異世界お仕事インタビュー

タナカ

1 異世界商社ウーマン

ごきげんよう。

私の名前は魚住奈緒子。

業界トップの総合商社「角青」で働いているキャリアウーマンよ。

商社には総合と専門があるけれど、その違いはよく分からないわよね。

けどそれは至って簡単よ。

専門商社は「繊維」や「鉄鋼石」など限られたものだけ。

となると総合商社は?

そう、「なんでも」扱うの。

その「なんでも」は文字通りなんでも。

あなたが食べてる「海外のお菓子」やみんなが欲しがる「あの靴」などなど、たくさん扱っているわ。

そんな中で、私は「異世界モノ」を扱っているの。

どう、驚いた?

私も配属された時は驚いて腰が抜けかけた。

けど、私は異世界に行ける能力「コネクター」を持っている数少ない人間の1人。

私以外が担当できるはずもないわけ。

そんな私の仕事を1日だけ紹介するわね。



以下、幻夏社のインタビュアーがお届けします。


—今日は何をする日なんですか?


今日は異世界で買い付ける品物を視察しに行く日よ。


—どうやって異世界に行くんですか?


いいわ、異世界に行く方法を今回は特別に教えてあげる。

コネクターしか使えない特別な能力よ。

まずはどこのドアでもいいから適当に見つけて。

あ、あそこが良いわね。

今回は304会議室のドアを使うわ。

ドアについたら左手でドアノブを回すの。

簡単でしょ?


—これだけで異世界に行けるんですか?


そうよ。

ほら、ドアの向こうを見てちょうだい。

失敗してたら質素なつまらない会議室が見えるはずよ。


—会議室じゃないですね。


あら良かった、無事成功したみたい。

向こうに見える木造の部屋は私が以前から仲良くさせてもらってる方のものなの。

どうぞ、入って。


—異世界の方と知り合いなんですか?


そうよ。

もう、必ーっ死で向こうの言語覚えたわ。

参考書もない中で大変だったけど、異世界の刺激的な日常のおかげであまり退屈な勉強ではなかったわね。

案外向こうの人たちもいい人たちばかりですぐに仲良くなれたわ。

さ、外に出ましょう。


—ファンタジー世界のようですね。こちらと現世で共通しているはありますか?


そうね、共通点と言えば人体構造や社会構造かしら。

こちらの方たちは見て分かる通り、私たち「人間」と同じ見た目をしているわ。

もちろん会話もできるし倫理観や繁殖方法も同じよ。

文明レベルも少し前の現世に似ているの。

村や街、貨幣など社会に必要な要素は基本的に整えられているわね。

けどやっぱりインフラは現世に敵わないわね。

良く言えばファンタジー、悪く言えば不便。

もちろん、Wi-Fiもないし携帯が使えないからハグれないようにね。


—気をつけます。逆にこちらの世界と違う点は?


強いていうなら街の外に見たことない動物がいることだったり、科学とは違った力が存在することね。


—というと?


魔法やモンスターの存在よ。


—なるほど、襲われる危険性は? 急に現れたりしないのでしょうか? モンスターの大きさはどのくらいですか?


心配性ね、あなた。

基本街の中にいれば大丈夫よ。

今日は外に出ることもないから安心してついてきて。


—ありがとうございます。今はどちらに向かっているんですか?


道具屋よ。

あそこの大きなとんがり帽子の建物が道具屋ね。

あ、テミスさんだ!

こんにちは、テミスさん。

こちらにいるのは私のインタビュアーよ。


—こんにちは。彼は?


彼は道具屋の主人。

初めてこっちに来た時、私の時計をあげたらすっかり気に入られちゃって。

異世界の食べ物や道具などを色々教えてくれるわ。

今日はどんなものを紹介してくれるのかしら!


会話は私が翻訳してあげるから、心配しないでね。


—以下、奈緒子さんとテミスさんの会話を一部記載します。


テミス

「ナオコ! 今日はね、面白い道具を持ってきたよ!」


「あら! それは楽しみね!」


テミスさんはこちらの世界の「針」らしき小さく鋭いモノを無数、机に置いた。


テミス

「これはね、「ほぐし針」と言われる道具さ。ポイズンキャットの毒牙から作られた代物だよ」


「どんな効果があるの?」


テミス

「これを患部に刺すと…イテッ! この通り、ポイズンキャットの毒の効果で凝りがほぐれるんだよ、少し痛みがあるけどね」


「…うーん、なかなか物騒ね。こちらの世界では安全性がとても重要なのよね…他にもある?」


テミス

「うーむ、あ! それなら、これはどうだい? 以前ナオコが欲しがっていたものだよ」


「もしかして! サンダースワローの羽?!」


テミス

「よくわかったね、僕には正直コレになんの魅力があるのかわからないが」


テミスさんは黄色い羽毛をどっさりと机に広げた。


「買うわ! コレ全部!」


テミス

「こんなたくさん何に使うんだい。私たちの世界だと、サンダースワローの羽毛なんて小さくて触り心地も良くないからなんの価値もないんだがね、正直これはゴミだよ」


「コレは電気を通しやすい上に耐久性が高いのよね。錆びたり劣化しないのが凄いわ。それに、こっちに電化製品を持ってくる時に使えるのがありがたいわ」


テミス

「よく分からないが、買ってくれるならそれだけでありがたい。交渉成立だな」


—以上になります。

—奈緒子さん、交渉成立しましたね。


ありがとう、けどコレで終わりじゃないの。

今回は視察よ。

帰ったら上司に確認して、それから許可が降りたら実際に買い付けにくるのよ。


—なるほど。そう言えば、テミスさんは私たちの世界のスニーカーを履いていました。奈緒子さんが売りつけたのですか?


よく気づいたわね。

私たちの世界と同じで、こちらの世界の人にもスニーカーがウケるみたい。

特に冒険者の間ではスポーツシューズ「オールドバランス」が流行っているわ。

なんでも、長時間険しい道を歩いても疲れにくいし壊れにくいって評判なの。


—なるほど、やはり快適さを求めるのはどの世界も共通なんですね。


その通り。

どの世界でもマーケティングの知恵は無駄にならないみたいね。

異世界の人たちにモノを買ってもらう時は「快適さ」「便利さ」「目新しさ」が重要だと思って接しているわ。

けれど、あまりにも彼らとかけ離れた現代の技術を与えてしまうと、向こうの大事にしてきた文化や伝統が壊れてしまうでしょ?

だから、そこの塩梅も大事にしているわ。



—異世界といえども、私たちと共通する部分は多くあるんですね。どんな顧客でも尊重して察する態度、深く感銘を受けました。今回はインタビューさせていただきありがとうございました。


いいえ。

もっと面白い業務もあるんだけれど今日は見せられないから。

会社の許可が降りた時にまた来てちょうだい。

その時に私がまた案内するわね。


—ありがとうございます。今後もよろしくお願いします。

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