第29話 1日レンタルはいかがでしょう
太郎が夕飯をご馳走すると言っても、そう凝った料理を作るわけでない。メニューは有り合わせの材料で作ったスープと肉まんだ。肉まんは冷凍庫で凍らせといた奴を蒸すだけだ。
時々、肉まん食いたさに突撃してくるムスティのために、時間のある時にまとめて作って冷凍保存してあるのだ。今回はそれを惜しみなく使った。何時までも冷凍庫に入れてても悪くなるだけだし(本当に ? )、ムスティは今はダンジョンだし。帰ってくる前にまた作っときゃいい。
皆、美味い美味いと食べて、あっという間に無くなった。
ニルよりもう少ししっかりしているセピウムは、ニルに連れられてやって来た見知らぬ男に最初は警戒していたが、肉まんの前に敗れた。案外簡単に警戒心を弛めた彼等に太郎は少し心配になった。
だが、シムルヴィーベレで一番猜疑心の強かったムスティを陥落させた角煮饅頭なので、何か獣族の心を揺さぶる味がするのかもしれない。
「ニルに聞いたんだが、薬草採集とかしてお金を稼いでるんだって。皆んなそうなのかい?」
「薬草採集は僕とニル、シェーボとロイフォがやってるんだ」
「オリクとロータは、お使いをやってる」
一日頑張って収入を得ているという。時たま来てくれる人がいて、食料やお金などをおいていくので、今のところなんとか生活が成り立っている状態らしい。
「オレに提案があるんだが、聞いてくれないか」
太郎は、自分がギルドで行っている収納の貸し出しの話、その中でも1日レンタルの話をした。1日レンタルでは、ギルドで収納を借りるがその場所で登録した物だけは出し入れ自由だ。それ以外に採取したものなどは一度入れるとギルドに行かないと取り出せない仕組みになっている。
自分が何をどれくらい採取したのかは、収納の鍵を触ると判るようになっている。鍵をギルドに持って行くと採取したものの清算がなされ、お金をデボジットカードに入金してくれるというものだ。
デポジットカードは個人が特定されているので盗まれても中のお金を使われることはない。レンタル料は採取したものの清算額の5%で、デポジットカードに清算した金額を入金する時に引かれることになる。
「便利かも知れないけど、オレらデポジットカード作れないんだ。あれ作るのにお金がかかるだろう」
その台詞に太郎はニコッと笑った。
「で、だ。実は、オレはこの商売を始めたばっかりでな。みんな様子見していて、誰もまだ利用してくれないんだよ。商売上がったりだ。
そこで、君らにモニターになって欲しいんだ。要するに、1日レンタルは使いやすくて便利だっていうのを実際に使ってみて、使い心地を宣伝してもらいたいんだよ。
宣伝してもらうかわりにデボジットカードの作成代金はオレが持つ。最初の三ヶ月は利用料を2%に値引きする。どうだ、君らはデポジットカードを手に入れられる、オレは1日レンタルを宣伝してもらって、他の人が加入してもらえて儲かる。お互いに良いことずくめだろ。宣伝期間は三ヶ月でどうだろう」
「いいのか、おっちゃん」
「おっちゃんは止めてくれ。オレは太郎っていう名前があるからそう呼んでくれ」
「オレ、それやってみたい。タロウさん。よろしくお願いします」
セピウムは太郎に頭を下げた。
翌日の朝、ニル達は探索ギルドの貸倉庫屋窓口にやって来た。二人一組で1日レンタルを借りることにしたのだ。
デポジットカードは4人で2枚作った。全員分を勧めたが、それでいいという。借りる数に対応した報酬だからだとセピウムが断ってきた。
お使いでは、1日レンタルは使いにくいので止めることにしたそうだ。言われてみればその通りだ。いちいちギルドに来なくてはいけなくなるのだから、却って効率が悪くなる。
「でも、皆でちゃんと宣伝するよ」
「期待しているぞ。それから、1日レンタルを使ってみて、使い勝手が悪い事とか、こうしたら便利だって事があったら、教えてくれ。改善の参考にするから」
太郎は笑って出かける彼等を見送った。
薬草は薬師ギルドだけでなく探索ギルドでも買い取ってくれる。とは言え、薬師ギルドの方の買い取り価格の方が高いので、ニル達は今までは薬師ギルドに持って行っていた。それに薬師ギルドでは薬草についての簡単な講習会を無料でしてくれるということもあった。だからといって薬師ギルドに納品しなければならないという縛りはない。
彼等にはそこまで細かな説明はしていなかったが、収納の1日レンタルは、大元のトランクルームを借り受けているのが探索ギルドになっている。1日レンタルを借りる探索者はその貸倉庫の共有者ということになる。
この共有者は、太郎が説明したように前もって登録した自分の物は取り出し自由だが、それ以外の物は大元の借受人のみが取り出すことができるという仕組みになっている。勿論、登録の仕方で共有者も後から自分で収納した物を出し入れできるようにはできる。
トランクルームの長期借受人のパーティはこちらを選択している。共有者の収納した物は共有者別に保持されているので、混ざってしまうことはない。
ギルドでは、自分の借り受けているトランクルームの共有者は追加できるようにしているので、1日レンタルの契約は太郎が直接しなくてもギルドだけでも可能だ。
ギルドでは1日レンタルの共有者の採取分についてはどれだけの物と量があるのかチェックできるが、取り出しは共有者の鍵が必要になる。
1日レンタルの共有者は採取が終わったらそのままギルドに行って、どれを売るか売らないかを確認の後、清算してもらうという形になる。売らなかった物については、売った場合の代金が清算額に加算される。
貸し出し料金の清算額の5%というのは、そうした事務の手数料としてギルド側が2%、貸出人の太郎が3%とるという話になっている。
まだ採算がとれる程利用者がでるのかどうかが判らなかったので、料金としてはこの形にした。上手くいくようならば、料金については改訂していこうという話になっている。
「そうだ、お前達に一つ助言がある。お前らに集る奴らがいたよな。もし、今度なんだかんだ言ってきたら、その1日レンタルの鍵を渡してやれ。これをギルドに持って行けば、今日の自分達の採取の収入と引き換えになる物だってな」
受付の時に太郎は悪い笑顔で、ニル達にそう言った。
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