幼少期・4

「そういえば、自己紹介がまだだったな。俺の名前は、三浦レイジ。隣のクラスだ」



 近くで同年代の子供たちがミニサッカーをしている。公園全体は吸音コートという未来の網で囲まれており騒音の心配はなく、のびのびと羽を伸ばしている。


 そんな日常を横目に、ニヒルな小学生が両手をズボンのポケットに手を突っ込ませて、自己紹介を始めた。



「はぁ、どうも。俺の名前は……」


「知っている。植村ユウトだろ?そこそこ有名人だからな、うちの学校では」



 自覚はなかったが、そうだったのか。確かに、授業のスポーツとかでは活躍してたし、周りから見れば目立つ存在だったのかもしれない。


 まだ不信感が拭えない俺に、彼が矢継ぎ早に話す。



「俺に質問したいことがあれば、言ってくれ。できる限り何でも答えよう。気が済むまでな」



 どうやら、向こうも俺の警戒心に気付いたようだ。怒涛の展開すぎて、気になることは山ほどある。お言葉に甘えて、質問することにしよう。



「……どうして、俺が転生者だと?」



「ただの勘だ。さっきの身のこなし、小学生とは思えない落ち着きっぷり。子供の中に、子供のフリをした大人が混ざってるようなものだからな。違和感は、発見しやすい。だから、ストレートに聞いてやったんだ。お前が本当に生粋の小学生だったら、転生者という言葉にポカンとした反応を見せるはずだからな。だが、お前は……」



 なるほど。見事にカマをかけられたというわけか、あからさまに動揺を見せたから、俺が転生者である確信を持たれてしまったということか。



「なぜ、転生者を探しているんだ?」



「探してるわけじゃない。たまたま、それっぽい奴がいたから気になって声をかけた。それだけだ」



「たまたま?」



「しいて言うなら、同じ境遇の仲間が欲しかったのかもしれん。さすがに周りが小学生だらけじゃ、話を合わすのも一苦労だからな」



 その気持ちは分かる。俺も流行りのキッズアニメやゲームを全く知らなくて、今でも友人らしい友人を作れないでいたからだ。

 まさか、前世であれほど好きだった分野をスルーしてきたツケが、こんなところで回ってくるとは。

 自分磨きも大切だが、同年代の流行を押さえておくなど、そういうことも必要なのだと最近になって悟った。



「アンタも転生者なら、なんで山田みたいな奴の腰巾着でいるんだ?前世の知恵を上手く使えば、どうとでもなるだろう」



「お前の前世は知らないが、少なくとも俺の前世は順風満帆だった。エンジニアとして、そこそこ贅沢な暮らしが出来て、綺麗な奥さんにも恵まれた。人生の成功者の部類に入るといっても、いいだろう」



 なんか、自慢が始まったんだが?まだよく知らないけど、コイツのこと好きになれそうにないかも。



「だが!“幸せ”はあっても、そこに“自由”はなかったッ!!」



 急にポケットから出した両手を横に大きく広げ、選挙演説ばりに声を張り上げる三浦。その様子に、サッカー少年たちもチラチラとこちらを見てくる。



「声を、抑えろ!つまり、何が言いたいんだよ!?」



「ん?つまりは、今度の人生は好きなように趣味に没頭できるような、自由気ままな人生にしたいと思っている!」



「はぁ……ちなみに、趣味って?」



「アニメだ!声優だ!!アイドルだ!!!Vtuberだー!!!!」



 こ、コイツ!まさかの、こっち側の人間かよ?しかも、前世の俺よりディープっぽいぞ。



「ぜ……前世では、没頭できなかったのか?」



「サブカルに目覚めたのは、定年退職してからだ。それまでは、仕事に邁進していたからな……後悔したよ。この世には、これほどまでに素晴らしい文化があったのに、なぜ今まで触れてこなかったのかとッ!!」



「要するに、今回こそは最初からヲタ活人生を全うしてやろうと。そういうことか?」



「その通りッ!!」



 初めはクールなエリートかと思ってたら、とんだ本性が眠っていたな。まぁ、親近感は湧いたけど。


 しかし、まるで俺とは真逆の転生だ。俺みたいな人生でも、憧れてる人間はいるってことか。ニンゲンとは、ないものねだりな生き物だぜ。



「おっと、質問の答えから逸れてしまったな。つまり……山田に取りいっておけば、とりあえず安全な学校生活を送れると思ったからだ。ヲタクというのは、目をつけられやすいからな。特に、幼少期は」



 俺の自分磨きに費やす時間を、三浦はヲタ活に費やしたいんだろう。ホントに、前世の俺を見ているようだ。ここまで、用意周到ではなかったが。



「……わかった。そっちの事情は、だいたい把握したよ」



「もう、質問はいいのか?まだ、怪しいだろ」



「怪しいのは、怪しい。ずーっと」



「おい。素直な奴だな」



「でも、アニメ好きに悪い奴はいないからな。俺も、前世では同じような感じだったから。気持ちは、分かるよ」



 その言葉を発した途端、三浦が凄い勢いでこちらに迫ってくる。本当に、動きが怖い。



「なに!?お前も、好きだったのか?」



「ま、まぁ……珍しいことじゃないでしょ。日本を代表する文化だからね。ジャパニメーションは」



「なら、『魔女っ子☆ミラたん』はチェックしてるか!?朝8枠・今期の神アニメだ!!」



「……いや、知らん」






 こうして、ひょんなことから初めての友達が出来た。












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