第220話 火葬

 大陸西部

 ホラディウス侯爵領


 見渡す限りの死者の軍団に華西民国軍陸軍第二自動車化歩兵連隊連隊長の劉白雄大佐はため息しか出なかった。

 先程から連隊に配備された11式105mm装輪突撃車や10式装甲兵員輸送車式が、105 mm ライフル砲や車載式の80式汎用機関銃を発砲している。

 連隊の隊員達も死者の軍団を近づけないよう03式自動歩槍を装甲車両を盾に発砲している。

 一見、遠距離からの圧倒的な火力を背景に華西民国軍が無双しているように見えるが、劉大佐の気難しい顔がそうでは無いことを伺わせている。


「連隊長、第4中隊の収容が終わったと報告が!!」

「そうか、後送が済み次第、攻撃に参加しろと伝えろ」


 実は第二自動車化歩兵連隊は既に一個中隊が全滅しているのだ。

 全滅と言っても死亡した者は無く、中隊歩兵のほぼ全員が急接近してきたアンデッドドラゴンの『竜の咆哮』食らってしまい、気絶や恐慌状態に陥ってしまったのだ。

 アンデッドドラゴン自体は、装甲車両内で影響の少なかった11式105mm装輪突撃車の砲撃で粉砕したが、200人近い中隊隊員を保護すべく、同数以上の連隊隊員を割かねばならなかった。

 回収の為に折角の機動力も殺され、車営戦術を取らねばならなかった。

 幸いなことはアンデッドドラゴンは、炎を吐く等の特殊な攻撃はできないようだった。

 かつて『隅田川水竜襲撃事件』の水竜は水流を吐き、多大な被害をもたらせた記録がある。

 平戸市に現れたアンデッドドラゴンは、何も吐かなかったが、今回もそうとは限らない。


「アンデッドナイトの群れが後背にまわりつつあります。

 部隊を後退させませんと」

「駄目だ。

 ここを抜けられると三つの村がやつらに飲み込まれて、さらに連中が膨れ上がる。

 ここで食い止めないといかん」

「お言葉ですが、村人の数はたかが知れてます。

 それよりも連隊に被害を出す方が痛い」


 アンデッドナイトは通常、死亡時に所持していた鎧や武器を使用する。

 個体によっては騎乗していた馬や騎竜もアンデッド化させて機動力を得ていたりする。

 昨今では銃火器を装備し、遠距離攻撃までしてくる始末だ。

 最も個々のアンデッドナイトの銃火器では、装甲車両の装甲は抜けない。

 しかし、弾丸はどうやって補充してるのか、潤沢であり射程距離で圧倒できなければ、等に突き崩されていただろう。

 車営戦術は明の時代、戚継光や孫承宗によって対モンゴル騎兵を想定に考案された戦術だ。

 火器を搭載した車両とバリケードで円陣や方陣を組み、銃火器を持った歩兵がその内部から攻撃する。

 西洋風に言うならワゴンブルクだ。

 機動力と装甲を生かした蹂躙戦を考えていた劉大佐は出鼻をアンデッドドラゴンに挫かれて、この陣形を組むしかなかったが、街道から流出しようとする死者の騎士団を阻めなくなっていた。


「連隊長、自衛隊が来ました。

 敵中心部に空爆を実施すると」

「こっちの位置は発信し続けろ!!

 火力は迂回しようとするアンデッドナイトに集中、空爆の衝撃に備えよ」


 ,航空自衛隊第308飛行隊の第、F-4EJ改戦闘機3機から投下されたMk.82 無誘導爆弾、合計72発が死霊の群れを火葬し、爆砕する。

 炎に焼かれなかったグールやアンデッドナイトも爆風で残らず地面に倒れている。

 一部、人体の一部が前線部隊の頭上から散乱し、パニックになっている隊員達がいるので、参謀や副官達を落ち着かせに向かわせる。


「豪快に行ったなあ」

「続いて、我が軍の轟炸六型、1機が爆撃を行うと!!」


 自衛隊の攻撃で、焼け野原になっている戦場を見て劉大佐は爆撃の必要を認めることが出来なかった。

 いまだに数体のアンデッドドラゴンが、蠢いてるが、五体満足な個体はおらず、頑丈な鱗も皮膚を露出させて、損壊させている。


「爆撃は不要と伝えろ。

 車両部隊は前進、死人ども蹂躙せよ。

 歩兵部隊は後に続き、掃討戦だ。

 射ち漏らすなよ、一体残らず殲滅せよ」


 ようやく華西民軍も日本の中古車改造のテクニカルから卒業し、装甲車両部隊を揃えられる様になったのだ。

 活躍の機会を逃すわけにはいかなかった。






 領都ホラディウス


 侯爵領の首都である領都では、すでに自衛隊、米軍、華西軍が入り乱れて、要所を制圧、破壊を繰り広げていた。

 本来なら最優先に制圧しなければならない居城は炎上しているし、領邦軍の施設もミサイルや爆弾で跡形も無い。


「各ギルド施設はこちらで抑えましたが、騎士や文官の屋敷街は華西軍が侵攻しています。

 なかなか凄惨なことになっているようで」


 自衛隊の侯爵領進行部隊を統括する 第18即応機動連隊普通科大隊大隊長伊東信介三等陸佐は、仮司令部とした商業ギルドの本部で地図を眺めていた。

 状況を説明するのは同連隊、普通科大隊第3中隊中隊長の今俊博一等陸尉だ。


「武門の意地という奴ですかね?

 華西軍が侵攻しようとした屋敷街の大門前で男手は一人残らず抵抗して死亡。

 屋敷内でも女子供が自決或いは白刃振るい射殺となっています。

 華西の兵士達は略奪気分もあったようですが、気分が萎えちゃってますね。

 こちらが視察すると、整然とさせる気概はあるようですが」


 元々の領邦軍の将兵は前侯爵に殉じ、戦死したか、侯爵遺族の元に落ち延びている。

 今いる領邦軍は現侯爵であるホワイト元中佐が組織した皇国残党軍の兵士で組織したものだ。


「先の戦争から十年以上立つのに着いてきた家族だ。

 思想的にも染まってるんだろう。

 まあ、面倒な掃討戦は華西軍に押し付けるとして、米軍は何をやってるんだ?」


 米軍はアミティ島から海兵隊をMV-22 オスプレイで運び込んでまで領都に侵攻し、居城付近を捜索していた。


「連中の目的はホワイト元中佐の首印ですよ。

 奴には何度も煮え湯飲まされたから躍起になってます」


 今一尉自身、ホワイト元中佐が引き起こした『青木ヶ原・オブ・ザ・デッド』事件に参加していた当事者だ。

 色々思うところはある。


「しかし、この侯爵領はどうするんです?

 華西にくれてやる訳にもいかないし、放置する訳にもいかないでしょう?」

「そこは正統後継者に渡すさ」


 伊東三佐の言葉に今一尉は粉々になった居城を見て首を傾げる。


「話に聞くホワイト元中佐と無理矢理妻にされたエルザ夫人の子ですか?」

「違う。

 新京の侯爵家屋敷に残っていた嫡男のリディル殿だ。

 みんな忘れてるよなあ、やっぱり」


 先の戦争以来、ほとんどの貴族は新京に屋敷を構え、外交や社交の公邸として使用している。

 そこに子女を住ませて、留学兼人質の役割を負わせていた。

 ホラディウス前侯爵は、西部貴族としては日本に友好的であり、嫡男のリディルと次男、次女達にその差配を任せていた。

 その結果が、里谷実験農場の建設を始めとする侯爵領内政への、『サークル』と呼ばれる日本人内政研究会からの提言だったりする。


「『サークル』連中もえらく入れ込んでたからな。

 リディル殿を団長とする自由騎士団を支援してこちらに向かわせてるらしい。

 そうなったら後は引き継げばいいさ」


 最終的な面倒事は他者に押し付けるのが一番だった。





 チャールズ・L・ホワイトは一人、車から降りて、ミストラル級級強襲揚陸艦『ディクスミュード』を隠している海岸の洞窟に作った秘密の軍港に辿り着いていた。

 ここに来るまでの間に護衛の解放軍兵士やアンデッドは、全て殺られてしまっていた。


「自衛隊や海兵隊じゃないな?

 グリーンベレーか」


 かつての母国の特殊部隊の恐ろしさは良く知っているが、ここまでくれば『ディクスミュード』の装備や警備の解放軍兵士もいる。

 足止めしている間に艦を出港させてしまえば、連中も手も足も出ない筈だ。

 しかし、港に入った直後に解放軍兵士達が死体となって、転がっているのに気がついた。

 そして、複数の銃器を持った男達に囲まれているのた。

 北サハリン共和国軍第14独立特殊任務旅団。

 いわゆるスペツナズである。


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