第17話 マグナへ

 太郎が探索ギルドで仕事をしている間、白金は一人で獲物を獲ってきて換金していた。

その獲ってきた獲物を見ると手際が見事らしい。

「その魔物や獣の弱点を知り尽くして、無駄な手傷を負わせずに仕留めているんだ。だから、素材としての質がいいんだよ」

解体師のエルマニィは太郎によく白金の狩りの上手さを語ってくれるのだが、太郎にはよく判らない世界だ。

その上、礼儀正しい良い子だと皆さんも白金に好意的だ。


 白金は日帰りでしか狩りに行かない。しかもギルドに行く太郎の送り迎えもしている。周囲にしてみれば、何くれとなく甲斐甲斐しくへっぽこなおじさんの世話を焼く有能な甥っ子にみえるだろう。


 太郎は、探索ギルドに依頼が来ていて滞っていた鑑定を真面目にこなしていき、その御蔭で鑑定のレベルもどんどん上がっていった。

久々の鑑定持ち、レベルが低いので安めで見てもらえるということもあり、色んな人が自身の鑑定のためにやってきたので、ちょっとドギマギしていた。

「オレのレベルを見てくれないか」

とギルドに出入りしている狩人などに声をかけられる。無料では無く、お小遣い程度の料金をもらうことになっている。太郎は人当たりも良く、丁寧な対応をするので狩人達の評判は良かった。

商業関係者は、探索ギルドまではやってこない。隣国の者だとすればなおさらだろう。お陰でタロウとイチローを結びつける人間は無かった。


この国境付近の街タミヌスの探索者ギルドではレベルの高い鑑定士を正規に雇う程の規模が無い。そのため、鑑定の依頼品が溜まったりすると臨時で誰かを雇ったり、商業ギルドに頼み込んで融通をしてもらっているという。

それにそもそも、高度な鑑定が必要なほどのモノがこのギルドに持ち込まれることはさほどないのだ。確認程度のものが多い。


何故ならこの周辺は魔物等が少なく、いても弱いものしかいないからだ。それもあって両国の交易場所にもなっているのだから、全体的な視野で見ればよい場所ではあるのだろう。そういうこともあり、二人はのんびりとここ迄たどり着くことが出来た。

だから、突然現れた太郎が、鑑定持ちというだけで短期ではあるもののアルバイトすることができたのだ。


あの門番が気を利かせてくれなければ、太郎と白金はそうそうにこの街を出て次の街に向かっただろう。

彼はギルドマスターの知り合いで、鑑定の仕事が溜まっているという話を聞いていたために、太郎が鑑定持ちと知って、あの時は焚付けにきたらしい。


あのまま、次の街に向かってもよかったが、あまり懐に余裕はなかったかもしれない。この街だと融通がきいてある程度スフェノファの通貨も使えたので助かっていた。


そういう意味ではへっぽこおじさんと言われても、それ以上の収穫はあったと言える。

そうは言っても、探索ギルドで鑑定の仕事をしているのは、甥っ子である白金の目の届くところにいるためだと皆に噂されている。

実際にその感はある。なぜならば、白金は太郎の護衛を自認しているのだから。正確にはアシスタントだが。

(普通は逆なんだよな)

皆の認識は、甥っ子が叔父さんの面倒を見ているというものだ。


そんなこんなで、6週間が過ぎていった。


「短期でしたけど、ありがとうございました」

「こちらの方こそ、今回は本当に助かったよ。またこの街に来ることがあったら、声をかけてくれ。これはマグナのギルドマスターへの紹介状だ。良かったら役立ててくれ」

太郎と白金は明日この街から出立する。白金と一緒にギルドの皆さんに挨拶をした。


「シロガネ君。元気でね。また、この街に遊びに来てね」

アンヌさんはちょっと涙目だった。太郎のことは眼中になかった。いや、判っていたことだ。


この街からダンジョンがあるというマグナを目指す。そこから次の国アンソフィータに向かおうと二人で決めていた。サイザワさん情報によれば、アンソフィータ国は太郎を召喚したスフェノファ王国と交流が無いという。


このコニフェローファ王国や山岳域を境にしているため、国境が接していないということもあるが、種族として人族中心のスフェノファ王国と、獣族、魔族など様々な人種の坩堝となっているアンソフィータ国とは主義の違いで相容れないという話だ。この街もそれを考慮してか、人族以外は見かけなかった。

後に、獣族は人化できる事を知って見かけだけでは判断できないと判るのだが。


漸くタミヌスを出てマグナに向かう道すがら、

「話には聞いていたけど、鑑定士っていうのも稼げるんだな」

太郎が思い出したように呟いた。

その言葉にちょっと眉をひそめて

「トランクルームよりも良いスキルだと言われるんですか」

白金が少し淋しそうに言った。太郎はその声の冷たさにはあんまり気がついてないようだったが。


「いや、変なこと言うなよ。トランクルームが無かったら、俺、今此処にいないだろ。トランクルームの充実した生活抜きにはもうオレの生活は無いね」

にこっと白金に笑いかける。


「此処に召喚されて、使えない奴って思われて。でもそのお陰で城からでられた。

で、トランクルームのお陰で今こうやってお前と快適な旅ができてる。

ホント、神様、仏様、トランクルーム様ってやつだ。

でも鑑定もあって良かったなと思ったのさ。

だって、そうじゃないと、完全に白金におんぶに抱っこじゃん、俺。

見た目歳上なんだから、このままじゃ辛いって。

鑑定持ちっていう今の設定だってチョット肩身が狭かったんだから。

早くアンソフィータに着いてトランクルームのレベルをガッポガッポと上げて、貸倉庫屋を始めたいな」

「レベルアップにガッポガッポという表現は合いません」

白金がボソッと呟いた。

そんな事は全く気にせず、太郎はポンと軽く白金の肩を叩き

「よろしく頼むな、相棒」

そう言ってまた笑った。

「仕方ないですね」

白金はそんな太郎を見ながら少し照れたのか、そっぽを向いた。


だが、もうしばらく太郎の苦難?は続く。



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