第2章 王都から遁走いたします

第14話 女神様のいけず

「どう思う、白金しろがね


宿の部屋には鍵をかけ、いつものようにトランクルームに入っている。


「騎士団の依頼が偶然の可能性も否定できません。ですがマリア嬢の今までの行動を鑑みると、商業ギルドが王城の意向を受けていると思った方が良いでしょう。


王都の仕事しか勧めなかった事、辺境伯領に行くのには難色をしめし、騎士団演習の依頼を持ってくる。

辺境伯領へ向かった途端に神殿契約が成されたのを考えると、ギルドから王城へマスターの情報が流れている事は十分考えられることです」

「マリアさん、可愛かったのに」

「この場合、彼女が可愛いかどうかは関係ないと思いますが」

と白金の冷たい声。


たとえ騎士団の話が偶々だったとしても、その仕事を受けると勇者と鉢合わせになる可能性がありそうだし、王城に近づいてきたのをこれ幸いにと面倒ごとを押しつけられるかもしれない。


なぜなら太郎の収納能力が高いことがバレたのだ。

サイザワさんの話では、辺境伯領の新しい神殿の女神像がお披露目され、太郎が運んだ中央の女神像と他の神殿の神像とを起点として辺境伯領に新たな結界が張られたという。お祭りはそのお祝いだった。


辺境伯領の結界が張られたのは、太郎が辺境伯領を出て5日目のこと。


その時、光り輝く女神像の範囲から、見た目よりもかなり女神像が大きな作りだった事が周知された。


それだけでなく、結界の要ということでかなり魔力量も高い像であったことから、このサイズとその力を運べるとはこの像を運んだ者は相当優秀な収納能力を持つポーターだと広く認知されてしまった。


この女神像は王都のラファエロ氏によってなされたもので、王都から運ばれたものだということが知られた。王都から運ばれた像は一つしかない。


この話をサイザワさんから聞いたときに、太郎は女神像の見た目に騙されたと、頭を抱えた。


(これだから異世界仕様は!見た目と収納サイズぐらい合わせておけよ)


出来上がった女神像はそれほど大きくは見えなかった。しかし稀にあることなのだが見かけよりも見えない技巧で、収納スペースをかなり使う大物というものがあるのだ。


それだけならばよかったのだが、素材に使われていた媒体が魔力量が高い鉱石であり、像自体の魔力量が豊富だったということも問題なのだ。


実は講習では詳しく教えてもらっていなかったが、収納にはモノを入れられるサイズの他にどれくらいの魔力量を持つモノをいれられるかという魔力量に応対したサイズ規定もあるのだ。

一般的には見習いや初級には関係ない話で、そういう特別なものはランクが上がらなければ関係がないからだ。そのため最初の講習で触れることがなかった。


例えば含まれる魔力量によっては指輪ほどの小さいモノでも、魔力量のキャパシティが無ければ竹レベルの収納スペースを必要とするものもある。逆に収納スペースが梅レベルであるにも関わらず、魔力量を多く収納できる場合は、同じ指輪を問題なく収納できる。


ただ今回の中央の女神像の場合は、収納スペースのランクが竹レベルに近ければ収納可能だった。女神像を造り上げたラファエロ氏が魔力量の厚みについては封印し運びやすくしていたからだ。


神殿に設置されたとき、一瞬虹色に光ったのはその封印が解けたためだった。だが、ラファエロ氏が封印していた事についてはあまり公にはされていない。ラファエロ氏が魔力を封印できることを公表していないためだ。


従って女神像を運んだポーターは、かなりの容量持ちか、そうでなくとも魔力量の高いモノを扱えるという噂になった。実際はそれは過大評価ではあるのだが。


それなりの容量で、多大な魔力量の品物を運べる収納スキル保持者は貴重だ。


大型の攻撃用魔道具などを運ぶことも可能になるのだから。

そして、女神像を運んだ人物はそれが可能だということが(過大評価だが)、知れてしまったのだ。


太郎は気がついていなかったが、女神像は彼のトランクルームの一部屋を占拠していた。太郎にとっては入るか否かしかわからないのだ。


ただ、白金に一言聞いていたらすぐに判ったことではあったのだが。


 商業ギルドと通じているならば王城では女神像を運んだのが太郎だと判っている。だから違和感なく太郎を取り込むために、騎士団の仕事が来たとも考えられるのだ。


それなりの物を運ばせて確認するつもりかもしれない。

騎士団であれば、大量の魔道具を運んでくれる者の存在は貴重だろう。


王城側が太郎は自分たちの紐付きのままで王都にいると認識して油断している今が、逃げ時ではないかということで話は決まった。宿屋への支払いはとりあえず1週間払ってある。そこら辺で数日は誤魔化されてくれないかな、と思いつつ二人はすぐに王都をとんずらすることに決めた。


 トランクルームのレベルが3に上がった時点で、支店を持てる仕様になった。


支店は太郎が望んだ時に顕在化するものになっているので、支店の基をお店を開きたい場所に置いておけば良い。また支店の基は、何度でも設定し直せる。トランクルームは今利用している場所、今日の場合は宿屋だが、そこだけでなく支店にもつなげることができる。支店の基を設置しておけばトランクルームを通じて直で支店に出られる。簡便な転移みたいな形として利用できるのだ。


このことが判った時に、少し遠出ができる依頼を引き受けようと相談していた。そうそうに辺境伯領の仕事にありつけたのは本当にラッキーだった。


それだけではない。女神像を運んだことによってトランクルームのレベルが4に上がっていた。確認したのは辺境伯領を出る前の日だった。


女神像のようなスキルでなければ収納できない難しい品物、しかもかなりの大物を扱うことは大きくレベルアップに貢献してくれるらしいこともわかった。まあ、これは女神像が大物だということが判明してから確認したことだが。


よくよく考えてみれば、かなり早く3から4にレベルアップしたのだ。しかしレベルアップした要因については、太郎はあまり深く考えておらず、白金に確認していなかった。


トランクルームの設備は寝室が増え、なんか段々家っぽくなってきたと、単純に喜んでいただけだった。レベルアップが早すぎるかもしれないことよりも、フカフカの布団で寝れることのほうが大事おおごとだったのだ。慎重なのか間抜けなのか判らない男である。


レベルが上がった時には

「サラバ、寝袋!」

とはしゃぐ太郎を、冷めた目で白金は見ていた。

トランクルーム数も3から4に増加していた。

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