魂の器・1
刀を使ったスタイルが印象的だった蛇島さんだが、素手で戦う徒手格闘戦の技能も見事なものだった。背後を取っての攻撃や急所を狙った反撃など、暗殺者のような体術を駆使して敵を打倒していく。
彼の協力もあってか、予想以上の早さで罪人たちの制圧に成功した俺たちは魔女にも追いつくことができた。すると、背後からヘルハウンドたちを処理したレイジも合流してきて。
「おい、誰だ?その助っ人は」
「あ〜……俺の知り合いみたいな感じ?たまたま、この牢獄に収監されてたみたいで。はは」
「たまたまで、罪人の知り合いがいてたまるか……と、まあ。つっこみたいことは山ほどあるが、いいだろう。まずは、目の前にいる
三人の男たちによって、行き止まりに追い詰められる“深淵の魔女”。もう、周囲に牢獄の扉は存在しない。つまり、罪人を手駒にすることもできない。
「やはり、この体では十分な力が発揮できぬか。罪人たちを使っても、足止めにもならぬとは」
どこか追い詰められても余裕そうな表情を浮かべている魔女に対して、レイジが挑発を始めた。
「随分と、おしゃべりな魔女だな。おかげで貴様の事情も大体、把握できてきたぞ」
「ほう。では、どんな事情か聞かせてみるがよい」
「お前が『エレボス』を脱獄しても外に出ようとしなかったのは、その体では十分な力を発揮することができないと思ったからだ。ここから出れば、頭の中のチップによる位置特定ですぐに追跡部隊が向かってくるだろう」
「…………」
「相手が“深淵の魔女”ともなれば腕利きの討伐隊が編成されるはず。それに対抗する為には、より良い器は必須。そこで施設内の監視映像を全て破壊し中の状況を分からなくさせ、まずは調査部隊を派遣させることにした。その目的は、やって来た人間の中から新たな器を吟味する為だったんだ」
レイジの推理を黙って聞いていた魔女は、最後まで聴き終わると静かに拍手を始めた。
「なかなかの観察眼じゃないか。大体は、貴様の想像通りで正解だよ。罪人の連中も、むさ苦しい男共ばかり。性別以前に、見た目からして私の器には相応しくない者ばかりだった」
「だが、誤算だったな。まさか、調査に来た部隊が討伐隊なみの戦闘力を有していたとは思いもよらなかったんじゃないか?」
「ふん。調子に乗って
「どういう意味だ……まさか!?」
レイジが何かに気付くと同時に、“深淵の魔女”は新たな召喚獣を目の前に呼び寄せた。
上半身は氷の彫刻のような女の姿、下半身は腐ったような
「この女の魔力全てを対価に呼び寄せた氷の召喚獣・ヘル。私が新たな器に乗り換えるまで、貴様らの遊び相手になってくれよう。アハハハハッ!」
その言葉を最後に、“深淵の魔女”……いや、“ユミコ・シャルロッテ”の体は急に意識を失ったのか力が抜けたように空中から落下した。
俺が困惑していると、レイジが深刻な顔で言う。
「くそっ、俺としたことが!もっと早く、その可能性に気付くべきだった!!」
「な、なんだよ?その可能性って」
「まだ気付かんのか?今、この『エレボス』の中にいる魔女の器候補は一人しかいないだろ!」
「……ヒカル!?」
今、彼女は一人で地下の特殊牢にいる。そこに、魔女の本体がいたとしたら。それを感知して魂を一旦、元の姿に戻したのだとしたら。
居ても立っても居られず、彼女のもとに駆けつけようとするも俺たちの周囲に氷のドームが展開される。それは強力な結界の如く、行く手を阻む。
それは召喚獣・ヘルの展開した氷の術式。
「くっ!時間がないってのに……!!」
「落ち着け、ユウト。まずは化け物退治からだ、速攻で倒すぞ!」
まずはレイジがダークナイトの軍勢を召喚して、一斉に突撃させる。しかし、ヘルはふっと彼らに息を吹きかけると兵士たちが次々と凍結されていく。
そこへ更に氷の杖を手元に造り出して、一振りのもとに凍っていた闇の兵士たちを叩き壊す。
そんな中で、無に帰していくダークナイトたちの間を縫って四基の竜頭がヘルの周囲を取り囲むように配置へとついた。“植村ユウト”の『ネメシスガンド』だ。
その竜頭に向かって先ほどの氷の息を吹きかけるヘルだったが、火属性を持つ『ネメシスガンド』に凍結は通用しない。逆に多角的な熱線を体中に浴びせられて、次第に追い詰められていく。
必死に氷の杖を振り回して抵抗しようとするも、素早く動き回る竜頭には
その圧倒的な
「借りるぞ、少年」
「あ……おい!」
その犯人は“蛇島オロチ”。気付けば『カルンウェナン』を逆手に持ち、ヘルとの間合いを詰めていた。
こと“盗む”ことに関しては専門といってもいいスキルを持つ“三浦レイジ”が、全くその気配に気付くことなく武器を盗み取られてしまった。
“忍頂寺サイゾウ”に叩き込まれた戦闘術は、今もなお健在のようだった。
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