第12話

 今年の賤民夜叉の任命と聞いても、別段心躍ることはなかった。賤民夜叉は大概、武力に優れた大男がなるものだった。王が設けたその制度自体、優性思想を体現しているようで気持ちが悪かった。弱肉強食とは言うが、強さの定義なんてその状況により変わる。そもそも、「賤民たちに特別に権利を与えてやる」だなんて、傲慢も過ぎる。

 しかし、実際任命式に現れたのは、美しい女性だった。

 引き締まった黒い肢体は彼女の気高さを象徴しているようだった。寸分も隙がない動きは、戦いの中で培われたものだろう。赤い瞳は熱く生命の炎を宿し、そして何よりその白い髪は、王城の眩い照明を反射して、きらきらと光っていた。

 場違いな胸の高鳴りを表に出さないようにするので必死だった。ダキニ族、絶えたと聞いていたが、まさか。

 運命に感謝した。特に意識はしていなかったが、心の中でずっと探していたのだろう。そしてついに、出会ってしまったのだ。

 正妻を取るなら、あのひと以外の選択肢はもう思いつかない。

 賤民の差別がなんだ。あなたを幸せにするためなら、この不条理な世の中をいくらでも変えて見せよう。

 食べられたってかまわない。あなたが望むのならば、いくらでもこの身をささげよう。

 そして俺は、禁断の果実に、自ら口をつけたのだ。

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ダキニの恋 回向田よぱち @echodayopachi

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