなり、時に私を癒すこの俳句は宝物だった。

あの人にもう一度会いたいと言う気持ちはどこかであった。

私はリアルに恋をしているのだろう。

どうしても会いたいと思ってしまった。

あの俳句を検索してみたが、何も出てこなかった。

少し嬉しかった。

いや、かなり嬉しかった。

でも、なのに、それから数ヶ月後の春の日、私はあの俳句をどこかで無くしてしまった。

「うそ、なんでないの・・・なんで・・・」

たくさん、たくさん探した。でも、見つからなかった。

悲しい気持ちを抱えながら、あの時の彼と俳句に出会った道を歩いた。

俯いて、散って踏み潰された桜の花びらを見て、自分と重ねてしまった。

私だって、こんな風にすぐに落ちて踏み潰されていくんだ。

飛ばされたら、もう終わりなんだ。

「お久しぶりです。」

前を向くとそこにはあの時の彼が立っていた。

「これ、落とし物です。」

彼の手の中にあったのはあの俳句だった。

「ありがとうございます。でも、どこで・・・」

ぱっと彼の顔を見ながら言うと彼はまたくしゃっと笑って

「木の葉舎へ行った時に廊下に落ちていたんです。」

「えっ・・・もしかして・・・」

そこは、私の勤めているところだ。

この人は・・・

「僕の名前は、常咲透です。これから一緒に仕事ができるようなので、楽しみにしています。桜井はのんさん。」

やっぱりそうだ。

企画ができていた。まだ認知度がそれほど高くないが将来を期待された、新人「常咲透」の歌集を出すと。

そして、その担当が私だと。

顔出しをしていなかったので今度の会議で初めて顔をあわせると話をしていたのだ。

「桜って、人に例えられると僕は思うんです。

人だって、一人一人は淡くて儚い。でもたくさんの人が集まっているから綺麗に見える。一本の木の中で色が濃いものもあれば薄いものがある。でも、それらが全部調和して美しいと感じる。そして、花は散っても、形を変えて葉になって実になっていく。見え方は変わってもそれは間違いなく一本の木であり、その人はその人なんだと思います。」

聞き惚れてしまった。

「あっすみません。なんだかまとまりのないこと言っちゃって。でも、少し元気がなさそうだったので・・・」

「すっすみません。ご心配おかけしてしまって。」

「いや全然。謝ることないですよ。」

映画のような再会だと思った。

それから私は彼のことしか考えられなくなった。

これから私たちはどうにもならないのに、こうなるんじゃないか、ああなるんじゃないかと考えを巡らせてしまう。

そんなことを考えるたび、私の心はミント液に浸ったかのようにスースーする。

「何考えてんの。叶うことないのにこれが、リアコ?辛っ・・・」

それから一緒に仕事をして、彼の歌集が発売された。

春の俳句の中に、私がもらった俳句はなかった。

「こんなの・・・私・・・期待しちゃうじゃん・・・」

この恋の俳句が自分に向けられたものだと、思いたくて思いたくて仕方ない。

「望んでも、苦しいし悲しいし寂しいだけなのに・・・バカだなぁ私」

5畳の小さな私の部屋には重たい空気が詰まっていた。

何度も何度も彼のことを調べるのはやめにしようと思ったが、逆におあずけを食らうように思いが膨らみ、自分でも夢中なことがわかった。

もうこれは好きとか恋ではなく執着なのであろう。

夢中とか一途とかではなく執着なのだろう。

気持ちが悪くて反吐が出そうなぐらい自分が醜い。

でも

やめられない。


いつになったら、あなたを諦められるの?

いつなの?

あなたは、私のこと・・・


桜が舞うたびに、あなたを思い出してしまう。

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