王城にて 2
王城が動いたのは、太郎達が出奔した翌々日のことだった。商業ギルドから太郎の行方が判らないという連絡を受けたためだ。銀の短剣を使って、彼が泊まっていた宿はすぐに判ったのだが、その部屋には短剣とシャツが残っているだけで、もぬけの殻になっていた。
宿の人間に確認したところ、宿泊して二日目の晩から外に出てきていないと言う。宿では一週間分の料金は前払いされているので、さほど気にしていなかったらしい。
城外へ出る門でも太郎が出て行った記録はなかった。
「彼のスキルに転移があったのか」
「いえ、トランクルームという収納と鑑定しかありませんでした。収納に転移の能力があるとは今まで、報告はありません」
「辺境伯領での報告では、彼が何らかの魔導具を買ったという記録はありません。護身用にと普通の剣を一本購入しただけです。それに個人で買えるような転移の魔導具などはありませんし」
この国では転移可能な魔導具といえば、転移門を設定し決まった場所での行き来ができるものしか知られていない。
「勇者に確認しましたが、やはりトランクルームというものは固定されていて、場所を移動するようなものではないという話でした。それに転移の魔法のようなものは彼らの世界にはないとも聞いています」
どのようにして王都から外へ出たのかは不明だが、次に頼るような場所は辺境伯領ぐらいしかないだろうと、すぐに辺境伯領の草に連絡をとった。だが、太郎が辺境伯領に戻った様子はないという報告があった。普通に考えれば、この日数でたどり着けるはずはない。そのため、しばらくは辺境伯のところとアルディシア商会を見張るように命じた。
「神殿契約がある。また連れ去られたのだとしても国外へは出られないはずだ」
「‘’目‘’の範囲では、仕事以外の人物との繋がりは確認できませんでした」
目とは、王都周辺の監視用の魔導具のことである。王都内は監視網が敷かれているのだ。
神官の話では、契約にある王か王の使者の証を持つ者に服従しているため、呼びかけによって国内であればどこにいるのかおおよその場所が認知できると言われた。
早速、王の使者の証を持った者が神殿で呼びかけを行なった。その結果、辺境伯領近くの森林に反応がみられた。森のどの辺りで太郎が行動していたのか、おおよその範囲が判明したことで、森のある程度奥の方で活動していることだけはわかった。
それほどたいした魔物がいるわけではないが、何も力を持たない者であれば森の獣であっても殺されかねない。極秘で探索されたが、見つけることは出来なかった。森の中での神殿契約による呼びかけに対してもサルの群れが現れただけで、彼が現れることはなかった。
そして、森林内の反応は数ヶ月後に消えた。
国外へ脱出できなかったため、連れ去った者が居たとしても見捨てられたのかも知れない。それで単独で辺境伯領へと向かっている途中であったのかもしれないし、森に潜伏していたのかも知れない。食料が尽きたのか、獣にやられたのか。詳細は不明だが、反応がなくなったことで太郎は死んだものと見なされた。
どうやって王都から辺境伯領の森林へ逃げ出したのか、その方法は一切判らなかった。馬車で10日もかかる場所のはずなのに明らかにそれよりも短期間で移動している。その点に関しては、何らかの新しい手段を持っていたのかも知れない。それを手にできなかったのは悔やまれた。
このことによって、勇者の管理はより徹底されることになった。だが、魔族の国に討ち入ってもらうためには、国外への移動禁止などはできない。それが勇者達に活路を見いだすきっかけになるかもしれない。
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