第71話 vs 太郎 2
左手を真っ直ぐ前に出し、手の平をサイザワさんに向け静止を促した。
「確かに、白金すら一刀両断するような貴方に、俺が敵うはずは無いです。
判りましたから。取り敢えず、息を整えさせて下さい」
そう言って、数度大きく息を吸って、吐いた。
「召喚の陣」
太郎がそう小声で呟くと、始動直前の輝く召喚の陣がサイザワさんの足元を中心に展開する。太郎は最後の魔力を込め、その魔力の方向を封印の指輪に定めた。
陣の中央が封印の指輪になることを意識して出現させていた。指輪中心に力が働いてくれることを祈った。
「何故、ここに魔方陣が」
召喚の陣が発動し、サイザワさんはその召喚の陣を見つめている。
「間に合わなかったんだ。やられたね。勇者達はもう、いないのか。
君はそれで、いいのかい。
でも、こちらから出向く。それもいいかもしれない。その方が、退屈しなさそう」
本当に嬉しそうに、愉しそうに彼女は笑った。言葉の半分も太郎にも届かなかったが。
「行ってらっしゃい」
彼女の徐々に体が光の粒になって消えていく。上手く行けば、邪神たちのいる世界へサイザワさんは行けたはずだ。此方の世界に呼び出すよりも、戦いたい人が、あちらへ行ったほうが良いだろう。
少なくとも召喚陣を動かしたから、太郎達の世界に行くことは無いはずだ。そのために、この場所を選んだのだ。
サイザワさんと話をしていたのは、トランクルームに収納した召喚の陣に魔力を込める為だった。出したら直ぐに発動できるように。単に召喚の陣に魔力を通すだけならば、トランクルームの中でも十分可能だった。
スタンピード騒動の時に反省し、白金に教えて貰いトランクルーム内の魔晶石から
彼女を無事に邪神の世界へ送るためには、どうやっても封印の指輪を出してもらう必要があった。それが一番のネックだと思っていた。怪しまれずにどう振るか、あまり自信が無かった。だから、自ら出してくれた時には、思わずホッとした。それでも指輪がなくても、何としても
一発勝負が成功し、太郎はようやく安堵の息を吐いた。
邪神の世界以外にサイザワさんが転移したら傍迷惑と言われるかもしれないが、自分が一番かわいい。自分の関わる世界に
魔力を召喚の陣に満たすために使ったのは、トランクルームにあった魔晶石だ。後日、チェックしたが持っていた魔晶石は総て使い切ってしまっていた。勇者を戻した時以上に使ってしまったらしい。
サイザワさん自身は、召喚の陣を抜けようと思えば抜けられたのかもしれない。だが、行き先を悟って、転移していったのではないかと思う。
「怖かった……」
立っているのがやっとだったが、このままここでへたばるわけにはいかない。真っ二つに分かれている白金を拾ってトランクルームに収納した。展開した召喚の陣も収納した。
しばらくすると結界が解かれたのだろう、人々のざわめきが戻ってきた。
「もし、サイザワさんが邪神のいる世界じゃない処に出現していたら、あの人が、邪神になるのかな」
そうこぼしてから、
「無事に戦い三昧な場所に、着けていることを祈っています。そうじゃなかったら、怖すぎる」
時は僅かに遡る。
太郎が、白金の待つ広場に出る前の事だ。白金もこの時点では、トランクルームから外へまだ出てはいなかった。別の部屋で作業をしていたのだ。
「任せておけ。俺がお前達を、ちゃんと元の世界に返してやる」
太郎はまず、3人に変装用の腕輪を外すように言い、自分も外した。実は、太郎はこの腕輪に居場所を知らせる機能があるのは分かっていた。
だから、外させた。召喚の間にいることが判ってしまわないように。
それから、各自が収納に入れてあった制服に着替えさせた。自分たちの荷物は、ずっと収納に仕舞ってあったのだ。
「ちょっとキツイな」
久々の制服、イサオ達には、小さくなっていたようだ。あれから、2年近くなる。元々制服は3年着るため、少し大きめに作ってあったので、なんとか着られるという感じだった。
それから3人を外に促した。
最初は暗くて判らなかったが、太郎が生活魔法の灯りを四方に散らし、辺りを照らしてみせると、その場所は、この世界で最初に来た場所、召喚の間であった。
四方を石壁に囲まれ、窓一つ無い部屋だ。唯一の出入り口である扉は、今は固く閉ざされている。
「さて、サイザワさんが来る前にとっととやっちゃおう」
「え、どうして、召喚の間にでるんですか」
ケンジが問うと、太郎は苦笑いをして
「もしもの為に、と思って。随分前にトランクルームの入り口の一つをこの召喚の間に運ばせておいたんだ。俺たちがユセンに居た頃には、すでに仕掛けが済んでたんだ。いや、結界張られる前に間に合って良かったよ。
トランクルーム、中々有能だろ」
「でたらめですよ。入り口を自分が直接行っていない場所に作るなんて。
でも、
「悪い、それ気にしてたか。大丈夫だ。俺のと俺の持ってる魔晶石の
ユナは、ホッとした様に言った。
「良かった」
パンパンと手をたたき、気が抜けた様子の3人を召喚陣の中央に立たせた。
「悪いが詳しい説明をしている時間がない。直ぐに転送をはじめる。ここと、ここと、ここ。それぞれ立って。そこを動くなよ。違うとこに飛ばされるかもしれないからな。怖かったら3人とも手を繋いでおけ。
うん、手を繋いだ方がいいな。その方が安全かもしれん」
太郎は、魔法陣の紋様を確認しつつ、3人にそれぞれどの紋様を踏ますのかまでチェックした。そして真ん中に、青白い魔石を置いた。これには太郎の
このために準備しておいた物だ。この魔力が彼らを元の世界に導いてくれるはずだ。それ以外に、何カ所か小さい魔石を置いていった。召喚の陣を切り替え、魔力の流れを変えるためのものだと白金が言っていた。
「レンタルした共有のトランクルームが使えるようなら、連絡するから。じゃあな、そこを動くなよ。元気でな」
召喚の陣の端に透明な魔石が設置されていた。その魔石に手を置き、太郎は自分の魔力をそこから召喚の陣に流し込む。
所々、置かれた魔石で光の流れが変わって行くのが判る。
艶やかに魔法陣が七色に輝く。流される
だから、本当なら、4人分の魔力を魔石に貯めて、それを利用するのもありだと思っていた。
かといって、太郎1人でサイザワさんに匹敵するほど魔力を保持しているわけではない。トランクルームにまだ残っているスタンピードの時の魔晶石、3体のドラゴンゾンビの魔晶石から
だが、これで全部を使い切るほどでも無かった。細々とした魔晶石とドラゴンゾンビの魔晶石1つ分ですんだようだ。さすが腐ってもドラゴンというところだろうか。
魔石は役割が終わったというように割れて粉々になった。
「太郎さん、」
ケンジが何か言いかけたが、魔法陣の光とともに3人の姿が光の粒子となって、消えていった。成功したようだ。もうこの召喚の陣は転送にしか使えなくなったはずだ。
「上手くいくと良いな、上手くいって欲しいな、きっと上手くいく」
そう呟いて、魔石のあった場所に手を置き、召喚の陣を収納した。
それから、太郎はサイザワさんと対峙したのだ。
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