第219話 腐る大地
航空自衛隊第9航空団第9飛行隊のF-2戦闘機から投下された12発のMk 82 通常爆弾は、優美な姿を誇っていたホラディウス城を一瞬して粉砕し、四散する岩塊に変えていった。
爆発炎上するホラディウス城をホワイトは、領都郊外の丘から見ていた。
さすがにエルナやユリーシーズ、仕えていた家臣達らが生きてるとは思えなかった。
「ならば未練はもう無しか」
ホワイトは自らに力を授かった無名の邪神に祈りを捧げる。
祈りはこの領内に配置した数万の魂が、大地に深く潜り込んでいく。
「我らも早く退くぞ。
この地は間も無く、人が住めなくなる」
これまで溜め込んだ数十万の悪霊を地に降ろした。
後は待つだけだった。
ホラディウス侯爵領
東側領境関所
侯爵領関所には、関所を防衛する解放軍の兵士達が、塹壕や土塁に身を潜めて、街道から来る自衛隊を待ち受けていた。
対称的に領反対側の子爵領関所の兵士達は、巻き添えを食っては堪らないと退避済みである。
やがて、複数の車両のエンジンが聞こえ、静かになった。
「来るぞ……」
やがて大砲の発砲音が聞こえたかと思うと、関所を封鎖する為の大門が爆発とともに吹き飛んだ。
衝撃に顔を伏せる兵士達に陣地に、今度は無数の銃弾が襲いかかった。
「敵襲!!
反撃せよ」
援軍のアテは無いが、後退の指示も来ていない。
関所にいるのは近隣の村からもかき集めた50人ばかりの兵士だ。
「一人でも多くの地球人を道連れにしろ!!」
関所に攻め込んだのは、第18即応機動連隊第一普通科中隊の二個小隊だった。
隊長細川直樹一等陸尉は装甲列車で中隊隊員と車両を侯爵領最寄り駅で降車後、中隊後続を待たずに一路街道を前進させていた。
司令部から早期の作戦開始を迫られたからだ。
目標の関所は、中隊長車の11式105mm装輪突撃車の105 mm ライフル砲で門を吹き飛ばし、各小隊に割り当てられていた10式装甲兵員輸送車式4両に車載されたブローニングM2重機関銃が、銃弾を関所手前の陣地に撒き散らしながら前進していく。
後部の兵員室からは、13名ずつの隊員が降車し、装甲車両を盾に塹壕や土塁で創られた陣地を一つずつ潰していく。
街道沿いの森からも敵兵士の銃弾が飛んでくるが、装甲車両は11式105mm装輪突撃車を中心に10式装甲兵員輸送車で鋒矢陣形を構成していた。
降車した隊員達は、装甲車両の傘の中で前進していたので、森からの攻撃はあまり効果がなく、車載式12.7mm重機関銃の前にすぐに沈黙させられた。
この間にも街道の最寄り駅では、西部線装甲列車が第1中隊第3、4小隊、南部線装甲列車が第2中隊の第1、2小隊を降車させてこちらに向かわせている。
時折、森から聞こえる銃声や悲鳴に細川一尉が、怪訝な顔するが、制圧射撃が全てを黙らせていく。
関所を突破し、宿場町の掃討戦
制圧に移行していたが、敵が現代戦術に対応出来つつあるからだ時間が想定より掛かっていた。
その時、細川一尉が乗車する11式105mm装輪突撃車が、装甲表面の爆発ともに大きく揺れた。
「敵、大砲確認。
宿屋の二階からです」
「こんな近接から撃ってきたか、105㎜で返信してやれ」
ピョートル改砲は、地球で言えば洋式帆船の艦載砲だったことからも移動が容易な大砲だが、宿屋の二階に持ち込むなど、ご苦労なことだと細川一尉は感心していた。
戦いの趨勢は決していた。
敵主力は陣地や関所屋敷ごと粉砕し、関所向こうの宿場町に街道から中隊後続の車両が雪崩れ込んで来ている。
「道は後続に譲れ。
各小隊は被害報告、中隊本部はこの宿場町におく。
町の公民館らしきものがあったら接収するから見繕っておけ」
第2中隊の11式105mm装輪突撃車が宿場町に入り、ハッチから中隊長木原一等陸尉が、顔を出して細川一尉に敬礼している。
第2中隊の役割は近隣の村の制圧で、第1中隊も後続部隊には同じ任務を与える予定だ。
各小隊からの被害報告は、戦死1名、負傷による戦闘不能は5名出ていた。
補充は中隊本部から出すので、各小隊に欠員はいない。
細川一尉としては早く、後続の伊東三等陸佐の普通科大隊本部に面倒ごとは押し付けたい気分だった。
侯爵領南部寒村
特に特徴もなく、特に敵もいない寒村に海上自衛隊のSH-60J 哨戒ヘリコプターが着陸していた。
護衛艦『いかづち』に搭載されていた機体で、同艦の立入検査隊隊を同乗させて、村を制圧させたのだ。
「まあ、こんな小さな村なら俺達でも十分だということだな」
「村人に聞かれないようにして下さいよ。
まあ、日本語なんてわからんでしょうが」
軽口を叩く立入検査隊隊長木島正道二等海尉を淡路俊典一等海曹が嗜めるが、その考えには賛成だった。
何しろ陸自のようなフル装備の陸戦装備は無い上に、『武漢』奪還作戦で弾薬なんて『いかづち』にはほとんど残ってなかったのだ。
半分くらいは日本国の権威と看板だけで降伏してもらった程度の話だ。
「自、自衛隊様!?」
困惑した村長が飛んでくる。
「墓から死体が、這い出て村を襲ってます」
「ああ、来ましたか。
予想はしてましたよ」
相手は『青木ヶ原・オブ・ザ・デッド』事件を起こした張本人だ。
アンデッドの戦線投入は予想の範囲だ。
霊体系が襲ってきたら、領内の奇跡の使い手を確保しつつ逃げの一手だったが、肉体を得たなら対処の仕様はある。
霊体系のモンスターは、手近に魂の無い死体があったらそれに入り込む傾向がある。
一つの肉体に数十体入り、対象は人間だけでなく、森に打ち捨てられた獣の死体でもありだ。
この村程度のグールの村なら海自の立入検査隊でも対応できる。
すでに複数の発砲音とSH-60J 哨戒ヘリコプターの74式車載7.62mm機関銃によるドアガンの斉射音が聞こえてくる。
「村民の避難は終わってますよね?」
「はい、あなた達の攻撃があるからと神殿に……
他の村も同じ様に立て籠ってる筈です」
グールの脅威は初見のインパクトと数による人海戦術だが、放置されていた死体はともかく埋葬された遺体は、一ヶ月もあれば一部が白骨化するくらいには腐敗が進んでいる。
村規模ならたいした数ではない。
少し大きな町も墓地はアンデッド対策に壁や鉄柵に囲まれて、墓守が監視している。
田舎の村でも木の柵で囲んでいる。
森の獣やモンスターの死体が放置されてる原因の大半は食べ残しだ。
部位の大半が欠落していて、動きが鈍く問題になら無い。
木島二尉はそう考えていたが、ヘッドショットを決めたグールの歩いてた地点がおかしいことに気がついた。
大地が黒ずみ、周辺の草木が枯れはて、腐り始めているのだ。
村の神官もこの異常事態に松明で黒ずんだ大地を炙ると、周辺の木々の腐蝕化は止まるがその場所はあまりに多い。
「私にも詳しいことはわかりませんが、あの黒い部分に邪な力を感じました。
村人も総動員して焼き払いたいのですが、安全の確保をお願いしてよろしいでしょうか?」
「我々の任務はこの村の確保と治安の維持です。
村人の安全に関わる事態なら喜んで承りましょう」
木島二尉の懸念はこの異常が、この村だけで起きてるのかだったが、すぐに各地の戦況を伝える無線が、この現象が侯爵領各地で起こっていることを伝えてきた。
また、領都近くに数千体に及ぶグールの行進が確認されたと報告があった。
解放軍に入れ代わられたかつての領邦軍将兵や家臣、反抗的な領民の成れの果てである。
ホワイトはそういった遺体を共同墓地と称した地下遺跡に集め、腐敗防止と武装化を行っていた。
このグール達は鎧甲冑を身に付け、剣や槍を手に持ち、暴れまわり大地を腐蝕化させているのだ。
小火器では簡単にでも頭部を防具で覆われると倒しにくくなっているのだ。
その中にはアンデッドナイトやアンデッドドラゴンも混じっており、通過地点の村を飲み込み、住民を仲間に加えつつ自衛隊の主力が集まりつつある領境を目指していた。
そんなグールの軍団に正面からぶつかったのは、領都制圧を目指していた華西民国軍陸軍第二自動車化歩兵連隊だった。
「とんだ災難だ。
空軍でも空自でもいいから航空支援を要請しろ」
連隊長の劉白雄大佐は頭を抱えながら攻撃命令を下した。
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