第35話 ダンジョン、行きますか?


 結局、太郎達は猪を獲ったところで戻ろうという事になった。ギルドに早めに報告をした方が良いだろうと判断したためだ。


 猪については、草原に出てくる事もあるのは知られている。それでも、これだけ大型のものが出現するのは珍しいので、今後注意を促しておくというのがギルドの返答だった。


 スリングショットの弾は上手い具合に頭に当たったため、内臓には傷がつかず無駄になる肉は無かった。肉は皆で食べるということで、肉以外の素材を引き取ってもらった。


トンカツは、此処では割とポピュラーな食べ物で、ラードで揚げるのがスタンダードだ。

太郎達に遅れて、別ルートで薬草採取に行っていたシェーボとロイフォも戻ってきた。どうせなら、ダンジョンから帰ってきた皆にも振る舞おうという話になり、喫茶室の調理場を借りて、次々とトンカツを揚げていった。匂いにつられてギルドの職員や他の探索者達が顔を出す。結局、その場でカツサンドにして食べたり、持ち帰り用にしたりと盛況になった。


ニル達以外には喫茶室での販売にしたので、

「肉への支払いを計算しても、これでコーヒーの良い豆が仕入れられる」

と、マスターは上機嫌だ。


トンカツを揚げたのは太郎とロータだ。太郎は油の匂いでお腹イッパイになり、それほど食べられなかった。同じくトンカツを揚げていたロータがパクパク食べてる姿を見ながら、

(これが、若さか。オレだって大学の頃だったら…)

と、心の中で密かに落ち込んでいた。その隣で

「肉まんもカツサンドも材料は肉と小麦だよな。で、この違い。両方違って、両方いい」

ムスティは御満悦だ。


「じゃあ、あの猪はタロウが仕留めたのか」

「ああ。あんなに上手くいくとは思わんかった。脳天に命中したおかげで肉は問題なかった」

新調したスリングショットを取り出して、

「これのお陰だよ」

スリングショットは、元々太郎が持っていたものと比較して大きく頑丈な作りになっている。

「ムスティに紹介してもらった鍛冶屋さんに作って貰えたからな。感謝してるよ」


白金との鍛錬を覗いたムスティは、太郎の実戦的な武器を作ってもらうために、鍛冶屋を紹介していた。


今回は、新しいスリングショットでの初実戦になった。前に使っていた小型のものであれば、大きな猪は仕留められなかったかもしれない。


「そうだろう。あの親父の腕は確かだし、割と色々とこちらの要望を聞いて工夫してくれるからな」

肉まん片手に、ムスティが言う。彼は今日、どれだけ食べているのか。食い溜めが出来るのだろうか。

(スキル食い溜め、とかいうのがあったりして)

太郎はそう思いはしたが、依頼されない限りは、人の事は覗かないことにしている。非常に興味はあったが。


「いや、訓練て大事だな。上手くいって良かった。今回はニルやセピウムも一緒だったしな。直線で進んでくる対象だったのも運が良かった。

それにしても、あんなのを積極的に仕留めてくるんだから、狩人にせよ探索者にせよ、すごいよな」

「他人事のように言うなあ。お前さん、何かスキルが増えてるかも知れないぜ。ちょっと後でいいから、自分を鑑定してみろよ」

「え、スキルって増えるモノなのか? 」

「ああ。ずっと鍛錬しているとスキルが身につく場合がある。絶対じゃないがな。でも、あんなの一発で仕留められたなら、関連するスキルがあるかもしれない」


舌打ちが後ろから聞こえた。そちらを見ると笑顔の白金がいた。太郎のスキルの第一人者を自負している白金の笑顔がちょっと怖い太郎だった。隣で話をしていたムスティはそんな白金をみて少し引いた。


(他のスキルに厳しいよな、白金。いや、でも確認はしとかないと。後でちょっと見てみよう)


「えっと。白金さん。今日は色々とありがとうございました。で、何かありましたか? 」

ちょっと丁寧に話しかけてしまうのは、仕方が無いかもしれない。


笑顔のままの白金は、

「ええ。ちょっと考えたことがありまして、ご相談をと思いました。

 結論から言います。ダンジョンにお店を開くために、ダンジョンに行きましょう」

「はい? 」


「詳しくは、後で説明します。とりあえず、ダンジョンに連れて行ってもらうことが決まりましたので。大丈夫です。すぐという話ではないです」

アルブムもにっこり笑って、白金の後ろにいた。

(それ、相談じゃ無くて決定事項だよね。何故にダンジョン?)


 今日、帰ってきたアルブム達が話をしてた内容を伝え、支店をダンジョン内に作らないかという話だった。出入り口ではなく支店として成立させるためには、太郎自身がその場所に行かなければならない制約があった。そこで、まずは太郎の慣れとレベル上げも兼ねてダンジョンに入ろうというのだ。


また支店は貸倉庫屋としてのものではなく、物品の販売と魔晶石の買取をするという。賃貸収納室トランクルームは、ダンジョン内でわざわざ借りることはないだろう。でも、荷物になるが収入にもなる魔晶石やドロップ品の買取とポーションなどの販売は商売になるだろう。


お弁当販売も横にいたムスティに提案されたが、周囲はほっておいた。カアトスが

「甘い携帯食とかあったら良いわね」

なんて呟いてはいたが。


なんといっても支店同士で彼らは行き来ができるのだ。品物をその場で買取してもらい、代金はデポジットカードに入金する事も可能だ。勿論、物々交換でも良い。


販売品については、在庫が無くなれば直ぐに手に入れられる。この行き来が出来るのは太郎と白金と店員だけだが、ギルド直結なので何かあった時の連絡係にもなれる。


アルブム達と一緒に、八日後にダンジョンに入ることになった。決定事項である。

(すぐじゃないって、言ってなかったか ?)



因みに、太郎が後で鑑定してみるとスキルが増えていた。


名前:山田太郎

職業:巻き込まれた異世界人

スキル:鑑定 レベル5 錬金 レベル2 投擲 レベル1

固有スキル:トランクルーム レベル8


「錬金? なんだこりゃあ? なんでこんなものが生えた」

「これは、ややこしくなりそうですから、黙っていた方がよろしいかと」

白金が調べてみると錬金は料理から派生したらしい。行動は料理だが、太郎自身が意識したのが実験だったためだろうとのことだった。




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