作戦会議・1

 試験部屋から移動してきたのは、作戦会議室と呼ばれる一室。教室のようになっていて、個人の椅子とテーブルが等間隔に並んでおり、前方には巨大なモニターが設置されていた。


 その部屋に足を踏み入れると先客が一人、退屈そうに席に座っていた。扉が開く音に反応して、こちらへ振り向くと、その正体が判明する。




「朝日奈さん!?」



「あーっ!ユウトじゃん!!なんで?なんで!?」




 知り合い多すぎ問題。いや、問題ではないか、知ってる人が多い方が心強い。

 しかし、それを良く思わない人物もいる。




「あらあら、ユウトくん。また、女の子の知り合いですか〜?多いですねぇ……で、今度は誰?」




 笑顔から一転、まるでヤンキーのような睨みを俺に向けながら、テンが問い詰めてくる。こっちが驚いてるぐらいなのに、なぜに責められなければならんのだ。




「今度は、クラスメイトです……あ!もしかして、朝日奈さんが、機械のスペシャリスト!?」




 その質問に答えてくれたのは、姐さんこと“安東イブキ”先輩だった。そういえば、彼女が推薦したとか言ってたっけ。





「そう。彼女の父親は、有名な機械工学の研究者みたいで。その噂を聞きつけて、スカウトさせてもらったの」



「スカウトされました!どや!!」




 口に出してドヤる人、初めて見たよ……不安だな。でも、ドローンの扱いには長けてたし、それなりに知識があることも確認してスカウトしたんだろう。


 いや、待て。姐さんのことだから、適当に選んだ可能性もあるぞ。





「皆さん、ご自由に空いてる席へ。これより、当日の作戦内容について大まかにですが、説明していきたいと思います」




 黒宮さんに促され、それぞれ席へと座る俺たち。真っ先に、一番前の席に座ったクマさんシャツの美女が、まるで生徒が先生に質問するように挙手した。





「はーい!エリちゃんはいなくて、大丈夫?結構、大事な話っぽいけど」



「エリザさんには、事前に大体の説明は済ませてありますので。不足な点があった場合は、あとで本人に私から直接、伝えたいと思います。なので、ご心配には及びません」



「そうなんだ。なら、おっけおっけ!」




 そうして、まずは各自が簡単な自己紹介を行なった。ほとんどが知り合いだったが、中には初見の人もいるので、俺としてはありがたい。

 ちなみに、ここにいるのは全員が“九戦姫”のメンバーらしい。助っ人枠である二人を除いて。


 テンは“第八席”、ナギは“第七席”に昇格したばかりのようだ。どうやら、その数が大体の強さの序列を表しているらしく、若い番号ほど強いということらしい。ただ、サポート役などがいるところを見ると、“冒険者としての総合力”で計測してるのではないだろうか。


 昇格したってことは、入れ替え制だと思われる。

 常に、その時のトップ9が“九戦姫”になる。と、いうことなのかもしれない。




「……では、改めて。今回の作戦概要を説明させていただきます。作戦決行日は、今日も含めて三日後の夜。ウイルスが完成する前日に、けりをつけます」




 スッと手を挙げ、おそらくこの面子メンツの中では年長者であろう、ライアン先生が質問をぶつける。




「今すぐに、攻め込まない理由は?」



「どのみち、私たちに与えられたチャンスは一回のみと考えてよいでしょう。失敗すれば、次はありません。だとするなら、ギリギリまで“その一回”の成功率を上げる必要がある……と、考えました」



「この三日で、作戦の練度を上げるってことねん。かなりの短期間だけど、効果はあるかしら?」



「正直、あまり期待は出来ませんが、今回は新規の助っ人さんたちもいます。親交を深めることも、作戦成功には重要なことかと」



「確かにね……まぁ、良いんじゃない?幸い、ウチには若い子が多いし、意外と三日間の成長率っていうのも、アタシたちの想像以上かもしれないわ」




 だから、宿泊セットなんだな。三日間の合宿みたいなものか……さっきの蓮見さんの指導とかだと、厳しそうだな。しかも、絶対に恨みを買ってるだろうし。



 続いて、ナギが副団長に質問する。一方的に作戦を説明されるわけではなく、互いにディスカッションしながら進行していくのが、『ヴァルキュリア』のスタイルらしい。

 上下関係というよりは、全員が横並びの対等な関係だというのがうかがえる。




「作戦日程は、納得しました。では、どうやって、団長のいる空中戦艦に攻め入るつもりなんですか?自家用飛行機なんて、所有してませんよね。ウチは」



「それについては、ご安心を。“コレ”を使用して、一気に団長の空中戦艦内へ転移します」




 彼女が腕に着けていた時計のようなものを、俺たちに見せながら言う。『ヴァルキュリア』の人たちは、それだけで理解したようだ。

 だが、俺と朝日奈さんはポカンとしている。気になるし、聞いておこう。




「あの、すみません……それは、なんでしょうか?」



「これは、レベル3の秘宝アーティファクトで、『セーブ・ポータル』という転移系アイテムです。付属されているピンを設置した場所セーブポイントに、一瞬で転送できます。しかも、身体の一部が触れ合っていれば、大人数での転移も可能という代物です」



「凄い……ですけど。それだと、空中戦艦にピンを設置しておく必要があるのでは?」



「それならば、もう……私が、設置済みです」



「えっ!?」

















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