近未来冒険譚

アンビバレン太

第 0 章 近未来転生

転生〜出生

 それは、いつもと変わらない朝の目覚めの感覚だった……。


「お母さん、良かったですね!無事に、産まれてくれましたよ」


 おぼろげだった視界が徐々にハッキリしてくると、奇抜なデザインのナース服に身を包んだ、ややふっくらとした体型の中年女性が、こちらに向けて優しい笑顔を向けていた。


 明らかに、見慣れた日常の風景ではない。


 乱雑とした部屋に、推しのアイドルやキャラクターのグッズが並べられた手作り祭壇、お気に入りの漫画が厳選されている本棚。いい歳こいても、いつまでも子供部屋さながらの、その落ち着く景観こそ、俺の鬱屈とした朝の気持ちを晴れやかにさせてくれるのに。


「……良かった。息子は……ユウトは、元気ですか?」


 後ろから、か細い声で女性の声がした。一言聞いただけなのに、なぜかその響きは心が穏やかになる感じがする。

 そのおかげか、思考も段々と通常運転に戻ってくると、その場所がどこかの医療施設だということが見てとれた。白を基調とした部屋一面に、医療器具と思わしき装置が視界の端に映っている。


「見た目は、元気そうなんだけどねぇ……さっきから、一向に泣く気配がなくて。珍しいわ」


 心配そうに、俺の顔を覗き込んでくるナースおばさん。あれ?なんか、デカくないか……?



 いや、違う。俺が、小さいのだ。


 それも正確には違う。俺はきっと、赤ちゃんなのだ。


「オギャアアアアア!!!」


 色々と分からないことはあるが、とりあえず俺は空気を読んだ。涙は出せないが、思いっきり叫べば泣いてるようにみえるだろう。

 泣くのが正解なのかは分からないが、元気なのに無用な心配はかけたくない。


 いらぬトラブルを避けるため、なるべく周囲の顔色を伺っては空気を読んできた人生経験が、体に染み付いていたのかもしれない。その瞬間、脳裏に今まで歩んできた思い出が走馬灯のようにフラッシュバックされる。




 あ、もしかして……俺、死んだのか?


 そして、再び生まれ変わった。そう考えれば、この状況にも辻褄が合う。異世界転生モノの漫画は大好物で免疫が出来ていたのか、意外と冷静に考えてる自分が怖い。

 そもそも、どうやって前世の俺が死んだのか、全く思い出せないし。それ以外の記憶は、ハッキリと残ってるというのに。


「よかった、よかった。ちゃんと、泣いてくれたわね。それじゃ、ちょっとゴメンね〜」


 嘘泣きに安堵してくれたナースおばさんは、俺を片手で抱きかかえながら、空いたもう一本の手で、怪しい注射器のようなものを取り出してきた。



 まさか、俺に打とうという気じゃないだろうな?待て待て、そんな工程知らないぞ。ここ、実は異世界でしたってことないよな⁉︎



「ちょっと、ちくっとするけど、我慢してね〜?」



 赤ん坊の俺が、抵抗など出来るはずもなく。されるがままに、注射針の先端がこめかみに突き刺さった。


 いや、そこに刺すんかい!!


 しかし、本当にちくっとしただけで、全く痛みは感じない。すると突然、網膜に謎の数字の立体映像が浮かび上がった。



“2424.10.23.16:32”



 この数字の羅列には、見覚えがある。おそらくは、現在の年月日と時間を表しているのだろう。

 それが、視界に映し出されること自体にも、もちろん驚いたのだが、まずはその“年”の部分の衝撃に驚愕してしまった。



 2424……2424!?



 この数字が、本当に予想した通り年号を表しているのならば、ここは俺が生きていた時代から約400年後の世界ということになる。異世界ではなく、未来の現代に転生してしまったということか。


 いや、待て。それこそが、本来の転生なのでは?ただ従来の転生と違うことといえば、こうして産まれた直後から前世の記憶をほぼ完全に受け継いでいるということぐらいか。




 俺の前世は、平均的な観点から見れば不幸な一生に分類されるものかもしれない。友達も彼女もおらず、フリーターとしてヲタ活しながらギリギリな生活を送っていたから。

 死に際こそ覚えてはいないが、孤独に生涯を終えたであろうことだけは容易に想像できる。


 しかし、それでも不幸ではなかった。大きい病気にもかからなかったし、素晴らしいアニメや、素敵なアイドル達とも出会えた。他人の目さえ気にしなければ、一人で自由気ままに生きていける人生に、自分自身は満足こそしていた。




 ただ、こうして生まれ変わることが出来たのならば今度は……全く違った人生を歩んでみたい、と。

 そう思う自分がいた。本当に人間という生き物は、ワガママなものだ。俺が人類代表みたいにいうのも、おこがましいが。


 今度は、送れるのだろうか?周りに気を許せる友や、愛する女性が共にあるリア充ライフを……!



 すると「ピコン!」という音が脳内に響き、視界のテキストが写し変わる。



 植村ユウト のスキル一覧


 基礎スキル


 威圧【rank7】

 言いくるめ【rank24】

 隠密【rank28】

 回避【rank15】

 聞き耳【rank40】

 近接戦闘(格闘)【rank8】

 芸術(絵画)【rank10】

 制作(料理)【rank23】

 跳躍【rank4】

 投擲【rank12】

 図書館【rank9】

 母国語(日本)【rank30】

 魅惑【rank7】

 目星【rank25】


 ユニークスキル


 妄想【rank80】


 各rank値に、転生ボーナスが加算されました







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