魔女狩り

 植村たちの凍結を解除すると、一転して反撃に打って出る“ネメシスガンド”。魔女は飛行術で逃げ回りながら、飛んでくる熱線を氷のバリアで防いでいた。


 最上位氷術である“アブソリュート・ゼロ”は、ただ周囲を凍結させるだけにあらず。大気中の氷のマナを増幅させて、シンプルに他の氷術の威力すらも上昇させるという隠れた効果を持っていた。


 だが、耐久力の上がった氷のバリアをもってしても“ネメシスガンド”の熱線には一瞬のうちに融解させられてしまう。このままでは凌ぎきれないと感じた魔女は、すぐに次なる術式を発動させる。




「おいで、ヘルハウンド!」




 彼女の呼びかけ一つで、地面から犬型のクリーチャーが大量に生み出された。体ごと魔女の盾代わりとなって“ネメシスガンド”に突撃しながら、植村たちにも襲いかかっていく地獄の番犬たち。


 それを見て、すぐに三浦が動き出す。




「現れ出でよ、ダークナイト!」




 ヘルハウンドの群れの前へ立ち塞がるように召喚される三浦のダークナイト部隊。かくして始まる大召喚獣バトル。一気に狭い通路内が乱戦状態と化す中、“深淵の魔女”が逃げ去ろうとするのを植村は見逃さなかった。





「後を追う!ここは、頼んだ!!」




 レイジにヘルハウンドの処理を任せて、輝剣で道を切り拓きながら魔女を追跡する植村。

 そんな彼をチラチラと視界に捉えながら、魔女は誘い込むようにどんどん奥へと進んでいく。




「しつこい奴だ。予め、正解だったな」



「……!?」




 魔女が手を振りかざすと、周囲にあった扉が次々と勝手に開いていく。すると、そこから虚ろな瞳で外に出てくる強面こわもての男たち。

 おそらくは元々、この収容所に収監されていた罪人たちだろう。小泉さんの忠告が脳裏に蘇る。


 予め洗脳されていたのか、この一瞬で全員を洗脳したのか。数多の術を操る魔女が何をしたのかは分からない。


 ただ分かるのは、このということだけだった。


 案の定、俺に向かって一斉に飛びかかってくる犯罪者たち。幸いなのは囚人だったからか、武器の類は持っていなかったことぐらいだ。




【虚飾】が、【近接戦闘(格闘)】rank100に代わりました




 とはいえ、相手は操られてるだけのただの人間。


 なるべく危害を加えないよう、制圧していかねばならない。“雷気招来”で反応速度を上げ、攻撃してくる敵をカウンターで仕留めていく。


 しかし、相手もただの罪人たちではない。


 特殊な地下牢に入れるしかなかった強力なスキルの持ち主たちなのだ。


 ある者は鋼鉄の体で拳を防ぎ、ある者は獣人と化して攻撃を仕掛けてくる。そして、ある者は後方から術による支援砲撃を誤射など関係なく敵味方構わず乱れ撃ちを始めた。


 そんな全ての能力者の特性を瞬時に見極めながら、最適な方法で一人ずつ撃退していく“植村ユウト”。




 鋼鉄の体には、内部から破壊する発勁をもって。


 獣人には、それを上回る反応をもって。


 術士には、輝剣の柄のみを【投擲】rank100の力を持って投げつけて打倒した。




 しかし、その者たちと交戦している間にも魔女は次々と罪人たちを解放させていく。ひっきりなしに現れる敵に、さすがの植村も押され始める。


 普通に倒すだけならば大技を駆使すれば何とかなった数だろうが下手に傷つけまいと戦う彼にとって、その数の暴力は脅威だった。

 その優しさは植村の長所でもあるが、こうした場面では短所にもなりうる。なまじ手加減しても、ある程度の相手ならば簡単に勝てるほど強くなりすぎてしまった思わぬ弊害ともいえるだろう。


 ここで“深淵の魔女”を逃してしまえば、再び一般市民を巻き込んで凶悪な儀式を始めてしまうかもしれない。心を鬼にして本気を出すべきか彼が悩んでいると、後続の罪人たちの侵攻がピタリと止んだことに気付く。




(誰か……いる?)




 敵が多すぎて視界には捉えなれなかったが、確実に前方で誰かが交戦を始めている。それが誰なのかは分からない、ただ言えるのはということぐらいだ。


 その人物は様々な能力を持つ罪人たちを、物凄い速度で素手による制圧を遂行している。

 こちらも、ある程度の数を捌いていくと……ようやく、その謎の人物の全貌が見えてきた。目が合うと、それは俺の知っている人物であることが分かった。



 




「蛇島オロチ……さん?」




 美しい長髪は見る影もなく坊主頭にされていたが、その眉目秀麗で中性的な容姿は健在だった。




「こんなところで再会するとは、奇遇だな。植村ユウト」



「あなたは……魔女に、操られてはいないんですか?」



「そうか。これは、“深淵の魔女”の仕業か……長期間、魔剣の呪いを受けてきた私に精神干渉の類は通用しない。まさか過去の過ちが、こんなところで役に立とうとはな。人生とは分からんものだ」




 俺と会話しながらも、蛇島さんは襲ってきた囚人の背後に蛇のような動きで回り込むと一瞬にして自らの手刀を敵の首筋に落として気絶させた。

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