幼少期・2
小学3年生・春
ダッダッダッダッ……
俺が先頭でゴールラインを切ると、視界に「1st」の表示と、100m走のタイムが映し出される。
運動能力テストで、他の生徒らと徒競走をした結果、見事に一位を取ることができたのだ。地道に筋トレやランニングをこなしてきた成果といえよう。
しかし、脳内チップに連動させて順位やタイムまで自動で表示されるようになるとは。9年弱生きてきて、多少は順応できてきたとは思ったが、まだまだ驚かされることは多い。
「負けた〜……くやしい!」
二着にゴールした同級生の女の子が、不満げな顔を見せながら、こちらに怒りをぶつけてきた。
この時代では低学年の競技などは、なるべく男女混合で行われるなどの差別配慮がされている。
とりあえず、軽く謙遜しておこう。
「いや……でも、ちょっとの差だったでしょ?」
彼女の名前は、月森ヒカル。運動神経抜群で、クラスのマドンナ的存在である。
「てか……意外。植村くんって、足速かったんだね」
裏を返せば、もっと鈍臭いイメージだったということだろうが、相手は小3だ(自分もだけど)。ここは、素直に褒めてもらっていると受け取っておく。
「そ、そうかな?ありがとう」
すると、彼女の後ろから取り巻きを二人ほど引き連れて、ジャイアンみたいな男子がこちらへと歩み寄ってきた。
「ずいぶん、仲良さそうだな。つきあってんのか?おまえら」
いやいや。月森さんとガッツリ喋るのは、なんなら初めてぐらいなのだが。仲良さげに喋ってるだけで、付き合ってるとは。そんなに、彼女に近付いていることですら不満だったのだろうか。
「つきあってないし。いっつも、私の話に入ってこないでよ!」
彼の名は、山田ジュウゾウ。いわゆる、クラスのガキ大将で、ちびっ子大相撲のチャンピオンにもなったこともあるらしい、ガタイの大きな男子だ。
取り巻きにいる二人の名前は、知らない。
そんな奴に、強気で言い返せる月森さんも相当に度胸があるというか。それとも、そんなに普段からしつこく付き纏われてるのだろうか?
「ハァ?おまえが、オレの行く先にいつもいるだけだ!かんちがいしてんじゃねー!!」
「そんなわけないでしょ?もう、私に話しかけてこないでよね!」
「なっ……んだと、このヤロー!!」
小学生の怒りの沸点は低い。月森さんの一言でカッとなった山田は、ドンッと両手で彼女を吹き飛ばす。
「きゃっ!?」
ここで凄いのは、それでも彼女は倒れることなく、2、3歩後ずさるだけでバランスを保ってみせたところだ。
それが、更にプライドを傷つけたのか、今度は殴りかかるモーションで山田が追い討ちをかけようとする。もはや、マタドールを前にした猛牛さながらだ。
そこで、俺はスッと彼の足下に、自らのつま先を伸ばす。いわゆる、足ひっかけだ。
ドザアッ!!
すると、山田は見事に前のめりで転倒してくれた。
「て、テメェッ!なにを……!?」
倒れながら、こちらをキッと睨みつけてくる顔を真っ赤に染めた猛牛。すると、騒ぎを嗅ぎつけた担任の女教師が、ようやく駆けつけてきてくれた。
「ちょっと、何やってるの!あなたたち!!」
あんまり、こういうタイプには関わり合いにはなりたくなかったが、さすがに目の前で女の子が殴られそうになっているのを、黙って見過ごすことは出来なかった。
前世の俺だったら、怖くて動けなかっただろうが、今の俺は人生一周している経験と、9年間の基礎トレという自信がついていたのかもしれない。
チラリと月森さんの安全を確認すると、偶然にも向こうもこちらを見ていたようで目が合う。
それに彼女も気付いたようで、恥ずかしそうにペコリと頭を下げてくれた。
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