願いは奈落への片道切符
多肉ちゃん
第1話豪華客船クルージングの旅
「いい天気ね、空は青いし、海も青い。来てよかったわ」と松崎千恵子は甲板でソフトドリンクを飲みながら、呟いた。
そこに夫である松崎秋男がやって来た。「また飲んでるかのか?何もしないで退屈じゃないのか?」と秋男は言った。
千恵子「50年主婦として毎日家事に追われていたんだもの、何もしないというのが一番のご褒美なのよ。貴方にはわからないかもしれないけれど。でも、ありがとうね。結婚当初から私が願っていた船旅に連れて行ってくれて。願いがかなったわ」
秋男「結婚した頃から言ってたからな、豪華客船で世界一周したいって。その頃は夢だと思っていた。いざ行けるとなって世界一周したくても体がついて行かないから太平洋一周になってしまった」秋男が残念そうに言った。
千恵子「豪華客船での旅には違いないじゃない。もうお互い歳だし今回が最後だろうから、願いがかなっただけで満足よ。そんなことより、楽しみましょうよ。折角来たんだし」と千恵子は明るく話した。
秋男は「そうだな」と返し海の方に目をやった。
二人は50年前に結婚お互い75歳も過ぎた。三人の子供と5人の孫。孫たちは全員成人した。ぼちぼち孫の結婚話が出てもいいころだ。ひ孫が出来るのもそう遠くはないだろう。今しかない。秋男は千恵子が結婚当初から言っていた豪華客船による船旅を金婚式のお祝いとして行くことを決めた。
身体がついて行かないと言っていたが、本当は世界一周するには資金が足りなかったから。このクルーズの資金も借金して用意したもの。
それともう一つ、千恵子の一つ下の弟は数年前に離婚をして一人暮らし。家事が全くできない弟の面倒を千恵子は見ていて、あまり長く家を空けることが出来ないということもある。
千恵子が『何もしないのがご褒美』と言っていたのはこうゆう背景があったからなのだ。
「まあ借金のことは何とかなるさ」と秋男は呟いた。その呟きは海へと消えて行った。
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