突然訪れた刑事

金融会社や、弁護士から電話があってからかなりの日数が過ぎ、綾子は電話があったことを忘れかけていた。

玄関のチャイムが鳴った。

綾子「はい、どちら様でしょうか?」と返事をすると「警察署から来ました」と答えがあった「ドアは開いています。どうぞ」と答え、綾子はスマホを持ち少し離れたところで身構えた。

入ってきたのは恰幅のいい男と、少しひょろっとした若い男。二人は警察手帳を提示して。「私は、警察署の、市原と申します。こっちは部下の高山。実は松崎秋男の借り入れについてお伺いしたいのですが」と恰幅のいい男。

「それは構いませんが、椅子を持ってきていいでしょうか、怪我の為長く立っていられませんし、正座も出来ないので」と綾子。「構いませんよ」と市原が言ったのを聞いた綾子は台所から椅子を持っ来て二人に距離を取って座った。

市原「保証人に、あなたの結婚時代の名前と住所が使われていたそうですね。離婚した日にちを証明する書類を見せてもらいたいのでが。裁判所の判決文と戸籍謄本です」

綾子「解りました、少々お待ちください」そう言って綾子は取りに行った。戻ってきて「これですが」と書類を市原に渡した。市原は書類の日付を確認していたが、

市原「確かに離婚日は契約書がつくられる何年も前ですね。印鑑証明はどうされました?」

綾子「それでしたら、戸籍を作ってから須藤に変えましたよ」と書類のファイルから現在の印鑑証明書を取り出して見せた。その書類を確認した市原は、

市原「柴田時代の実印はどうされました?」

綾子「そのまま自分が持ってますけど、お見せしましょうか?」

市原「お願いします」それを聞いた綾子は前の実印を取りに行った。

綾子「これが柴田の時の実印です。こっちは銀行印として使っていたものです」と言って綾子は二本の印鑑を市原に渡した。その印鑑を借用書のコピーと見比べていた市原は押されていた印鑑が全く違うことを確認した。

市原「借用書に押されている印鑑とは違いますね。ありがとうございました」市原は2本の印鑑を綾子に返した。

市原「それで、失礼とは思いますが、綾子さんの指紋を取らせていただきたいのです」

綾子「何のために?」

市原「借用書にあなたの指紋がないことを確認するためです。そうすればあなたが借用書のことを知らなかったという証明になります」

綾子「そうですね、解りました」

市原は高山に言って『須藤綾子』と書かれたファイルのようなものを取り出させた。高山はファイルを開け

高山「この面に両手の指を押し付けてください」

綾子は言われた通りに両手の指を押し付けた。が親指がうまく付かない。

高山「親指だけ下の方にもう一回押してください。左右を間違えないように」綾子が言われた通りにすると「ありがとうございました。」と言いファイルをカバンに入れた。

市原「あまり詳しく説明できませんが、少々面倒なことになっているんです。これからもお聞きすることがあるかもしれませんし、そちらから連絡したいことが出るかもしれません。高山が窓口になりますので、何かありましたら直接電話なりメッセージを送ってください」

高山「これが私の連絡先になります」と名刺を差し出した。綾子はそれを受け取り

綾子「私はラインをしていないので、電話かメッセージを送りますね」

市原「お願いします。それではお時間を取らせました。今日はこれで帰ります」と二人は帰って行った。


二人が帰って行った後、綾子は書類を戻してぐったりした。

自分に非が無いとはいえ、警察と話すのは気を遣う。ああいう人はちょっとした言葉の端から突っ込んできて疑がってかかるのが仕事だし。

「疲れた、コーヒーでも入れよう」と、綾子はお湯を沸かし始めた。

それにしても、面倒なことか。思っていたよりも大変な事になっているようね。ま、私には関係ない。指紋が借用書についていないことが証明されれば私も被害者側になるし。コーヒーを飲みながら綾子は前に考えていた通りに進んでいること、警察も指紋がカギだと思っていることを確信した。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る