第68話 王都へ


 王都にある神殿で、司教が一人の男と応対していた。


「それは、誠か」

「はい。勇者の居所を掌握しています。また封印の指輪も勇者と共にございます」


「おお、クフルフォの神よ。感謝いたします。このような朗報が齎されるとは」

「彼等は現在、ブリタニカ辺境伯領におります。こちらが手配し、王都へと向かわせます」


「では、召喚の儀式の準備を行いましょう。勇者がいるのならば、魔石に魔力マナの充填は不要」

「では、3日後にユセンを出立いたします。準備が整い次第、儀式が行えるように」


 当初は王都で勇者たちを引き渡す手筈だった。手違いが起きたのは、召喚の間を使用するために、王城に報告に上がった司教が、情報を漏らしたことにあった。


ブリタニカ辺境伯領内では手が出せない。だが、そこから出れば如何様にでもなるだろう。


神殿の手配によって召喚が成されるのではなく、王が自らの手によって召喚をなしえたいと思ったこともある。


王は、勇者たちを、直ぐに取り押さえる事を望んだのだ。




「後は王都まで馬車で10日だ」

ユセンで少しゆっくりとした後、馬車での出立となった。サイザワさんの伝手で馬車を借りてこれたためだ。5人でゆっくりと馬車の旅だ。


御者は白金とサイザワさんができるので、2人で交代ですることにした。天気もよく、穏やかに風景を眺めながら馬車は進む。


「さすが、サイザワさんが用意した馬車」

太郎は静かに感動していた。最初に王都からユセンに行くためにのった馬車は、商会の特注だったため、乗り心地はそれなりによかったが、帰りの定期便は酷かった。スフェノファクオリティは侮れない。


予め忠告を受けてクッションなどを用意したが、それでもキツかった。だから今回も覚悟をしていた。


それがサイザワさんの手配の馬車になり、乗り心地の素晴らしさに感動していた。


「スフェノファでも、もう少し魔導具とか浸透すればいいのに」

「まあ、国同士の問題とかあるんだろうな」


スフェノファに入ったことで、イサオもケンジもユナも、少し緊張はしていたのだが、のんびり馬車に感動する太郎を見て、少しだけその緊張が解れた。



それは、ユセンを出て3日目、あと少しで昼の休憩に入ろう、そんなところまで来た頃だろうか。急に馬車が止まった。


「タロウ」

鋭く警戒した白金の声が響く。窓から見ると、騎士に行く手を阻まれている。


サイザワさんの結界が馬車の中に張られたのを感じた。ユナはあからさまにホッとした。彼女の結界の頑強さは、良く知っている。これで大丈夫だという安心感が、イサオ達に広がった。


「サイザワさん、」

御者をしていたサイザワさんに呼びかけると

「いや~、待ちきれなかったみたいで。まあ、ここでもいっか」

のんびりとした彼女の声がする。


「申し訳ないが、私はあの召喚の陣を壊したくないんだ。

それに儀式は、向こうで整えてくれるっていう話にしたしね。

勇者達は、私で十分抑えられるし。まあ人数多い分にはいいかな、とも思ったけど。当初は、色んなパターンを想定していたんでね。でも、早めに仕掛ける分にはいいかな」


御者側の扉が開き、笑顔のサイザワさんが入ってきた。

「まあ、向こうが来ちゃったし」


背に勇者3人を庇い、太郎は問うた。

「どうして、ですか」

ニッコリと上機嫌に彼女は笑う。

「うん。戦ってみたいんだ」


太郎は3人をトランクルームに放り込んだ。次いで自分と白金も。

「あらあら、トランクルームは人も収納できるのかい。魔物はもうアウトっていうのも怪しいかな。しかも私の結界の中でも使えたんだ。びっくり。

ちょっと計算外だったかな。でも、行く場所は決まってるしね」


騎士達が、馬車の扉を開けて中を覗いたが、中には一人も残って居なかった。



召喚の間は厳重に封印されていた。人が入れないように部屋の扉は閉ざされ、扉前には衛兵が立った。召喚の間に至る通路には、所々に兵士が立った。


召喚の間には結界が張られ、蟻一匹通さない態勢を整えられていた。儀式開始まで何者の侵入も許さないためだ。

勇者たちの目的は、自分たちが元の世界に戻ることであり、それをされてしまえば、召喚する力が無くなると伝えられたからだ。




 トランクルームの中で、3人は茫然自失となっていた。何が起きたのか、ついていけなかった。彼等の中では、サイザワさんは自分たちを救ってくれる、頼もしい味方だったハズだった。


白金と太郎は、3人の目の前で色々と打ち合わせをしていく。

「小芝居にしかならんかもしれないが、あの宿屋に設置してある支店の基から出てくれ。


で、城門前の広場がいいな。あの場所なら充分な広さがあるはずだから、その場所で支店の基から俺が出る。合図をくれ」


「召喚の間は閉鎖されている様ですので、逆に今がチャンスかも知れません」

「判った。じゃ、こっちはすぐ取りかかろう。終わったら知らせる」


 白金と太郎の打ち合わせ内容は、召喚の陣の話に移った。白金は、青白く輝く魔石を太郎に手渡した。


勇者の3人はそれをただ、眺めていた。何か口を出すのが憚られたからだ。


「私に店員の人形ひとがたを、一体いただけますか? 」

「いいよ」

人形ひとがたを渡すと、白金は大事そうに胸に抱えた。

「では、準備をしてから向かいます」

白金が部屋から出て行った。


「さあ、俺たちも行こうか。家に帰ろう」

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