ヒトの軌道から落ちたままの

   友よ 月の子よ 迷い月よ

 お前は今宵 風の大地に生まれるだろう

    翼をがれたからすとなって

 呂律ろれつ回らぬ詩の上で


さあ 片端かたわの黒き我が友よ

    しかと見たまえ

      あの紅い丘の上に独り立つ

    傷だらけの無様ぶざま暁鐘ぎょうしょうのイデアを!

      淡き御天みそらには

    ゼウスに仰向けにされた天使達の

  数多あまたの開ききった瞳孔を!

     おお そう怯えずともよい

            傍らに佇むのは

  憐れみ深い狼達の

      豊かな死骸の群れなのだから


未来の我が友よ     お前はこれから

         この世界の仮面の紐の全てを

     あたかも臆病という名の罪の如くに

  ひと思いに裁ち切ってしまわねばならぬ!

     ……せいの断崖を

         アブラハムの懊悩おうのう

  少々の緑青ろくしょうさえいとう太陽のみちを!

    お前の奇っ怪な足先に

        揺るがぬ虚無の旗を取り付けて 


            迷い月よ 地獄の君よ

        ヴィーナスから落ちた片腕よ

   翼き、なぎさち殴られし宝卵ほうらんの鴉よ!









……O, Lento, Lento!




     お前の風には もう星がない









(さだめし珍妙な光景に映るであろう

 我々の心臓しんのぞうをひと突きにした神の眼には!)

(……嗚呼 然別しかり 夕陽は遠く枯れるのみ

 呆然と立ち尽くす かなしき読者の背の向こう側に!)


 




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