蓮見エリザ・2

 目には目を、歯には歯を……“チャクラ”には、“チャクラ”をぶつけるしかない。


【近接戦闘(刀剣)】を発動すれば、剣に“チャクラ”を通すことが出来た。同じ理屈なら、【近接戦闘(格闘)】になれば、拳にも“チャクラ”を通すことは、可能なはずだ。



 ズドオッ



 少しだけ光った気がした拳で、再び隙ができた彼女のボディにフックを見舞うと、今度は多少なりとも打ち込めている感覚があった。




「……絶対防御陣イージス



「ふんっ!」




 ゴウンゴウンと、彼女の拳が空を切るたびに激しい風切り音が聞こえてくる。そんな彼女の攻撃を、最小限の動きで回避しながら、コツコツとカウンターをボディへと当てていく。


 少しずつ、“チャクラ”が通る感覚を確かめながら。



 その違和感に、“蓮見エリザ”も気付き始めていた。最初は完全に無効化していたダメージが、打ち込まれるにつれて徐々に増してきているのだから。




(このボウヤ、まさか……戦いの中で、“チャクラ”による格闘戦を学習しているのか?随分と、舐めた真似をしてくれるじゃあないか!)




猪突猛進ラッシュ・フォワード!!」




 ノーモーションで、急にタックルで突っ込んできた蓮見さんを躱すため、俺は瞬時にバックステップで距離を取る。絶対防御陣イージスの弱点は組み付かれて、回避性能を無効化されること。これだけは、常に警戒していた。




「……っ!?」




千客万来サウザンド・オブ・カスタマーズ!」




 距離を取った俺に、彼女が手を伸ばしてくると、今度は巨大なてのひらがオーラとなって、俺の胴体を掴んでくると、そのままグイッと引き寄せられてしまう。


 油断した。あの巨大なオーラの手に、こんなマジックハンドみたいな使い方が、あったとは。




「いらっしゃい!ボウヤ!!」




 そこへ、待ってましたとばかりに彼女の拳が襲いかかってくる。幸いなことに、俺の体を引き寄せると巨大なオーラハンドは消え去ったが、この一撃は回避できそうにない。しかも、クリーンヒットされれば、間違いなくゲームオーバーだ。




 ガッ!




 起死回生を狙って、俺が出したのは“チャクラ”を込めた両の手。それを交差させ、その拳を挟み込むようにして軌道を変えた。


 いわゆる、空手の「十字受け」というものだ。


 そして、ガラ空きになった彼女の腹へ前蹴りを叩き込む。大きなダメージにはならなかったものの、蓮見さんの動きを一瞬だが止めることには成功した。


 勝負を仕掛けるなら、今しかない。




 大地を強く踏み締めて、そこから流れてくるエネルギーを、そのまま相手へ叩き込むイメージで真っ直ぐに拳を突き出し、寸勁を当てる。




 バチバチバチッ




(うぐっ!何だ、これは!?電撃……身体が、痺れている?)




 グランドマスター(rank100)状態の技術で使った“チャクラ”は、植村自身ですら予期してなかった効果をもたらしていた。自然エネルギー……大地に溜まった電気の精に干渉して、技に雷属性を付与させていたのだった。




「……猛虎硬爬山もうここうはざん!!」





 ズドン!!!




 寸勁によって、軽い麻痺状態に入った蓮見エリザへ、次に本命である渾身の肘打ちを放つと、まるで稲妻が落ちたようなエフェクトが発生し、パリンとチャクラ・アーマーが叩き割られると、ふらっと糸が切れた人形のように、彼女がその場に倒れ込んだ。


 八極拳の代表的な大技だが、これはであった。初撃で敵に帯電させた雷エネルギーを、肘打ちによって起爆させ稲妻と共に強烈な打撃も炸裂させる。


『八極雷神拳』と呼ばれる新興武術の「猛虎硬爬山・神鳴かみなり」という技名が正しいのだが、その存在を彼が知ることになるのは、まだ先の話であった。




「ま……まだだ!私は……!!」




 すぐに目を覚まし、起きあがろうとした蓮見だったが、身体が思うように動かない。本人が思っている以上に、そのダメージは深刻だったようだ。




「す、すみません!やりすぎました!!大丈夫ですか!?」




 俺が歩み寄って声を掛けると、彼女は無言で俺のことを睨んできた。そこで、かける言葉を失ってしまうと、副団長が口を開いた。




「エリザさん。彼は、合格で良いでしょう?貴女あなただけでなく、誰の目から見ても、先程の一撃はだったはずです」



「くっ……まぁ、そうだね。合格で、構わないよ」



「ありがとうございます。救護班!エリザさんを、医務室へ!!」




 黒宮副団長の指示で、救護班の人たちが横たわっていた蓮見さんを担架に乗せていく。あまりに強すぎて、相手が女性だということを忘れていた。

 手加減する余裕なんて無かったとはいえ、“チャクラ”を乗せた武術の威力を甘く見ていたようだ。もう少し、セーブできるようにならなくては。



 息を整えていた俺のもとに、テストを見守っていた二人が駆け寄って来てくれる。





「ユウト、お疲れ様!やってくれるとは思ってたけど……まさか、ここまでとはね」




 持っていたタオルを、パサっと俺の頭にかぶせてくれるナギ。使っていいと解釈して、流れていた汗を拭く。そして、なぜかテンは不機嫌そうな顔をしている。




「……ムカつく」



「えっ!?なんで?」



「私……会ってない間に、むちゃくちゃ強くなったのに!なんで、そっちも強くなってんの!?剣とか、使ってるし。最後の技とか、意味わかんないし!!」



「えぇ……っと。つまり、何が言いたいんでしょうか?」



「何が、言いたいかって?うん……まぁ、おめでとう。なかなか、やるじゃん」




 テンらしい言い方だけど、素直に嬉しいので喜んでおくとしよう。










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