第37話 焦臭い気配


 太郎が役所の受付まで来ると、先日対応してくれた受付嬢がいた。彼女はすぐ太郎に気が付き、

「お待ちしておりました。担当者はすでに応接室で待機しております。ご案内いたします」

何も言い出さないうちに、そう切り出された。それに合わせて、彼女の後ろをついて行った。先日、ファグスと応対した部屋よりも、奥まった場所にある部屋に通された。中にはまだ誰もいない。


「申しわけありませんが、しばらくお待ちください」

受付嬢はお茶とお茶請けを用意し、そう言って退出していった。

前に通された部屋は殺風景な部屋だったが、ここはそれなりの調度品もおいてある場所だった。

(この前の部屋が一般対応なら、ここは何だろ。お偉いさん用? いや、そしたらもっと派手かな? 奥に入ってきたし、なんか打ち合わせ用? )

のんびりお茶を飲みながら、下らないことを考えていた。15分ほど待っただろうか、ファグスが入ってきた。


「ご足労頂き、申し訳ない。あの伝言で伝わって良かった」

「いえ、直接話をしたいって彼らに言付けを頼むっていうのが妙だったものですから。急ぎかなと。なにかあったんですか」

「そうなんだ。実はニルやセピウム達を脅してギルドにつかまった連中のことなのだが」


ファグスの話ではこうだった。捕まった男達は、ニル達を脅していたのは人に頼まれたのだ、と主張しているのだとか。

頼んだ相手は、クレナータの家に住む子供達が、可能ならば居心地が悪くなって出ていきたくなるようにしてくれ。嫌な目に遭わせてくれ、という話を持ちかけられたのだそうだ。ファグスは、最初、その話を聞いて叔父の息子、ブレディア・シルヴァの差し金かと思ったという。

ところが、男達に話を持ちかけたのは彼ではなかった。秘かに男達と面通しをしたのだが、顔も匂いも違うという。似顔絵などを作ったが、該当する人物はまだ見つかってない。もしかしたら、男達の狂言である可能性もないわけではない。

だが、


「考えてみれば、クレナータの家がある場所は、中心街にある。

叔父が生きている頃から、孤児院にするのは勿体ない、売却して欲しいという話は幾つかきていた。代替地も用意してくれるという話もあった。だが、叔父はあの場所を譲らなかった。何か思い入れがあったのかもしれない。


今回、もしかするとあの土地目当てで、誰かが動いているのではないかとも考えているんだ。現在は公共地にはなったが、子供が誰も居なくなれば処分され、払い下げがあると考えたのかも知れない。

ブレディアについても、もう一度、色々と調べ直しているところだ」


「それで、タロウさんが今回の件については、巻き込まれる可能性がある。クレナータの家の子供達を、色々と面倒を見てくれていたので、目をつけられているかもしれないと思う。

そうだとすれば大変申し訳がない。まずはそれを知らせたかった」


「もしかして、受付嬢が私に名乗らせず、この部屋へ通したのは、役所内でも話が漏れるかも知れないということですか」

「お恥ずかしながら、誰が仕掛けているのか判らない以上、私が貴方に会っていることを、大っぴらに見せない方が良いかと思ってね。

それに、もし払い下げの話が裏で動いているならば、役所の人間が一枚噛んでいるかもしれないしな。その点もまだ判ってはいない。

それと、実は頼みたいことがある。それについても私が依頼したと漏れて欲しくないためなんだ」


「頼みたい事、なんでしょうか」

「貴方は、ある程度クレナータの家に関わりがある。だが、それは善意で権利などとは関係ない立場だ。だから、叔父の息子であるブレディアと話をしてもらいたいんだ。私だと、叔父の身内と言うことであの男は話を聞いてくれそうもないのでな。大変図々しいお願いで、申し訳ない話なんだが。

勿論、断ってもらっても構わない。時間も太郎さんの都合の良いときで構わない」

ファグスが再び頭を下げてきた。


 叔父がブレディアの母親とどうして別れたのか、息子がいることを知っていたのか、詳しいことはわからないという。だが、生涯独身を貫いたのは、その女性の存在があったからだろうとファグスは言った。


あの家を孤児院として定着させるため、叔父は自分の全財産を注ぎ込んだ。その維持のためには継承人が必要となり、ファグスがその役目をおった。ファグス一族の仕来りで、その財産を直系でないものが受け継ぐ場合は名も受け継ぐことというのがある。そのため彼は叔父の名ごと継承した。

彼に白羽の矢が立ったのは、役所の土地関係の部署で働いていたためで、この事を成すのに丁度良かろうとの配慮もあった。


「え、ファグス・クレナータって叔父さんの名前だったんですか。そっか、家の名前がなんでファグスさんの名前なのかって思ってました」

「ああ、言ってなかったか。元の名前はファグス・ルシダルと言うんだ」


突然現れた叔父の息子は、最初、あの家の権利を主張し、売却したいと言っていた。

彼は、今この街に来てから、特別なにも仕事などをしていない。その彼に、家をどうしたいと考えているのか。売るとしたら、売る当てがあるのかを聞いてほしいという。


「もしかしたら、ブレディアもその企みに加担しているのかもしれない。利用されているだけかもしれないが」


「何の権利もないけど、家に関わっている私が、揺さぶりをかけてみると」

「どうだろうか」

「いいですよ。やってみましょう。

ただ、ちょっと仕事の関係で、暫らく留守にすると思います。その後でしたら、やってみましょう」

「ありがとう。勿論、そちらの都合を優先して欲しい。今、彼については再調査している。その結果を見てから、お願いしたい」


太郎がダンジョンから帰ってきたら、ブレディアに会って話を聞いてみようという事になった。


-_-_-_-_-_-_-_*-*_-_-_-_-_-_-_-_-


大変申しわけありません。

仕事の関係で書く時間を確保するのが難しくなってきました。

少しお休みをいただきます。

来週には再開できるようにしたいと思います。

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