アシスト
飛び込んできた七海を、金色の瞳で睨みつける“赤い竜”。また魔眼を発動される前に、彼女は手にした『モラルタ&ベガルタ』を双銃の姿に変えた。
「シルエット・フォー……“
『変化の指輪』によって今度は“狩人”のコスチュームへとチェンジした“七海アスカ”は精密射撃で二丁の拳銃を発砲すると、的確に“赤い竜”の両眼を捉えて撃ち抜いた。
「オオオオオオン!!!」
片翼をもがれ、視界まで奪われた“赤い竜”は悶絶しながら地面に転げ回る。さっきまでは圧倒的な殺戮兵器のごとき恐怖があったが、こうなってくると少し可哀想にもなってくるから不思議なものだ。
しかし、七海は躊躇せずに叫ぶ。
「夜空さん!今のうちに!!」
七海の声を聞き、夜空はのたうちまわる“赤い竜”に向かって竹でできた杖を構えた。
“七海アスカ”の心には今、“一角ツバサ”が残した最後の言葉が響いていた……「力を合わせれば、どんな強敵にも立ち向かえる」。
“七海アスカ”もまた、“植村ユウト”や“天馬カケル”のような圧倒的な存在に憧れを抱いていたことがあった。しかし、いくら訓練を積んでも差は縮まるどころか彼らはそれを凌駕するスピードで成長していく。
いつしか『アルゴナウタイ』のギルドメイトたちの成長速度にまで焦りを感じ始め、自身の冒険者としてのアイデンティティを失いつつあったのも事実だった。
だが、一角の言葉に改めて気付かされる。
仲間と協力して結果を残すことこそが、冒険者としてのあるべき姿であるということを。
例え自分がフィニッシャーになれずとも、例え自分に回復や盾などの役割が果たせずとも……それができる仲間に頼ればいいだけのこと。
“七海アスカ”の【七変化】というスキルは様々な状況において臨機応変に対応できる万能型の能力。本来は、そういうプレイヤーであるはずなのだ。
要所で味方を救ったり指示を与えたり、フィニッシュへ繋ぐアシストをするような細かいところに手が届く役割こそ彼女が最も得意とする分野。
七海は今まさに、それを実行に移していた。
「……
ゴウッ!!
お膳立てされて放った夜空の一撃は、巨大なる砲撃術。彼女の使う月属性の術式の中でも、最大威力を誇る長距離射程砲だった。準備に要する時間が長く、一対一の状況だったルキフグス戦では使用する隙が無かったが今回は七海たちを筆頭に仲間の冒険者たちが十分な陽動を行ってくれていた。
それどころか、身動きまで取れなくしてくれる優秀さ。あとは、溜めた一撃を思い切り叩き込むだけで良かった。
ゴオオオオオオオオッ!!
背中から巨大な砲撃に直撃された“赤い竜”は、その身を赤い霧に変えて消滅していく。
その瞬間、地上でドラゴンと交戦していた冒険者たち全ての体が《《急激に重くなり動けなくなってしまった》)。
何とか口は動かせた周防だったが、いきなりの状況に焦りを隠せない様子で。
「何これ……動けへんねんけど!?どういうことなん?アスカ!」
「私に聞かれても困るんだけど。でも、考えられるとすれば……死をトリガーにして、引き起こされた呪い。なのかも」
「呪い!?」
二人の会話に割り込むようにして、“鳴海ソーマ”が自身の見解を述べた。
「希少個体のクリーチャーに、たまにいるんだ。倒した時に強制的な呪いを発動させて、生き残った仲間へのアシストをしてくる奴が。自身の命をトリガーにしてることもあって、その呪縛は強力なものになってるケースが多いと聞く」
「ほんなら、私たちが動けなくなってるんは……“赤い竜”の残した置き土産の呪いを受けたから。って、ことなん?」
「確証はないが、おそらくね。実際、あれだけのドラゴンだ。自由に動けるようになるには、相当な時間が必要となりそうだね……」
鳴海が周囲を見ると、戦部と三國が強引に体を動かそうとしているも立ち上がることすら出来ないでいた。夜空の法力でも、マルコシアスの巨体ですら同じく呪いに抗うことは不可能なようだった。
すると、“赤い竜”の
“赤い竜”に対処することで精一杯だった地上部隊は、その人間離れした超高速の攻防に気付くと思わず目を奪われる。鳴海も見惚れて感嘆の声を出した。
「これは、また……しばらく、見ない間にとんでもないことになっているな。彼は」
いくら若いうちは成長が早いとは言われていても、たった一年ほどの期間と考えると
『ダンジョン・サーチ』、『不夜城シャフリヤール』と成長の機会を確保できる手段を手に入れていた上に『
それは、ずっと近くで彼の成長を見守ってきた“七海アスカ”でさえも驚愕するほどであった。
「私も話は聞いてたんだけどね。あれほどまでとは、思わなかった。あれが、入神意……神の
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