第47話 もう、ずっとダンジョンでいいよね?


「隔離だな。いや軟禁、幽閉か」

喫茶室でお茶をしながら、太郎はクレナータにそう言われた。

「ソンナコト、ナイデスヨ。オ仕事ヲ、オ願イシテイルダケデスヨ」


ギルドの喫茶室でクレナータに会っていた。シルヴァの件は太郎が預かるということになった。そこで色々と打ち合わせをするという名目で、彼がギルドまでやって来たのだ。


宿屋にも、シルヴァをギルドの貸倉庫屋部門で面倒を見ていると、伝えてある。

彼を訪ねてくる人には、シルヴァが具合が悪くなった処に出くわした。療養の為、あまり動かせないので、しばらく身柄を預かっている。そう伝えてくれと。それから伝言があれば、こちらに伝言して欲しいと連絡先を残してきた。連絡して4日ぐらいだからだろうか、まだ何も連絡はない。


白金とステラカエリはまだ戻っていない。みんなは支店に着いた頃だろうか。白金はしばらくダンジョンに入ってくるそうだ。彼もいつでも戻れるのだから問題はない。

別れ際に白金が太郎に囁いた。

「マスターって、詐欺師だったんですね」

「心外だ」

そう返すも目を逸らす太郎だった。


「取り敢えずの、時間稼ぎにしかならないかもしれないが」

「いや、こんな事を言うのはなんだが。こちらとしては、助かったよ。遺産については、ようやく次の領地の予算会議で議決される事になった。全額は無理だが、幾ばくかは渡せそうなんだ。それまで温和おとなしく待ってくれるか、心配だったんだ。いくら説明しても、聞く耳を持ってくれなくて、直ぐになんとかしろと言われ続けていたからな」

「あのままだと、何かとんでもない事を仕出かしそうだったからな」

「タロウも、そう思ったか」


「で、何かわかったのか? 」

「シルヴァに、もし見かけたら、話をしておくと言って似顔絵を描いてもらった。母親の知り合いの名無しの権子ごんこさん。名前も所在もわからなくちゃ、連絡のつけようもないだろうって言ったら、アッサリ同意してくれた。

また、ステラカエリのセラセスさんは、絵が上手くてね」


一枚の絵を差し出した。目元がきつめの鳥族の血を引く、少し年配の見目の良い女性が描かれていた。

「それから、これはシルヴァから聞いた話をまとめたものだ。彼らの前の住所や彼や彼の母親の仕事先や取引先なんかを書いてある」

書類が入った封筒も渡した。


「助かったよ。彼は、前にいた街や母親の話は、殆どしてくれなかったんだ。だから調べるのも手間取っていたんだ。なんといっても失踪扱いになっていた人だからね」


「母親の事は、何かわかっているのか?」

「この街に居た時のことは、わかっている。叔父の日記と役場の住民登録からな。両親が探索者で、彼女が学院を卒業した時には、ダンジョンで死亡していたという話だ。身近に親類もおらず、卒業後は学校で教鞭をとる事で生計をたててたという話だ。かなり優秀な人だったらしい」

「シルヴァが言ってたんだが、クレナータの家は母親の実家があった場所で、母親の親戚があの場所を欲しがっているって」

「いや、親類は居なかったはずだ。あの家については、売りに出されていたものを叔父が結婚するために買ったんだ。そう聞いている。その後、結婚相手が失踪してしまって。結局、叔父はそのままあの家に住むことにして、その後、孤児を引き受けるようになったんだ」



「なんか、ものすごくシルヴァが間抜けに思えて来たんだが」

「間抜けというより、気の毒だと言う方が、優しいと思うが」

「アレに優しさ、いるか? 大間抜けで十分だろう。誑かされて、利用されて。

挙句の果ては、幼気で小生意気なあの子達を困らせて。ろくなヤツじゃないだろう」

太郎は大きくため息をついた。

「まあ、俺も大概だが」


「ヤツ自身のためにも、ダンジョンに隔離したのは良かった、かな。当分、ダチュラに戻ってこなくても良いよな」


「一体全体、シルヴァオオマヌケは誰の手駒として、動かされていたんだ? 」



 大きなクシャミを一つ。

「おいおい。シルヴァ、大丈夫か」

カウンターには青艶砂虫が置かれている。目の前の探索者の納品だ。

「誰か私の噂をしているんですかね。はい。まずは探索者カードをお預かりしますね」

「お前さんが、この店に常在してくれるんで、皆喜んでるんだぜ。体には気をつけろよ」

「私は割と体は丈夫な方なんで、大丈夫ですよ」

取り出した納品カードを、探索者カードと重ねる。そうすると探索者カードの名前とランクの部分が納品カードに転写される。探索者カードを返すと、次に探索者の目の前で、納品カードを二つに割って、一つを預かった青艶砂虫に貼り付ける。残りをその探索者に渡す。


「確かに青艶砂虫をお預かりしました。依頼達成の仮手続きをしておきますね。これが品物の納品書です」

「おう。よろしく頼むな」

シルヴァは、支店に用意されている納入品収納棚に青艶砂虫を納入する。ダンジョン支店には、この支店用に太郎が用意した賃貸用トランクルームに繋がっている棚がある。ここに収納したい物を置くと勝手にトランクルームに収納されるのだ。そのため、シルヴァ自身がトランクルームを共有していなくても問題は無い。


依頼品をダンジョン支店で引き受ける場合は、ここで仮手続きをし、ギルドで最終確認をすることになっている。これをダンジョン支店で預かるにあたっては、少し手間だがこうした手続きを取るようにした。取り違えや虚偽、詐欺を防ぐためだ。


シルヴァは割と手際よく処理してくれるし、細やかな事まで気が利く。そのため、ここを利用している探索者達の評判はよい。彼自身も、のんびり仕事ができるこの店の仕事が気に入ったようだ。


太郎達と一緒に食事をする時も、家に関して口にしなくなった。仕事の話や、探索者の話が中心だ。たまに安全地帯から、ダンジョンを眺めたりするそうだ。

探索者が時間が空いた時には、手ほどきをしてくれて、体を動かしているらしい。

「俺、才能があるって褒められた」

と、シルヴァが嬉しそうに話をしていた。



「それで、店の前に自動販売機を置いたらいいのじゃないかと思うんだが。飲食用のね。喫茶室の閉店時間中もそれなら利用できるだろうし」

「利用するかね」

「少なくとも、飲み物はあると思う。あの階層は砂漠で暑いしね」


試しに、ギルド店の休憩室に設置されている自販機が移動できたので置いてみた。商品は変更ができるので、シルヴァの提案で、大きめのポリタンクに入った水も販売したところ、自販機ではその売れ行きがトップになった。


それ以外にも、シルヴァが幾つか提案して新たに取り扱うようになった品物もある。いずれも、上々の売上だ。


「仕事は、できるんだよな。もうずっとダンジョン支店で仕事を続けてもらおう」

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